仕事で成果を出すためにはなにが必要でしょうか。持って生まれた才能や環境、意志の強さ、努力の量――。それらもたしかに重要なものでしょう。でも、なによりも心身ともに健康でなければ、本来持っているはずのパフォーマンスを発揮するどころではありません。国内における自律神経研究の第一人者である小林弘幸先生が、心身を健康に保つための「休息」の習慣を教えてくれました。
構成/岩川悟、清家茂樹 写真/川しまゆうこ
手書きでていねいに文字を書くと、 心がゆっくり整っていく
自律神経のバランスを整えるためには、読んだり口にしたりする言葉だけでなく、自分がいつも書く文字にも注意を向けてみてください。いつも急いで文字を汚く書き散らしていては、自律神経はやはり乱れがちになります。
わたしがこういうと、なかには「そういえば最近、手書き自体していないな」と気づく人もいます。そう、いまはパソコンやスマートフォンでいくらでもコミュニケーションが取れるので、手書きする習慣自体が減りつつあるのです。
もちろん、デジタル化は悪いことではありません。ただ、ときには手書きでゆっくりとていねいに文字を書くことで驚くほど気持ちが穏やかになり、自律神経のバランスが理想的な状態になっていきます。
ていねいに文字を書くことは、ふだんの行動にいつでも取り入れることができます。文字を書くことが減ったからこそ、日記や手紙を書く機会があればぜひていねいに、ゆっくりと文字を書いてみてください。
心が整って、集中力も増していくはずです。
休息は、「働く前」に取る。 週に1日、2時間早く起きて、パフォーマンスを高めよう
休息といえば、疲れたあとに取る人がほとんどではないでしょうか? たしかに、本当に疲れたときはしっかり休息を取ることは大切なことです。しかし、1日中パソコンなどを使って働いたあとに、帰宅してだらだらテレビやスマホを見ていても、目に刺激を与えたり、神経を高ぶらせたりしてけっして質の高い休息は取れません。
そこで、気持ちいい休息を取るために、わたしが実践しているのが、週に1日、2時間早く起きて働く前に休息する方法です。わたしの場合は4時に起きることになりますが、これが本当に気持ちのいい時間なのです。早朝なので家のまわりは静まり、ていねいにコーヒーを淹れて飲むこともできる。自分だけのリラックスタイムを存分に味わうことが可能なのです。
わたしはこの時間でその日の計画はもちろんのこと、少し長期的な目線で旅行の計画を立てたり、今後の生活スタイルについてゆっくり考えたりしています。そこでは時間に追われないので、とても満ち足りた気持ちで休息することができるのです。そうしてはじまった1日は、パフォーマンスが高まりやすいのはいうまでもありません。
さらに、その日は夜も寝やすくなって、睡眠リズムを整えることもでき一石二鳥。ぜひいちど試してみてください。
*** 多くの社会人が、日々の業務に追われ、多忙な毎日を送っています。特に、これから多くの成果を挙げて「のし上がってやろう!」と思っているような強い向上心を持つ人であれば、それこそ「休息」を後回しにしがちです。でも、必死に頑張るあまり心と身体に過度のストレスを溜め込み、パフォーマンスの質が落ちては本末転倒。小林先生の言葉を胸に、積極的な休息を取り入れてみてはいかがでしょうか。
※今コラムは、小林弘幸著『自律神経を整える名医の習慣』(セブン&アイ出版)をアレンジしたものです。
【小林弘幸先生 ほかの記事はこちら】 一流外科医が「準備」に全力を注ぐ理由。成功を引き寄せられる人は何が違うのか? 名医がやっている超集中法。「見ざる、聞かざる、いわざる」で周囲をシャットアウトせよ。
【プロフィール】 小林弘幸(こばやし・ひろゆき) 1960年生まれ、埼玉県出身。順天堂大学医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクター。順天堂大学医学部卒業後、1992年に同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任。国内における自律神経研究の第一人者として、アーティスト、プロスポーツ選手、文化人へのコンディショニングやパフォーマンス向上指導をおこなう。著書には、『医者が考案した「長生きみそ汁」』(アスコム)、『自律神経を整える「わがまま」健康法』(KADOKAWA)、『自律神経の名医が実践「寝入りが9割」の睡眠技術』(ポプラ社)、『健康の正体 医師としてどうしても伝えたいことがある』(セブン&アイ出版)などがある。