限りある時間の中で、いかに無駄なく効率的に勉強ができるかーー。この問題は、多くの大学生やビジネスパーソンにとって悩みの種になっているはずです。もちろん「自分は効率重視で勉強の計画を立てて実行している」と自信をもって言える人もいるでしょう。
しかしその勉強法、本当に効率的だと実感していますか? もしかしたら「逆に余計な時間を使っているかも」「友人にすすめられたからやってみたけど自分には合わない気がする」と薄々感じてはいませんか? それでもなお意地になって続けていると、勉強効率が下がるどころか人生において無駄な時間を過ごすことにもなりかねません。
今回は、脳科学の観点から「確実に効率を下げる勉強法」をご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
1.「インプットの時間が圧倒的に長い」のはNG
『学びを結果に変えるアウトプット大全』(サンクチュアリ出版)の著者であり、脳科学にも詳しい精神科医の樺沢紫苑氏は、「勉強してもなかなか成果が出ないという人は、インプットばかりでアウトプットをしていない」と述べています。
樺沢氏によると、しっかり記憶するためには「話す」「書く」といったアウトプットが欠かせないとのこと。具体的には、読んだ本の内容を家族や友人に話す。もしくはメモに書く。脳が記憶として定着させるのは、いわゆる“使う記憶”です。人に話すときもメモに記すときも、本の内容を思い出して情報を抽出していますよね。その作業こそが、脳に記憶をとどめるために必要なのです。
インプットとアウトプットの割合として、脳科学の研究でもはっきりと示されている比率は「インプット3:アウトプット7」です。単純に考えると、参考書を読むなどの「インプット」を3時間行なったら、話したり書いたりする「アウトプット」は7時間を目安に行います。もしも限られた勉強時間の中で3:7の比率を守るのが難しいのなら、次のように考えてみましょう。
1カ月に3冊の本を読んでいる人なら、2冊に減らす。そうしてつくった1冊分の読書時間をアウトプットに回すのです。もっと言えば、読む本を1冊にしてもいい。そのほうが、ただ3冊の本を読むことの何倍もの自己成長につながります。
(引用元:Study Hacker|記憶効率を上げる黄金比は「3:7」だ。勉強に脳科学を取り入れるべし)
「とにかく大量にインプットすることが大事!」
それは大きな勘違いです。アウトプットがあってはじめてインプットの意味があるーー。このことを肝に命じておきましょう。
2.「早朝に暗記もの」はNG
朝と夜では脳の働きに違いがあるのをご存知ですか? その違いを知ることで、勉強の効率はぐんとアップします。
脳科学者の茂木健一郎氏は次のように述べています。
私たちは日中の活動を通して、目や耳からさまざまな情報を得ています。その情報は大脳辺縁系の一部である海馬に集められ、短期記憶として一時的に保管されます。その後に、大脳皮質の側頭連合野に運ばれますが、この段階では記憶は蓄積されているだけです。
それが睡眠をとることで、記憶が整理され長期記憶へと変わります。すると朝の脳は前日の記憶がリセットされるため、新しい記憶を収納したり、創造性を発揮することに適した状態になります。この脳の仕組みが、朝の時間がゴールデンタイムだと言われる理由です。
(引用元:PHP Online 衆知|脳科学者が勧める「朝時間」の使い方 茂木健一郎(脳科学者)「朝の3時間」は、最速で仕事がはかどるゴールデンタイム)
また、東大薬学部教授で脳研究者の池谷裕二氏によると、「起きてすぐは脳が寝ぼけているので暗記には向かない」とのこと。そのため、計算や一般的な復習に充てることをすすめています。
もっとも記憶力が高まるのは就寝前の時間帯です。ある実験によると、勉強後すぐにテストをした場合に比べて、勉強後に睡眠をとってもらい、翌朝もう一度テストを行ったときのほうが成績が上がった、という結果が出たそうです。
実は睡眠には、脳に蓄えた知識を整理整頓して使える状態にする役割があることがわかっています。知識の量が変わるのではなく、知識の質が変わるわけです。
(引用元:プレジデントオンライン|「寝る前1時間」は勉強のゴールデンアワー)
前出の樺沢氏も、「寝る前10分間は記憶のためにすごく重要な時間帯」と力説します。たとえば夜、勉強をした後にテレビを観た場合、勉強内容に加えてテレビからの情報が入り込み、脳は混乱をきたします。すると、せっかく勉強したのに記憶として定着しなくなってしまうのです。つまり、寝る前には暗記ものを中心に勉強し、覚えたら忘れないうちに寝る。これが効率的に暗記力を高めるコツです。
「静かな早朝こそ暗記するのにもってこい!」
このように、早起きして得たせっかくの勉強時間を暗記ものに費やしているとしたら、それは時間の無駄遣いです。
3.「眠気を我慢する」のはNG
