社会人であれば、誰もがつねに持てる力を発揮し、最大限のパフォーマンスを上げたいと思っていることでしょう。それを阻害するものとはなんでしょうか? オフィスの環境、上司や部下との人間関係などが良くなければ、パフォーマンス向上の阻害要因となり得ます。それらにいかに対処すればいいのか――。国内における自律神経研究の第一人者である小林弘幸先生が、その秘策を教えてくれました。
構成/岩川悟、清家茂樹 写真/川しまゆうこ
「他人」と「周囲」を意識していると、 パフォーマンスが低下する
パフォーマンスを下げる最大の要因とは、「意識すること」です。このとき意識しているのは、「他人」と「周囲」に向けたものがほとんど。およそ失敗や不調というものは、「他人」や「周囲」を必要以上に意識したために起こることがとても多いのです。
たとえば、誰かにいいところを見せようとして行動することは典型的なパターン。逆に、上司や先輩に怒られないようにびくびくしながら行動するのもうまくいかないパターンといえるでしょう。
さらに、人のミスや言動によってイライラしたり、愚痴や悪い噂を耳にしたりして心がざわつくだけでもパフォーマンスは低下していきます。
つまり、自分にはコントロールできない「他人」や「周囲」を意識することで、多くの失敗や不調が生み出されているのです。
このことを意識できているならまだマシなほうかもしれません。最悪の場合、そうしたことがあたりまえになってしまい、自分でも気づかないうちにストレスを溜め込んで、どんどん神経をすり減らしてしまうのです。
逆にいえば、どんなときでもコントロールできる自分に集中することが、自分らしい力を発揮する大きなポイントとなります。
「見ざる、聞かざる、いわざる」で、 自分らしい力を出すことができる
他人や周囲への意識を手放していくためには、やはり自らが意識して、それらをシャットアウトしていく必要があります。そこでわたしがおすすめしているのが、あの日光東照宮にある有名な彫刻『三猿』の、「見ざる、聞かざる、いわざる」を人間関係などに取り入れる方法。
たとえば「見ざる」なら、スマホで不快なニュースを見たり、SNSで余計な情報を頭に入れたりしないことがそれにあたるでしょう。とくにSNSは自己顕示と他人への誹謗中傷がうずまいているので、わたしは極力見ないようにしています。
そして「聞かざる」なら、とにかく他人の愚痴や悪口を聞かないこと。他人や周囲がそのような雰囲気になったら、わたしは誰になにを思われようと、すっと席を外します。ネガティブな言動は、聞いているだけで自律神経のバランスを乱していくからです。
最後の「いわざる」なら、余計なことを口走ってわざわざストレスフルな環境をまねかないこと。たとえポジティブな意味合いでも、ちょっとしたほめ言葉やこびへつらいによって、面倒な人間関係が生まれます。
他人や周囲はコントロールできません。いつでも自然体で自分らしい力を発揮したいのであれば、自分から積極的に、他人や周囲からの悪影響をシャットアウトしていきましょう。
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コントロールできないものはシャットアウトし、コントロールできる自分に集中する――。自分の意志でコントロールできない自律神経の研究者らしい言葉でした。もちろん、「他人」といっても重要なクライアントなど絶対に意識しなければならない他人もいます。自分の価値を高めるために重要な他人や周囲はしっかり意識し、そうでない他人と周囲はシャットアウトする。そういった使いわけのトレーニングが大切なのでしょう。
※今コラムは、小林弘幸著『自律神経を整える名医の習慣』(セブン&アイ出版)をアレンジしたものです。
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【プロフィール】 小林弘幸(こばやし・ひろゆき) 1960年生まれ、埼玉県出身。順天堂大学医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクター。順天堂大学医学部卒業後、1992年に同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任。国内における自律神経研究の第一人者として、アーティスト、プロスポーツ選手、文化人へのコンディショニングやパフォーマンス向上指導をおこなう。著書には、『医者が考案した「長生きみそ汁」』(アスコム)、『自律神経を整える「わがまま」健康法』(KADOKAWA)、『自律神経の名医が実践「寝入りが9割」の睡眠技術』(ポプラ社)、『健康の正体 医師としてどうしても伝えたいことがある』(セブン&アイ出版)などがある。