プレゼンテーションでの喋りがグダグダだった。得意気に発言したら間違っていた、ついつい感情的になってしまった、平坦な道で思いっきり転んだ! などなど、生きていれば恥ずかしい思いくらいしますよね。
でも、“恥ずかしい”という感情は、洞察力を強化し、成長を促してくれるそうですよ。「恥」を含む「否定的な感情」がもたらす恩恵について説明します。
ネガティブな感情の防衛メカニズム
心理療法士のエリン・レオナルド(Erin Leonard)博士によれば、否定的(ネガティブ)な感情は心に“痛み”をもたらし、無意識のまま【防衛メカニズム】を発動させるそう。
この【防衛メカニズム】を有効にするためには、“感情を受け入れる能力(emotional capacities)”が、自覚意識に入ってくることを許す必要があります。“感情を受け入れる能力”を構成するのは、
・内省・説明責任・洞察・後悔・脆さ・自己認識・恥・共感・心の広さなど。
たとえば、誰かの気持ちを傷つけて心が痛むのは、「後悔」している証拠です。レオナルド博士いわく、それは「“痛み”が『後悔』のかたちで自覚意識に入ったから」とのこと。とても不快な感情ではありますが、過ちを受け入れ、対人関係の修復を試みる“いい動機づけ”になります。同様に「内省」が自覚意識に入れば、誠実な言動となってあらわれるでしょう。
しかし、「後悔」や「内省」などが自覚意識に入ることを許さず、物事を捻じ曲げて捉え、否定し、むしろ傷つけた人を非難し、“痛み”から逃れ続けていると、状況はどんどん悪くなっていくばかり。精神的な機能不全を引き起こす可能性もあるそうです。
ネガティブな感情は人の成長を助ける
たとえば、仕事で悔しい思いをした人が、自分のパートナーや子供にイライラをぶつけたとき、“痛み”をともなう「後悔」「内省」「説明責任」を受け入れ、彼らになぜイライラしていたか説明し、詫びることができれば、相手はその謝罪を受け入れてくれるでしょう。
つまり、それは、「内省・後悔・説明責任」という“感情を受け入れる能力”により、対人関係が即座に修復された、ということです。成功体験ともいえるこの経験は、対人関係における自信にもつながるはず。
逆に、偏った考えで自分の言動を正当化し、相手を批判し続けていると、他者との関係はすっかり壊れてしまいます。
前向きな感情がいい、否定的な感情が悪い、というわけではなく、大切なのは、“感情を受け入れる能力”を自覚し、状況をよくしていくこと。それが、精神的な成長につながります。
恥ずかしい思いは洞察力を強化し、成長を促してくれる
成長には「恥」という感情も必要です。レオナルド博士いわく「激しい恥はしばしば洞察力を強化して成長を促す」とのこと。
「恥」を受け入れ、「責任」をもって「後悔」を行動にあらわすことができれば、非常に生産的なのだとか。自覚意識に深く刻まれるため、二度と同じ「恥」をかくこともなくなるそうです。たとえば感情的になったことを、激しく「恥ずかしい」と感じた場合、再び間違いを犯さないよう怒りを制御するからです。つまり、成長を促す「内省」につながるということ。しかし、健全な量の「恥」を感じることができなければ、成長は最小限にとどまってしまうそう。
また、自分が声を荒げたのは相手のせいだと「責任」を投影し、「恥」の不快感を免れた場合、本来なら得られていた「洞察」の機会をなくしてしまいます。
もちろん、程度をはるかに超えた「恥」の感情だと、人をマヒさせてしまう可能性があります。その感情に溺れ、自分は悪い人間だと信じ込んでしまうような場合は、専門家の助けが必要ですが、まったく「恥」を感じないのも問題だということです。
ビジネスシーンで「恥」を生かすには?
ビジネスシーンにおいて「恥」を生かすことが感覚的に難しければ、感情を受け入れる能力=「内省・説明責任・洞察・後悔・脆さ・自己認識・恥・共感・心の広さ」に、考えを当てはめていくといいかもしれません。たとえば【プレゼンテーションでの喋りがグダグダだった】という場合。
1. 内省:「うまく喋れず目的も果たせなかった」 2. 洞察:「うまく話そうと意識しすぎたからうまくいかなかった」 3. 後悔:「上司の期待を裏切ってしまった」 4. 脆さ:「いいところを見せようとするのが自分の弱さ」 5. 自己認識:「思うほどプレゼンがうまくない? もっと訓練すべき?」 6. 恥:「とても恥ずかしかったのは逃れようのない事実」 7. 共感:「プレゼン下手だとレッテルをはられている人の気持ちがわかった」 8. 心の広さ:「動揺を隠すより、失敗を認めたほうがいい」 9. 説明責任:「上司にこの分析を伝え謝罪しよう」
無理にすべて当てはめる必要はなく、項目をスキップするのは自由です。こうして考えていけば、一時の「恥」があなたの洞察力を強化し、成長を促してくれるはずです。
「感情を受け入れる能力」を身につけるコツ
レオナルド博士は、“感情を受け入れる能力(emotional capacities)”を欠いていると、滅多に深い「恥」を感じないと説明しています。しかし、普段はできていても、心に余裕がなく、感情の受け入れが難しいことだってあるでしょう。そんなときは、以下2つの方法で心に余裕を与えてください。
・適度にデジタルな情報をシャットアウトする ・徹底的に好きなことだけをする時間をもつ
脳には知的中枢の「大脳新皮質」と、本能と感情の中心となる「大脳辺縁系」がありますが、あまりにも情報過多になると、「大脳新皮質」から「大脳辺縁系」への情報の流れが一方的に増大し、脳内がバランスを崩してしまいます。
また、常に理性的な「大脳新皮質」が、「ああしなさい」「こうしなさい」「こうすべき」と命令的かつ抑圧的に、「大脳辺縁系」の好きなことや、やりたいことを無視し続けていても同じことが起こります。
たとえば大好きな友人と会話を楽しんだり、運動したりする時間を設ければ、その間だけでもパソコンやスマートフォン、タブレットの情報をシャットアウトできます。なおかつ、好きな食べ物や、趣味を存分に楽しむ時間を持てば、自然と心に、つまりは脳内にサーッと「余裕のスペース」ができるでしょう。
*** ちなみに、「嫌なことがあったから飲んで忘れよう!」は大間違い。東京大学の松木則夫教授らは2008年の研究で、アルコールはむしろ記憶を強化すると明らかにしています。松木教授は嫌なことを忘れたいなら、お酒に頼らず、早い段階で楽しい記憶を上書きするほうがいいとすすめていますが、ここは受け止めて、グンと成長してみては?
(参考) Psychology Today|Are You Ashamed of How You Feel? BOOCSクリニック福岡|脳疲労とは 東京大学|「お酒を飲んでも嫌なことは忘れられない?」 Neuropsychopharmacology|Ethanol Enhances Reactivated Fear Memories