日中、ふと集中力が途切れたとき、カクッと意識が飛んでしまうことはありませんか? 自分では起きているつもりでも、数秒から10秒ほど睡眠状態に入っていることを「マイクロ・スリープ=瞬間睡眠」と呼びます。そんなとき「ああ、眠ってはダメだ。集中、集中!」と、目薬をさしたりエナジードリンクを飲んだりして、無理にでも目を覚まそうとしているのではないでしょうか。
『脳が突然冴えだす「瞬間」仮眠』(SB新書)の著者であり、睡眠専門医の坪田聡医師は、仮眠、とくにマイクロ・スリープについて次のように述べています。
眠たくなるのは、思考や言語、記憶など人間らしさを司る大脳皮質の働きが落ちてきた証拠です。マイクロ・スリープで脳を瞬間的にクールダウンすれば、こうした認知機能が回復し、さらに気分を和やかにするセロトニンや、脳に快感を与えるドーパミンが正常に分泌されるようになります。
(引用元:現代ビジネス|最新研究「瞬間睡眠」が、脳を若返らせる 昼間に突然「カクッ」あの瞬間に起きていること)
ほんの数秒でも脳の回復に影響をもたらすマイクロ・スリープですが、さらに20~30分程度の仮眠をとることが、もっとも効果があらわれるらしいのです。坪田氏によると、NASAの研究でも、26分の仮眠をとることにより、パイロットの能力が34%も向上したという結果が出たとのこと。
また、カリフォルニア大学の研究チームによる実験では、昼寝が脳の学習機能を上昇させることが判明しました。被験者は2つのグループに分けられ、一方は「1時間半の昼寝をしたグループ」とし、もう一方は昼寝をしませんでした。2つのグループに同じタスクを与えたところ、昼寝をした方が明らかに良い結果を残したのです。
この実験を率いたウォーカー博士は、「昼寝をすることによって、情報でいっぱいになった脳の海馬を一旦リフレッシュし、新しい情報をスポンジのように吸収しやすくなったのではないか」という見解を出しています。
「睡魔に負けて眠ってしまったら努力が水の泡。無理にでも目を覚まして集中しなきゃ!」
その気合いとは反比例して勉強効率はぐんぐん下降することをお忘れなく。
4.「スマートフォンを勉強に活用」はNG
現代において、もはや身体の一部ともいえるスマートフォン。肌身離さず持ち歩き、手元にないと不安でたまらなくなる人も多いのではないでしょうか。さらに勉強のときにも側に置いて、疑問が生じたらすぐに調べたり、ストップウォッチ機能を活用したりしているのなら、その習慣は確実に勉強効率を下げています。
みなさんの中には、「勉強中スマートフォンは側に置いているけど、画面を伏せて頻繁にチェックしないようにしている」と対応策をとっている人もいるかもしれませんね。しかし、「スマートフォンがそこにある」と存在を認識しているだけでも、勉強効率は著しく低下するので要注意。
カリフォルニア大学のクリスティン・デューク氏率いるチームはスマートフォンを近くに置いているだけで、認知能力に影響があるかを調査しました。実験では、被験者800人に対して、ある作業をしてもらう際に次のような指示を出しました。
- スマートフォンを目の前に置く
- ポケットかバッグにしまう
- 別の部屋に置いておく
結果、スマートフォンを目の前に置いたグループの成績は最下位でした。たとえアラート音やバイブレーション機能をオフにしても、さらに電源すら完全に切っていた場合でも、同様に最下位という結果だったのです。
認知心理学の観点からも、人は重要性が高いものに対して、別の作業に集中しているときでも自動的に注意を向けてしまいます。そのため、長時間の集中が必要な場面でも、スマートフォンがそこにあるだけで認知能力を著しく下げているのです。
「疑問をすぐに解消できるし、ストップウォッチ機能も活用できるスマートフォンは、勉強の最適ツール!」
と思い込んでいても、脳は常にスマートフォンの存在を意識し集中力を削いでいます。勉強中は、極力スマートフォンが視界に入らないようにしたいですね。
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「勉強に費やす時間は長いのに、一向に成果が出ない」そう感じている人は、一度勉強法そのものを見直してみましょう。きっとそこには、効率を悪くしている原因が潜んでいるはずです。
(参考)
Study Hacker|記憶効率を上げる黄金比は「3:7」だ。勉強に脳科学を取り入れるべし
Study Hacker|勉強する時間帯のゴールデンルール。効率よく勉強できる時間帯をまとめて紹介!
PHP Online 衆知|脳科学者が勧める「朝時間」の使い方 茂木健一郎(脳科学者)「朝の3時間」は、最速で仕事がはかどるゴールデンタイム
プレジデントオンライン|「寝る前1時間」は勉強のゴールデンアワー
現代ビジネス|最新研究「瞬間睡眠」が、脳を若返らせる 昼間に突然「カクッ」あの瞬間に起きていること
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