みなさんは、ラブレターを書いたことがありますか?
一度くらいは書いたことがあるという人も、そんなもの書こうと思ったこともないという人もいるでしょう。

今でこそLINEもFacebookもあるけれど、ほんの20年くらい前までは、想いを伝える手段としての手紙は、まだまだ大きな存在感を持っていました。どんな風に書けば想いを伝えられるか、どうすれば相手に自分のことを好きなってもらえるか。そんなことを考えながら書かれた手紙は、時に想いが強すぎて、読み返せば思わず赤面するようなものだったかもしれません。

今回は、そんな少し懐かしくて、でも、いまだからこそ却ってあたらしい。想いを伝えるための手紙、ラブレターについてのお話です。

文豪たちのラブレター

文豪、と呼ばれる人たちがいます。
美しい文章で人々を魅了してきた作家たちは、彼ら自身の気持ちをどんな言葉で相手に伝えたのでしょうか。作品と同じように、美しく精緻な文章で相手の心を動かしたのでしょうか。

文豪たちのラブレターをご紹介していきます。

会社経営&子育てしながらでも62日でTOEIC250点アップの950点! 秘訣は正しい「学び順」と「鍛え方」
人気記事

芥川龍之介の恋文

あなたがラブレターを書くのなら、どんな風に書き出しますか? どんな文章にとっても書き出しはとても大きな意味をもちます。はじめの印象が、全体の印象を大きく左右するから。それがラブレターならなおさらです。はじめにどんなことから書き出すのか、それが相手の気持ちの動きを決めてしまうかもしれません。

東京帝国大学英文科で学び、一方で日本の古典にも通じた稀代の作家・芥川龍之介はその恋人、文に対してこのように書き出しました。

文ちゃん。

僕は、まだこの海岸で、本を読んだり原稿を書いたりして 暮らしてゐます。
何時頃 うちへかへるか それはまだ はっきりわかりません。
が、うちへ帰ってからは 文ちゃんに かう云う手紙を書く機会が
なくなると思ひますから 奮発して 一つ長いのを書きます
ひるまは 仕事をしたり泳いだりしてゐるので、忘れてゐますが
夕方や夜は 東京がこひしくなります。
さうして 早く又 あのあかりの多い にぎやかな通りを歩きたいと思ひます。
しかし、東京がこひしくなると云ふのは、
東京の町がこひしくなるばかりではありません。
東京にゐる人もこひしくなるのです。
さう云う時に 僕は時々 文ちゃんの事を思ひ出します。
文ちゃんを貰ひたいと云ふ事を、僕が兄さんに話してから 何年になるでせう。
(こんな事を 文ちゃんにあげる手紙に書いていいものかどうか知りません) ……

引用:芥川龍之介の恋文

遠く離れた土地から、あなたのことを思っています。という内容も、芥川にかかるとこの通り。
「夕方や夜になると、あかりの多いにぎやかなあの町の、そこにゐるあなたをこひしく思い出します。」という詩情豊かな文になります。

川端康成の恋文

日本人初のノーベル文学賞を受賞するなど、日本文学界に不動の地位を気づいた川端康成。当時川端やその周辺の作家たちは、その新しい言語感覚で、新感覚派と呼ばれていました。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。」という『雪国』のはじめの文は、もっとも有名な書き出しのひとつではないでしょうか。

そんな川端はどのように恋文を書き始めるのでしょう。

僕が十月の二十七日に出した手紙見てくれましたか。君から返事がないので毎日毎日心配で心配で、ぢつとして居られない。手紙が君の手に渡らなかつたのか、お寺に知れて叱られてゐるのか、返事するに困ることあるのか、もしかしたら病気ぢやないか、本当に病気ぢやないのかと思ふと夜も眠れない。

とにかく早く東京に來るやうにして下さい。恋しくて恋しくて、早く會はないと僕は何も手につかない

引用:川端康成の恋文 「恋しくて恋しくて僕は何も手につかない」

「恋しくて恋しくて、早くあわないと僕はなにも手につかない」 熱情がこれ以上ないほどあふれて、まっすぐな表現が強く心をつかみます。凝った表現よりも、この方が好きだと言うかたもいると思います。

森鴎外の恋文

大作家としてだけでなく、医師としても活躍した森鴎外。40歳のころ、18歳の志げという22歳年下の女性と結婚しました。

広しまでおれが馬鹿なことでもするだろうというような事がおまえさんの手紙にあったから歌をよんだ。
お前さんは歌なんぞは分らせようともおもわない人だからだめだけれどついでだから書くよ。

わが跡をふみもとめても来んといふ遠妻あるを誰とかは寐ん

追っかけて来ようというような親切に云ってくれるおまえさんがあるのに 外(ほか)のものにかかありあってなるものかという意味だなのだよ。 歌というものは上手にはなかなかなれないが一寸やるおもしろいものだよ。
何か一つ歌にして書いておこしてごらん。直してやるから。

引用:黙翁日録

すこしわかりにくいので、簡単にしましょう。

ーーー
広島で、おれが馬鹿なことでもしているかもしれないということが、おまえさんの手紙に書いてあったから歌を詠んだよ。
おまえさんは、歌のことなど分かろうとも思わない人だからダメだけれど、ついでに書いておくよ。

わがあとを ふみもとめても 来んといふ 遠妻あるを 誰とかは寝ん

「わたしのあとを追いかけて来ようというようなことを、親切に言ってくれるおまえさんがいるというのに、他のものに関わりあってなるものか」という意味なんだよ。

歌はなかなか上手に読めないけれど、ちょっとやるにはおもしろいものだよ。
おまえも、何か歌にしてよこしてごらん。直してあげよう。
ーーー

年の離れた妻への、穏やかで余裕のある愛情が感じられます。歌をおくるなんて、今ではなかなかできることではありませんが、さらりとやってのけるとこんなにもかっこいいものなのですね。

***
いかがでしょうか。文豪たちのラブレターはやはりふつうの人とは違う、情趣あふれたものでした。
相手を思ってペンをとり、手書きの文字で気持ちを伝える。
メッセージを送るのなら、スマホで事足りるかもしれません。だけど、想いをきちんと伝えるなら、手紙はむしろ効果のある方法なのかもしれませんね。