プレゼンテーションを行う日、大きな会議の日、試験当日や面接の日など、プレッシャーを強く感じてストレスとなり、お腹が痛くなってしまう人は少なくありません。
だからこそ「脳腸相関」をよく知り、対処する必要があります。それに「脳」と深い関係をもつ「腸」を整えることで、社交的な人間になれる可能性があるのです。ご説明しましょう。
脳腸相関とは
「脳腸相関」とは、脳と腸がお互いに影響を及ぼしあうことを示す言葉です。
どの臓器も多少はストレスの影響を受けますが、なかでも特に腸はストレスに敏感なのだそう。多くの動物はストレスを感じるとお腹が痛くなり、便意をもよおすといいます。それは、脳が自律神経を介して、腸にストレスの刺激を伝えるから。
また逆に、腸が病原菌に感染すると、脳は不安感が増すのだとか。東北大学大学院医学系研究科行動医学教授の福土審氏は、「腸が過敏な状態が続くと、不安障害やうつ状態になりやすくなるとの指摘もある」と説明しています。なおかつ最近では、腸内に常在する細菌も脳の機能に影響を及ぼす研究が注目されています。
それだけではなく、脳で感じる食欲にも、腸から放出されるホルモンが関与しているそう。このように、脳と腸が密接に関係しあっていることが「脳腸相関」なのです。
腸内環境は性格にも影響を及ぼす
腸内環境は、私たち人間の思考や行動の傾向にも影響を及ぼしているのだとか。
米国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームが、女性40名の腸内細菌を採取し、さまざまな画像を見せながらMRIで脳内をスキャンしたところ、細菌グループによって「感情の反応」が違うことを確認したそうです。つまり、同じ写真を見せても、それに対してネガティブな感情を抱いたり、抱かなかったりする違いが、腸内細菌の違いや脳の状態の違いに相関していたということ。
健康な人間で確認されたのはUCLAの実験が初めてですが、実は以前から、マウスの実験では、腸内細菌が行動や性格に影響すると考えられていたそうです。スウェーデンのカロリンスカ研究所のチームは、腸内を無菌にしたマウスは、普通のマウスより警戒心がゆるく、危険で大胆な行動をとる傾向だと報告しています。
また、アイルランド国立大学、ユニバーシティ・カレッジ・コークの神経科学部のジョン・クライアン教授が率いる研究チームが、マウスに一定量のプロバイオティクス(善玉菌)を与えたところ、自閉症状が緩和され、不安レベルが下がったそうです。これは、つまり、腸内細胞が社交性を形成するのに役立つ可能性があるということなのです。
腸内環境が影響力をもつ理由
では、いったいなぜ、腸内環境が性格にも影響を及ぼすのでしょう。
理化学研究所の辨野義己博士らがマウスで行った実験では、同じ親から生まれ、同じ条件で飼育されたにもかかわらず、腸内細菌の有無によって、脳内の物質が明らかに変化していたのだそう。つまり、腸内環境が性格にまで影響を及ぼす理由は、腸内環境が神経伝達物質の産生に大きく関わっているからのようです。
わたしたちは、セロトニン、アドレナリン、ドーパミンなど神経伝達物質のバランスが保たれていることで、快適な毎日を送れるといわれています。
心身の健康と社交性の形成にも役立つならば、とにかく腸内環境を健康に保たなければなりませんね。
腸内環境を健康に保つ方法
福土審教授によれば、ストレスなどで発症しやすい過敏性腸症候群(IBS)患者を対象にプロバイオティクス飲料を飲用させたところ、症状が改善したそうです。とくにビフィズス菌で改善効果が見られたのだとか。
やはり、腸内環境を健康に保つには、ヨーグルトや発酵食品などのプロバイオティクス食品が効果的なようですね。でも、それだけではありません。色々な腸内環境を健康に保つ方法をご紹介します。
1.善玉菌を増やす食生活
ヨーグルト・納豆・キムチや漬物などプロバイオティクス食品を摂取するとともに、善玉菌を増やす食物繊維やビフィズス菌の餌となるオリゴ糖をとるために、野菜・豆類・海藻類を多くとりましょう。
なお、肉、魚、卵、大豆などに含まれるグルタミンが不足すると、腸内に細菌やウイルスが侵入して病気を引き起こしやすくなってしまうので、これらの摂取も大切です。ただし、肉には善玉菌を減らす働きがあるので、食べ過ぎにはご注意を。
2.カラオケに行く
腹式呼吸で歌うと、腸の上にある横隔膜が動きます。腸の医療を専門的に行う東洋医学医師の田中保郎先生は、自身の著書で「カラオケなどでお腹を使って歌うと、腸の元気につながる」と述べています。いいストレス発散にもなりますね。
3.体内時計リセット
生活が不規則になると生体リズムの調節にかかわる体内時計が狂い、食べ物の消化・吸収力の低下を招いて悪玉菌が増加するため、腸内環境を乱します。
しかし、「朝起きて日の光を浴びる」「食事の時間を一定にする」ことで、体内時計をリセットすることができます。夜仕事に出る場合は、光で起こしてくれる目覚まし時計がおすすめです。なお、休日の寝だめは体内時計を狂わせるので、できるだけ毎日同じ起床・食事リズムにしましょう。
4.休憩時に動きまわる
同じ姿勢、しかも腹部を圧迫するような姿勢のまま座りっぱなしで仕事や勉強をしていると、お腹の動きが悪くなり腸内環境を悪くします。
そのため、小まめに休憩時間をとって体をほぐしたり、歩きまわったりすることが大切です。それに、動きまわると血流がよくなるので、脳が働きやすくなりますよ。
5.運動習慣をつける
ウォーキングや軽い体操など、気持ちよいと思える程度の運動を行うだけで、血液と酸素が全身にめぐり、自律神経にも良い影響を与えてくれます。そして、腸の活性化にもつながるのです。お腹を効果的に動かす軽めの腹筋もおすすめですよ!
6.気がついたら腹式呼吸をする
いつでも、どこでも行えて便利なのが腹式呼吸。腸の上にある横隔膜を使うので、腸の働きをよくします。「お腹に手を置いて、お腹がへこむまでゆっくりと、すぼめた口から息を吐ききり」→「お腹が膨らむことを確認しながら、ゆっくりと息を鼻から吸う」を繰り返しましょう。
*** 腸を元気にして、どんなプレッシャーにも負けない脳になってくださいね!
(参考) 日経Gooday|ストレスを感じるとお腹が痛くなるのはなぜ? ヤクルト中央研究所|脳腸相関 健康用語の基礎知識 HEALTH PRESS|腸が「第2の脳」と呼ばれる理由は 目には見えない「脳腸相関」のメカニズム HEALTH PRESS|「腸内細菌」が「性格」も決める! 脳内物質に影響を与えて「ネガティブな感情」に カラパイア|ヨーグルトを食べると社交的になれる?腸内細菌が人格形成に大きく関わっている可能性(アイルランド研究) 健康情報ニュース.com|脳 NIKKEI STYLE|腸内の「善玉菌」 効果的に増やす食生活 フミナーズ|腸内環境と睡眠に関係が?睡眠不足になる意外な理由とは グリコ|腸内環境を改善する方法はなに?運動とも強い結びつきがあった! 田中保郎著(2015),『腸が変われば人生が変わる 驚異の腸内フローラ』,ぶんか社.