新しいアイデアがなかなか浮かばない。営業の仕事には慣れてきたけれど、売り上げが伸び悩んでいる。そんなふうに焦っていませんか? 仕事がはかどらない原因はもしかしたら、あなた自身の能力でも仕事をする環境でもなく、あなたの「ノートの使い方」かもしれません。
間違ったノートの使い方をしていると、仕事の成果は大きくダウンしてしまいます。ノートの使い方を変えるだけで、記憶が定着しやすくなったりアイデアが浮かびやすくなったりと、多くのメリットを得ることができますよ。
今回は、ビジネスパーソンのみなさんがやってしまいがちなNGなノートの使い方をまとめてみました。ぜひ、自分の普段の使い方と照らし合わせてみてください。
話の内容を何でもメモしようとするのはNG
打ち合わせや商談で話しているとき、話の内容をノートにメモすることはとても大切ですが、何から何まで情報を全部書き残そうとするのはNGです。文字でいっぱいのノートを見直したとき、「あれ? 大事な話は何だったっけ?」と肝心なことを思い出せないのであれば、「なんでもメモしすぎ」というパターンに陥っている可能性があります。
日本の脳研究の第一人者である生理学研究所の柿木隆介教授によると、短期記憶が長期記憶に変わる際のポイントは3つあります。
- 印象が強烈なもの
- 重要であると認識したもの
- 反復性
柿木教授の言葉から、話をしながらノートを書くときに大切にするべきことを詳しく見ていきましょう。
「印象が強烈なもの」を書く
旅行など強く印象に残る出来事は、なかなか忘れないもの。仕事でも同じです。会話において「印象的なこと」を感じ取れるように、肩の力を抜き、相手との会話に集中しましょう。
会話そのものを純粋に楽しむくらいの余裕があると、相手から出てくる情報やアイデアに対して、自分なりの印象を抱きやすくなります。その中で特に印象に残ったものを、ノートに落とし込んでください。「あの時、先方の〇〇さんがあんなことを言っていたな」という情報を、強い印象と共に、より強く記憶に刻むことができるでしょう。
「重要であると認識したもの」を書く
話の内容をノートに書こうということばかりに意識を向けすぎると、会話中の重要なポイントを聞き逃してしまうリスクがあります。重要なポイントを聞き逃さないために、相手の話し方や・様子に目を向けてみてください。
例えば、会議中に上司が熱の入った話し方をしていたら、特に大切なことを伝えているのかもしれません。相手の話し方や様子に変化があったときこそ、ノートを取るべきタイミングなのです。
「何度も繰り返し」見直す
話の内容を記憶として定着させるには「反復性」が大事です。書いたあとでノートを何度も見直しましょう。通勤時間、スキマ時間、ちょっとコーヒーを飲んでいる時間、帰宅後の時間など、ほんの5分でも構いません。短い時間でもいいので何度も見直すと、ノートに書いたことをより確かな記憶にできます。
研修に参加したり社長の訓示を聞いたりして、大事なことを多くノートにメモした際には特に有効ではないでしょうか。ノートを見直した際に、追加で思い出したことや、改めて思い浮かんだ自分なりの意見なども付け加えて書いておくと、あなたのノートはより豊かな情報を持つようになります。
カラフルなだけの書き込みはNG
情報を整理するために色分けしてノートを作るのは効果的ですが、色の数が増えすぎるのはNGです。色には集中や記憶を助ける色もあれば、邪魔する色もあります。
色の持つ効果を把握して、使う色は3色以内に抑えましょう。使うペンの色を厳選することが、実用的で洗練されたノートづくりのカギになるのです。
東京大学教授の脳研究者、池谷裕二氏は著書『受験脳の作り方―脳科学で考える効率的学習法』の中で、色の効果が学習にもたらす影響に注目しています。色の効果のうち、ビジネスパーソンがおさえておきたいものを紹介します。
- 青 → 集中力を高め、冷静さをもたらす。
- 紫 → 感受性を高める。
- 黄色 → 発想力を高める。
- 赤 → やる気を下げ、困難に向かう意欲を削ぐ。
- 緑 → 緊張を和らげる。
まず、集中力と冷静さをもたらす青。ノートに書きこんだ情報やアイデアの精査・整理に最適なのが青です。青ペンを使って、やるべきことの優先順位や、アイデアの重要度を書き込んでいきましょう。業務日誌のような、一日の仕事の整理にも有効です。
