「早起きは三文の徳」という言葉があるように、一般的に早起きは良いものだと昔から言い伝えられています。しかし、それを毎日実践することはそれほどたやすくありません。
実は、科学的根拠に基づいた方法をとれば、早起きが苦手な人でも得意になることは可能です。実際、筆者も以前はあまり早起きが得意ではありませんでしたが、今ではとても得意になってしまいました。
今回のコラムでは、早起きを得意としたい方に向けて、お勧めの早起き実践法を紹介します。筆者が実際にやってみて成功した方法もお伝えいたします。
睡眠のメカニズムについて
睡眠の調節を主に担っているのは、人間の脳内の視床下部という部分と脳幹の一部。この領域における神経細胞同士が相互に関わり合うことによって、睡眠のサイクルは作られています。
人間が眠っている間は、約90分周期の浅い眠り(REM睡眠)と深い眠り(non-REM睡眠)を繰り返しています(REM: rapid eye movement; 急速な眼球運動)。例えば6時間の睡眠では、この90分周期の睡眠単位が4回ほど繰り返されるというわけです。就寝後、はじめは眠りの深いnon-REM睡眠が多く出現しますが、次第に浅いnon-REM睡眠やREM睡眠とよばれる睡眠が増え始めます。REM睡眠のとき、人は夢を見ているのです。
また、人間には、概日リズムというものが備わっています。これは体内時計のような存在で、睡眠・覚醒のサイクルはこの概日リズムに基づいています。睡眠と覚醒のサイクルだけでなく、ホルモン分泌、血圧や体温調節など私たちの生理機能のほとんどは、概日リズムによっておよそ24時間リズムで変動しているのです。
早起きにつながる良質な睡眠とは
では、早起きにつながる良質な睡眠をとるコツはいったい何でしょうか。先ほども書きましたように、人間の体内では概日リズムに一致した覚醒睡眠サイクルが作られています。このリズムをきちんと保つことこそが、質の良い睡眠を続けるカギ。そのための具体的な方法をいくつか紹介しましょう。
・最初の90分間にできるだけ深く眠る。
最初の90分間にどれだけ深い眠りにつけるかが睡眠の質を左右します。これは、ベストセラー睡眠本の『スタンフォード式 最高の睡眠』にも書かれていること。就寝後すぐに深いnon-REM睡眠に入れば、それ以降のREM睡眠→non-REM睡眠の周期がスムーズに繰り返されるのです。
・浅い睡眠(REM睡眠)を起きる直前に持ってくる。
これは、朝の目覚めをよくするためには起床時間の直前に浅い睡眠であるREM睡眠が来ればよいという考えです。そのことを想定し、起床予定時間から逆算した上で就寝時間を考えると良いでしょう。
・寝る前の覚醒行動は避ける。
寝る前にスマートフォンを見たりテレビを観ていたりすると、脳は覚醒すべき時間だととらえ、睡眠が誘発されにくくなり覚醒状態が保たれてしまいます。眠ろうとしても眠りに就くことがより難しくなるのです。寝る前に脳を覚醒させる行動はやめましょう。
早起きをするコツ その1:自分の睡眠リズムを知る
ここからは、早起きをするために具体的に取るべき行動を紹介します。1つ目の方法は、アプリを使って自分の睡眠状態を把握すること。
SleepMeisterというスマートフォンのアプリをご存じでしょうか? これは、自分の睡眠の質を計測し記録することができるアプリ。スマートフォンを体の隣に置いて眠るだけで、体動を検知して眠りの深さを測り、眠りの浅くなったタイミングでアラームを鳴らしてくれるのです。
先ほども記した通り、スムーズに早起きするために大事なのは、REM睡眠、つまり眠りの浅い睡眠時に起きること。このアプリを使えば、実際の睡眠の状態を把握することができ、本当に眠りが浅くなったタイミングで起きることができます。
また、自分の睡眠の質に関するデータは、下の写真のようにグラフとデータで表されます。このアプリを使用し、ご自身の眠りの周期を把握したうえで、睡眠時間および入眠時間の設定を行うと良いでしょう。(このアプリはiPhoneのみで使用できます)
(画像は筆者が実際に利用しているアプリの画像)
早起きをするコツ その2:朝の陽ざしをすぐに浴びる
2つ目の方法は、起きてすぐに朝日を浴びるというもの。起きたらすぐにカーテンを開けて、朝日を浴びる習慣をつけましょう。これこそが、早起きが得意になるために必要なステップです。
人間が太陽の光を浴びると、脳からセロトニンというホルモンが放出されます。セロトニンは、睡眠–覚醒リズムのほか、気分・食欲・痛み・攻撃性・および認知機能を調節するホルモンです。
このセロトニンの分泌は、目に入る光の量の影響を大きく受けています。太陽の沈んだ夜や睡眠中には分泌されず、明るい光が目に入ることで分泌が活発になるため、朝起きたら朝日を浴びて脳を目覚めさせ、セロトニンの分泌を開始させることが大事なのです。
ちなみに筆者は、目覚まし時計をあえてカーテンの近くに置いていて、時計のアラームを止めると同時にカーテンを開けることにしています。カーテンを開けた状態で寝るのも良いでしょう。また、筆者はカーテンを開けるついでにコップ1杯の水を飲むようにしています。起きてすぐに消化管を動かすと脳に刺激が伝わり、臓器も活動し始めると考えられているので、よりスムーズに起きられますよ。
早起きをするコツ その3:早起きする楽しみや目的を作る
3つ目の方法は、早起きの目的を作るというもの。上記のことを実践したうえで、さらに確実に早起きをするために、ご自身が早起きしてやりたいこと、やらなければならないことを作るのはいかがでしょうか?
例えば、朝ごはんを大好物なものにする、起きたら10分間ヨガをする、課外活動として朝活に参加する、読みたかった本を読む、勉強をする、録りためていたドラマを見るなど、「起きたら何をするか、何をしたいか」を考えておくのです。
例えば、筆者は受験勉強をしていた際、人より多く勉強時間を確保するために6時に起床し、7時くらいになると朝の情報番組を見ながら朝ごはんを食べるといったルーティーンを組んでいました。「どうしても受かりたい」という強い気持ちがあれば早起きのハードルは下がるのだなということを、この経験から学びました。受験でなくとも、強い目的を持つことは早起きするうえで効果的だと思います。
また、別の時期に飲食店でアルバイトをしていた際には、朝7時から始まるシフトに入り、早起きしていた経験もあります。自分が行かなければ店が開かないという責任ある状況だったのもひとつの要因ですが、いくら朝が早くても出勤すればお給料がもらえるので、頑張って早起きすることができました。早起きしたいなら、報酬や褒美を用意しておくのもお勧めです。
*** 根性だけで早起きを得意にするのは難しいもの。ぜひ上記の方法を試して早起きを実践してみてください。とはいえ、毎日無理して続ける必要はありません。週末は朝寝坊をしながら、勤務や学校のある平日のみ早起きを継続するといった具合でも構いません。徐々に早起きを習慣づけましょう。
(参考) 西野精治(2017),『スタンフォード式 最高の睡眠』,サンマーク出版. Eric Kandel, James Schwartz, Thomas Jessell, Steven Siegelbaum, A.J. Hudspeth(2012), Principles of Neural Science, Fifth Edition, McGraw-Hill Professional. 金澤一郎・宮下保司監修, Eric R. Kandel, James H. Schwartz, Steven A. Siegelbaum, Thomas M.Jessell, A. J. Hudspeth(編集)(2014),『カンデル神経科学』,メディカルサイエンスインターナショナル.