マンダラート——ご存じの方も多いのではないでしょうか。今やメジャーリーグで大活躍するまでになった大谷翔平選手が高校時代に作っていたことで話題を呼び、アイデア発想や思考整理のツールとしてビジネスの世界でも広く使われています。

改めて説明すると、マンダラートとは、3×3の9個のマスを持った正方形がさらに3×3に配置された、フレームワークの一種です。真ん中の正方形の中央のマスにメインテーマを記入し、それに関連する8つの要素をまわりに書き込みます。そして、それら8つの要素を周囲の正方形の中央に書き写したうえで、それぞれについて、関連する要素をさらに8つずつ考えていくのです。

大谷選手が作っていたという事実、そして見た目のインパクトから「なんだかすごそう」という印象は受けますが……。マンダラートを作ったことのない、わたくしSは、ふと思ったのです。

このマンダラート、本当にすごいのだろうか?
作るのは大変そうだけれども、実際のところ使い勝手はいいのだろうか?
良さばかり注目されているが、意外なデメリットなんてあったりしないのだろうか?

とはいえ、自分で作ってみるのは億劫です。そこで、オフィスを飛び出してみることにしました。

2年ぶりの再会

都内某所にあるオフィスの会議室。編集部Sは、ある人物を待っていました。


(コンコン)


(ガチャ)

???

こんにちは。

編集部・S

こんにちは、そしてお久しぶりです!

【渡邉慎平(わたなべ・しんぺい)】
ナイル株式会社
社長室 採用人事マネージャー
慶應義塾大学卒業後、ナイル株式会社(当時ヴォラーレ株式会社)に新卒入社。Webコンサルタントとしてグリー様やベネッセ様をはじめとする300社以上のWebマーケティング支援に携わり、30名弱の組織のマネージャーを経験。2018年5月に社長室に異動し、採用と広報を担当。

ナイル株式会社において採用責任者を務められている渡邉さん。社内異動前はWebコンサルタントのエースとして第一線でご活躍されていたという経歴をお持ちで、300以上の案件に携わられるなか、StudyHackerもご担当いただいていました(StudyHakerが100万PV級のメディアに育ったのは渡邉さんのおかげと言っても過言ではありません)。

そのようなご縁もあり、面倒くさがり屋なSは「記事に客観性が欲しい」という大義名分のもと、渡邉さんにマンダラートを書いていただき感想を聞いてみようという妙案を思いついたのでした。

編集部・S

……というわけで、突然こんなお願いをしてすみません。

渡邉さん

いいえ、むしろ取材のお声がけありがとうございます。嬉しいです!

編集部・S

渡邉さんはマンダラートをご存じでしたか?

渡邉さん

はい。ちょうど2年ほど前に、StudyHackerでも『勉強にも仕事にも! 大谷翔平も使う『目標達成マンダラート』がすごい』で取り上げていましたからね。ただ、自分で実際に作ってみたことはないです。

編集部・S

それではさっそく……

編集部・S

お願いします!(お忙しいのに恐縮です……)

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「採用成功」のマンダラートを作ってもらった

渡邉さんが作成してくださったマンダラート

編集部・S

おお! なんだかすごそうなマンダラートが出来上がりましたね!(「アルムナイ」とか「RPA」とか聞いたことない……)

渡邉さん

中心には、最大のミッションである「採用成功」を置かせていただきました。

編集部・S

そして「チーム・体制づくり」「採用の目的」「どうやって採用するのか」「採用広報」「事業理解」「人事に必要なもの」「選考内容」「職種理解」と広がり、そこからさらに細かく72個の要素に分かれましたね。率直に、実際にマンダラートを作ってみてどうでしたか?

渡邉さん

ある1つの項目を8つに分解し、それぞれをさらに8つに分解し——このように、マンダラートは枠組みが決まっていますよね。まっさらで自由度が高すぎる環境よりも、何かしらの条件や制約が与えられた状態のほうが、人間は考えやすい。頭の中でバラバラだったピースたちが仲間ごとに分類され、思考が体系的に整理されるという良さは実感しました

編集部・S

やっぱりマンダラートのすごさはそこですよね。81個のマスすべてが整然と埋まっている——視覚的にも圧巻の威力を感じます。

渡邉さん

だから、コミュニケーションのツールとしても使えますよね。チームメンバーや上司に対して、ただ口頭で述べ立てるだけでなく「〇〇を実現させるために必要な要素はこれらです」とか「全体の中でこの部分を動かしています」とか、直感的にわかりやすく可視化できるわけですから。

編集部・S

なるほど。単なる思考整理にとどまらず、コミュニケーションの場面でも有効活用できるフレームワークと言えそうですね。

渡邉さん

ただ……難しさや使いづらさを感じなかったわけではないんです

編集部・S

!?

実際に作ってみてわかった、マンダラートの意外すぎるデメリット

渡邉さん

例えば、有名な思考ツールとして「マインドマップ」がありますよね。中央のセントラルイメージから、思考やアイデアを放射状に枝分かれさせていく。マンダラートの構造とも似ていますが、決定的な違いがあります。

編集部・S

それは何でしょう?