黄色と紫は、クリエイティブなアイデアを出したいときに有効です。仕事で新しいコンテンツ案を考えたいとき、企画に行き詰ったときなど、黄色と紫のペンで思い付きを書き殴ってみると新しい発想に繋がるかもしれません。
反対に、仕事のノートづくりで避けたいのが赤と緑です。赤は困難に向かう意欲をそぐといわれています。プレゼンや商談の日時を赤で書き込むのはできるだけ避けましょう。緑も緊張を和らげる効果がありますが、仕事でノートに向かうときにはある程度の緊張感を保持しておくべきです。緑色は、仕事を離れてリラックスしたいときに活用しましょう。
余白のないノートはNG
紙面いっぱいに文字がきっちりと書き込まれたノートは充足感をもたらすしれませんが、ノートの隅から隅まで文字を書くのはNG。ノートには適宜空白を設けるべきです。
元マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントで、現在は横浜国立大学はじめ複数の大学で教鞭をとる建築プロデューサーの織山和久氏は、会議中にノートを書く際は適当な余白を開けているのだそう。余白の意図について、織山氏は次のように語っています。
会議をしている場面なら、大前提として「この会議の目的は何?」という部分がありますし、「最終的な成果はどこにあるんですか?」「その根拠は何ですか?」「どういう判断基準によって、そう言ってるんですか?」などいろいろと感じることがあるはずです。 そういうことが省略されていたり、抜けていたりすると、余白として残しておきます。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|元マッキンゼーの建築プロデューサーが「手書きのノート」を手放さない理由)
ほとんどの仕事は、短期間で結果を出せるものではありません。変更や訂正、補足が段階的に求められていきますよね。後からわかってくる情報を書き込めるように余白を残しておくと、自分のノートを状況に合わせて更新し続けることができるのです。
また、余白には自分なりに考えたことや感じたことを書き込むことも大事です。ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏が経営者になるための心得を説いた『経営者になるためのノート』には、欄外に大きな余白が設けられています。まさにこの余白こそ、「ノート」と名づけられたゆえん。『経営者になるためのノート』に設けられた余白の意義について柳井氏は次のように述べています。
このノートで最も重要なのは、本文の周囲にある罫線の引かれた余白部分です。本文を読みながら、そこにある原理原則を、自分の仕事という文脈に落とし込み、自分の仕事と紐づける。そうすることで、自分なりの「DO's&DONT's(やるべきこと、やるべきではないこと)」が磨かれ、原理原則が培われます。
(引用元:プレジデントオンライン|何を聞いても柳井正の答えがブレない理由)
柳井氏の話は、実際のノート術においてもあてはまります。例えば、会議で部長から「今後全社的に、より“数字”を意識した経営をしていくことになる」という話を聞いたとします。では「自分にとって、あるいはチームにとっての“数字”とは何だろうか」と考え、ノートの余白に書きこんでみるのです。
問い合わせに対応した件数? 新しく契約をとった件数? 企画を考えた数? いろいろと答えが出てくるでしょう。そうして考えたことを意識すれば、自然と実績にも評価にもつながっていくはずです。
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ノートをただ使うことだけに満足せず、より良い運用を追求してみてください。そうすれば必ずや、より良い結果に繋がると思います。一流のビジネスパーソンに一歩近づけるかもしれませんよ。
(参考)
柿木隆介(2016),『記憶力の脳科学』, 大和書房.
池谷裕二 (2011),『受験脳の作り方ー脳科学で考える効率的学習法』, 新潮社.
ダイヤモンド・オンライン|元マッキンゼーの建築プロデューサーが「手書きのノート」を手放さない理由
柳井正 (2015),『経営者になるためのノート』, PHP研究所.
プレジデントオンライン|何を聞いても柳井正の答えがブレない理由