どんなに考えてもアイデアが出ないなら、いったんその場を離れ、ボーっとしてみてください。そのとき、あなたの脳は、ひらめいたときの脳と全く同じように電気信号が大量発生し、活発に活動するはずです。つまり、ボーっとすることで、限りなくアイデアが出やすい状態に近づけるのです。

ボーっとすると「ひらめく」不思議

「どんなに考えても全くアイデアが出ず困っていたのに、子供をお風呂に入れたあと、ボーっとしながらシャワーを浴びていたら、突然アイデアがわいて、つい大声を出してしまった」そう語るのは、2012年のノーベル生理学・医学賞をジョン・ガードン氏と共同受賞した、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長。そのときの「ひらめき」が、あのiPS細胞につながっているそうです。

ボーッとしているときにリンゴが落ちるのを目にして、「万有引力の法則」を思いついたアイザック・ニュートンの逸話も有名ですよね。

また、古代ギリシャの科学者アルキメデスは、ボーっとしながらお風呂に入っているとき、湯船からあふれ出るお湯を目にして「アルキメデスの原理」のヒントを思いついたそうです。このときアルキメデスは、王冠に「金」以外の混ぜ物が入っているかどうか“王冠を壊さずに調べるよう”王様から命じられ、困り果てていたのだとか。ひらめいたときは裸のまま浴場から飛び出て、叫びながら走っていたと伝えられています。結局このひらめきで、アルキメデスは王からの命令を達成できたのです。

では、なぜこのように、ボーっとしているときほど「ひらめき」が生まれるのでしょう。

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“ひらめき脳” と “ぼんやり脳” は似ている!?

京都大学脳機能総合研究センターにある世界最高性能のMRIを使い、芸人で芥川賞作家としても活躍する又吉直樹さんの脳を調べたところ、「ひらめいたときの脳」の活動範囲と、「何も考えずボーっとしているときの脳」の活動範囲が、ほぼ同じだということが分かりました。

ひらめいたとき、人間の脳は激しく電気信号が行きかい、広い領域が一斉に活動している状態になります。しかし、不思議なことに、何も考えないようにしているときも、脳は同じように激しく電気信号を行きかわせているのです。

この状態を「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」といいます。

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デフォルト・モード・ネットワークの状態とは

以前であれば「何も考えずにボーっとして休憩しよう」と考えましたが、最新の研究ではボーっとしているときほど、脳が活発に活動していることが分かりました。その脳のネットワークシステムが、「デフォルト・モード・ネットワーク」です。車にたとえるとアイドリング状態ですね。

デフォルト・モード・ネットワークにおいて中心的な役割を果たすのは、記憶に関わる脳の領域「海馬」。この状態のときの脳は、何か課題に取り組んでいるときよりも20倍ほど活発になっているのだとか。また、脳が使う全エネルギーの7割も消費するそうです。

そして、このとき私たちの脳は、無意識のうちに「記憶の断片」をつなぎ合わせていると考えられています。これが、思わぬ「ひらめき」を生み出してくれるというわけです。

記憶を呼び起こしたり、未来を想像したりなど、たくさんの重要な役割を持つデフォルト・モード・ネットワークは、脳神経外科医の奥村歩氏によれば、脳を健全に維持していくうえでとても重要なのだとか。そして、主な役割は「自分を取り戻すこと」だといいます。集中して仕事をしているとき、私たちは我を忘れてしまいますが、ボーっとしているとき「我に返って自分を取り戻すことができる」からです。

「意識」と「無意識」のメリハリが必要

しかし、何事も過度になるといいことはありません。理化学研究所の報道発表資料(2013年10月17日)によれば、精神障害を持つ人の脳は、このデフォルト・モード・ネットワークの活動が過剰になると指摘されているそう。

「ひらめく」からといって、常に脳をデフォルト・モード・ネットワークにしておくことが良いのではなく、頑張って仕事をしたら、頭を切り替えて散歩をしたり、カフェに座って、景色や行き交う人を眺めながらボーっとコーヒーを飲んだりすることが大切です。

また、集中して仕事に向き合ったら、適度な時間で切り上げて、ゆっくりお風呂に入ったり、シャワーを浴びたりするなどして、

「意識的に頭を使う」←→「ボーっとする(無意識に頭を活動させる)」

といったメリハリを持たせることが、「ひらめき」を得る秘訣になるはずです。できる人ほど切り替え上手で、息抜き上手というのは、こうした脳のメカニズムが関係しているのかもしれませんね。

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ニュートンが在籍していたケンブリッジ大学・トリニティカレッジには、いまも「ニュートンの木の末裔」が植えられています。頭をフル回転させる日々の合間、たびたびニュートンはその木を眺めてボーっとしていたのかも?

散歩コースでも、お気に入りのカフェでも、公園のベンチでも、自分にとっての「ニュートンの木」を持ち、アイデアが浮かばない状態が続いたら「そうだ、ニュートンの木を眺めに行こう」と、思い切って仕事場の椅子から腰を上げてみましょう。きっとデフォルト・モード・ネットワークが活発化して、思わず叫んでしまうような「ひらめき」が生まれますよ!

(参考)
幻冬舎plus|奥村歩|ニュートンやアルキメデスのひらめきは“ぼんやり”から生まれていた<脳の老化を99%遅らせる方法
+Wellness プラスウェルネス|プラスコラム|「ぼんやり時間」がひらめきをもたらす
NHK健康ch|NHKスペシャル「人体」”脳”すごいぞ!ひらめきと記憶の正体
ロンドンナビ|学問と宗教の町、ケンブリッジを歩く~トリニティカレッジ編~
Wikipedia|アルキメデスの原理
Wikipedia|山中伸弥
理化学研究所|脳内ネットワークの過剰な活動が統合失調症の症状に関与