渡邉さん

枝の数に制限がないということです。思考がどんどん広がる箇所は無限に広げていけますし、逆に、広がっていかない箇所はそこで止めてもかまわない。

編集部・S

なるほど。

渡邉さん

一方でマンダラートの場合は、1つのテーマを8つに分解するという条件がありますよね。じゃあ仮に要素が9個以上出てきたときにどう取捨選択するかとか、逆に8個に満たない場合はどう増やせばいいのかとか、そういう問題も生まれてきてしまうと思うのです

編集部・S

枠組みがきっちり決まっていると、逆に不自由な部分もあるのですね。

渡邉さん

実際に今回も、マンダラートを作っていくなかで、全然広がっていかないなという要素が2つほどありました。結局、それは別のものに差し替えて、なんとか枠を埋めたという感じです。

編集部・S

確かに、よく考えてみたら、必ずしも8個に分解されるわけではないですからね。

渡邉さん

また、「採用成功」を構造分解したときに、はたしてこれらが本当に正確な変数なのか、という問題もあると思います

編集部・S

と言いますと?

渡邉さん

MECE的に漏れなく考えていくというよりは、アイデアベースで最初に思いついたものが変数になってしまったのではないかと。つまり、「採用成功」が8つのテーマに分解されていますが、それらを集合させれば本当に採用成功になるのかというと、必ずしもそうではないのではないかと思うのです。

編集部・S

マンダラートに書いたもの以外にも、採用成功のために必要な要素が存在する可能性がある、ということですね。ロジックが微妙に通っていない気持ち悪さ……気になる人は気になるかもしれませんね。

それでも、枠組みがあるマンダラートは思考整理に便利

編集部・S

ところで……私はいつも記事を編集しているばかりなので採用人事方面には全く詳しくないのですが(スミマセン……)、そもそも「採用成功」の定義を、渡邉さんはどう考えられているのでしょうか? “〇人採れたら成功” なんて単純な話ではありませんよね……?

渡邉さん

人数・時期・予算を達成しているか——これが採用人事で見られがちなポイントなのですが……おっしゃるとおり、そんな単純な話ではありません。充分にスキルマッチしていない人を100人採用したとしても、それは成果とは言えませんし、カルチャーマッチしていない人を採用するのも好手ではないですよね。

編集部・S

(たしかに……愚問でした……)

渡邉さん

究極的には、採用した人が継続的に活躍してくれるようになったら、それは成功と言えますよね。ただ、そのための条件として採用人事が追うべきは、やはり「スキルやカルチャーが充分にマッチしている人をきちんと採用できるかどうか」という部分なのではないかと思います。

編集部・S

マンダラートに「事業理解」や「職種理解」といった項目があるのも、上記に関連しているのでしょうか。スキルマッチ、カルチャ―マッチした人を採用するためには、自分の会社のことを深く知っておいたり、社内の各職種に必要なスキルを正確に把握しておいたりすることが、採用人事には特に求められる、と。

渡邉さん

そもそも論ですが、「採用成功」のために最も重要なのって、上段中央に書いた「採用の目的」だと思うんです。採用は決して、採用担当者の “〇人採用” のような数値目標を充足させるために行なうものではありませんよね。事業を伸ばしていくとか、組織を成長させていくとか、そういう大きな目的な根底にあるわけですから。

編集部・S

そのためにも事業理解や職種理解はやっておかないといけないということですね。私のような素人が「採用成功」を考えるとなると、どういう媒体を使うのがいいのかとか、どんな手段で候補者さんを探し出せばいいのかとか、そっちにばかり意識が向いてしまうような気がします。

渡邉さん

マンダラートの右上に「どうやって採用するのか」という項目は入れましたが、それはあくまで手法手段の話ですよね。確かに大事な一要素ではありますが、「採用の目的」抜きでは成り立たないものです。

編集部・S

以前はWebコンサルタントとしてお世話になっていた渡邉さんから、こうして採用にまつわる詳しいお話を聞けたのは、なんだかとても新鮮でした。それに、いつも記事でマンダラートの良さばかりプッシュしていた私にとって、意外なデメリットをご指摘いただけたのも大きな発見でした。

渡邉さん

ただ、繰り返しになりますが、枠組みが設けられていることで考えやすくなる点、そしてコミュニケーションツールとしても使いやすい点は、確かなメリットだと思います。また、今回は「採用成功」というざっくりしたテーマを中心に起きましたが、もっと粒度が小さいものを中心に持ってくれば、具体的なToDoやアクションプランの発見にもつながっていきますよね。シーンに応じて活用するのがよいのではないでしょうか。

***
メリットがあればデメリットもある。物事にはさまざまな側面がありますが、その当たり前の事実に改めて気づかされた取材でした。

さて、今回の取材に味をしめたわたくしSは、続編として第2弾記事も制作予定です。次はどなたにマンダラート作成をお願いしましょうか。乞うご期待です。

【お知らせ】
取材をお受けくださった渡邉慎平さんが、マーケティング経験者としての立場から、採用や組織づくりに対する考えを発信しています!
https://twitter.com/spw63
https://note.mu/potatoman/m/me6e3363e70db