今まで経験したことのない、新しい仕事を任された。こんなとき私たちは、新しい知識を身につけるために、本やテキストをたくさん買い込んで勉強に励みますよね。でも……。「勉強したはずなのに、内容がぜんぜん思い出せない」なんて経験がある方も多いのではないでしょうか?
もちろん、ノートに書いてまとめるとか、音読して覚えるとか、そういった勉強をするのもいいかもしれません。でも、あまりにも時間がかかってしまいます。社会人にとって、時間は最も貴重な財産です。「時間をかけたらできる」ということと「時間をかけずにできる」ということの価値は雲泥の差と言っていいでしょう。
今回は、本やテキストを読んで勉強する際に記憶の定着率が段違いに向上する『アクティブ・リコール』と呼ばれる勉強法を紹介します。
ただ読み返すより “問題に答える” ほうが復習効率が良い
私たちが何かを勉強するときは、基本的に本やテキストを読むことが多いと思います。しかし、ただ普通に読むだけでいいのでしょうか?
復習をするときに「ただ単に事項を書いたり読んだりして覚える」ことを『パッシブ・レビュー(passive review)』といいます。例えば、TOEICの単語帳を開いて単語の意味をひとつずつ確認していったり、簿記のテキストを開いて重要事項を読み返していったり、といった勉強方法がこれに当てはまりますね。
他方、TOEICの単語であれば「distributorの意味は?」と問いかけたり、簿記であれば「仕分けの主要勘定科目は?」と自分に問いかけたりして復習する方法は『アクティブ・リコール(active recall)』と呼ばれています。
じつは、2006年に発表された2人の認知心理学者による研究によれば、ただ単に事項を書いたり読んだりして覚えるよりも、記憶の中から情報を検索して思い出す行為をするほうが記憶が強化されるというのです。これをテスト効果(testing effect)といい、さらに驚くべきことに、記憶の強化だけでなく忘却を遅くすることにも役立つことが示唆されています(Roediger and Karpicke, 2006)。
このアクティブ・リコールという効果を用いた勉強法については、過去のStudyHackerの記事(学習効率を上げたいあなたへ。本当に効果のある “科学的な勉強方法” 4選)でもご紹介しています。それによれば、方法は以下の通りでした。
1. 教科書や参考書を一通り読む。 2. 確認問題を行う。 3. 教科書を見ながら答え合わせをする。 4. もう一度、間違えたところを中心に教科書を読む。 5. 2~4を繰り返す。
(引用元:StudyHacker|学習効率を上げたいあなたへ。本当に効果のある “科学的な勉強方法” 4選)
今回は、その方法をもっと具体的に深堀りして解説していきたいと思います。
StudyHacker式『アクティブ・リコール』の実践方法
1. 本やテキストを一通り読む
まずはしっかり一通り読んでいってください。ここで大事なのは、読みながら一問一答を作っていくことです。手で書くのが面倒であれば、パソコンやスマートフォンでメモ帳やWordに打ち込んでしまいましょう。印刷もできてラクですね。
読んでいるテキストの量にもよりますが、ひとつの項につき、最低5個は作ってみましょう。全体を網羅できるように作ることを意識してみてくださいね。
じつは、この段階で問題を作りながら、頭の中で情報を整理しようとしているので、ただぼーっと読むよりもすでに効果が出ているのですよ。
2. 確認問題を行なう
自分で作った確認問題(一問一答)を解いてみましょう。問題を解くとはいえ、これも紙に解答を書く必要はありません。ここでは、スマートフォンに声を吹き込んでみるという方法でやってみましょう。
図やグラフ、計算を伴うものであれば異なりますが、基本的にはいちいちペンで紙に書いていたら時間が足りません。関連として、こちらの記事「「録音勉強法」をやってみたら、1週間で500分の “スキマ時間” を暗記に使えた話。」も参考にしてみてくださいね。
少し考えて思い出せなかったら、すぐにテキストを開きましょう。悩んでいる時間こそがもったいないのです。
3. 本やテキストを見ながら答え合わせをする
一通り解き終えたら、答え合わせをしてください。
4. もう一度、間違えたところを中心に本やテキストを読む
読み直しましょう。一度間違えたところが見つかれば、きっとその周辺にも穴があるはずです。
5. 2~4を繰り返す。
以上をひとつのサイクルとして、繰り返していきましょう。相当量の事項を頭に入れることができるはずです。
作った確認問題は、本やテキストをそのまま読み直すよりもお手軽な復習ノートに
一度読んだ本やテキストの内容を思い出したいときは、またイチから読み直すのも非常に億劫なもの。上で紹介したやり方で確認問題を作っておけば、それを解くことで思い出すことができますし、思い出せなければ、そこが頭に入っていないことということになります。
読み返すべき場所が特定できるので、全部読み返さなくとも、効率的に勉強し直すことができますね。
*** 本やテキストを読んだあとに、得られたことのメモをまとめていると、ついつい時間がかかってしまうもの。ビジネスパーソンにとって、時間は貴重な投資資産のひとつです。より短い時間で質の濃い勉強を求めていきましょう。
(参考) Roediger, H.L. and J.D.Karpicke (2006a) “Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention,” Psychological Science, Vol.17, pp.249-255. Roediger, H. L. and J. D.Karpicke (2006b) “The Power of Testing Memory: Basic Research and Implications for Educational Practice,” Perspectives on Psychological Science, Vol.1, pp.181-210. StudyHacker|学習効率を上げたいあなたへ。本当に効果のある “科学的な勉強方法” 4選 StudyHacker|「録音勉強法」をやってみたら、1週間で500分の “スキマ時間” を暗記に使えた話。