企画のプレゼンテーションや式の挨拶など、誰しも人前で話す機会があると思います。そんなときに「あまりうまく伝わらなかったな」と感じたことはありませんか? もしかしたらそれには、多くの人の口癖になっているであろう“ある言葉”が大きく影響しているかもしれません。
今回は、聞き手の邪魔になる言葉を使いすぎないようにし、より伝わりやすいスピーチをする方法をご紹介します。
聞き手の集中力を削いでしまう「フィラー」表現
皆さんは、話の途中で無意識に「えーと」「あー」などといった言葉を発していないでしょうか。これらの言葉は、「話と話の間を埋める(fill)言葉」ということから「フィラー(filler)」と呼ばれるもの。実はこれが、スピーチが伝わらないことの大きな原因です。人前で話す際にフィラーを頻繁に使ってしまうことを「えーあー症候群」と称することもあるのだとか。
コミュニケーションスキルの向上を推進する米企業、クオンティファイド・コミュニケーションズでCEOを務めるノア・ザンダン氏は、フィラー表現が聞き手に与える悪影響には以下のようなものがあると述べています。
・話し手について、緊張している、自信がないなどといった印象を持つ ・話を聞こうという集中力がなくなる ・話の全体像が見えにくくなる
話し手がフィラーを発している時間は、動画再生における「読み込み中」のようなもの。何度も何度も動画が止まってしまうと続きを見る気が無くなってしまうように、コミュニケーションの中でもフィラーが頻繁に発せられると、聞き手は話を聞く気が失せてしまいます。
しかし逆に言えば、人前で話す際にフィラー表現を使わないようにすれば、聞き手に悪い印象を与えるリスクが減るということ。「自分の話が聴衆に響かない」という悩みは、「えーと」「あー」をなくすことで解消できるかもしれないのです。
それでは、フィラー表現を使いすぎずに話すために効果的な方法を3つご紹介します。
1. 自分がよく使っているフィラーを知る
フィラー表現は無意識に口から出がちなもの。そこでまずは、自分がどんなフィラー表現をよく使っているかを知ることが必要です。
そのための方法としてザンダン氏が提案するのは、聞き手がいない状態でその日1日の出来事についてスピーチをし、その様子を録画してみること。自分が話している姿を客観的に見ることによって、よく使っているフィラー表現や話し方のクセを知るのです。
そして、自分がよく使っているフィラー表現を特定できたら、それを使ってしまったときに軽く手を叩いたり、肩を触ったりするなどの“ちょっとした行為”をしてみてください。そうすることで、いかに自分がそれらの表現を多用しているかを知ることができるでしょう。人前で話す際に限らず、日々の会話の中でもやってみると良いそうですから、ぜひ試してみてください。意外な口グセがあることに気が付くかもしれませんね。
2. 一文一文を短くする
フィラー表現を発しないためには、「一文を短く話す」ことも大切です。例えば、以下の2つの文章を話すことについて考えてみます。
【a】これには3つの理由があり、1つ目はAという理由で、2つ目にはBという理由があり、そして3つ目には、これが一番大きく影響しているのですが、Cという理由があるのです。
【b】これには3つの理由があります。1つ目にはAという理由、2つ目にはBという理由です。そして最も大きな理由として、Cという理由があるのです。
【a】を書かれた文章として見ると、「、」ばかりが続き、明らかに不自然ですね。しかし実際のスピーチの場面では、焦りからこのような話し方になってしまうことが少なくありません。そして、文章化したときに「、」が多く入ってしまう文章にはフィラーが生まれやすいのです。
スピーチトレーナーでベストスピーカー教育研究所代表の高津和彦氏は、次のように述べています。
「、(テン)」の後は黙っていられないんですよ。 試しに「、(テン)」で間を空けてみて下さい。衛星放送か、戦場カメラマンみたいになりますから。 だからつい、「えー」で埋めたくなるんです。
(引用元:高津和彦 オフィシャルサイト|KZ-plus 高津和彦インタビュー「えーあー症候群」――伝わるプレゼンの敵(1))
したがって、人前で話す際は【b】のように一文一文を適切に短く区切りましょう。実際に話してみると【b】の方が話しやすいはずですし、聞き手として考えた場合でも、【b】のほうが聞きやすい印象を受けると思います。一文が長くならないように気を付けると、自然な間合いがある分かりやすいスピーチになるのです。
3. 沈黙を恐れない
さきほどの高津氏の解説に「『、(テン)』の後は黙っていられない」とあったように、話し手が沈黙を怖れている場合、フィラーを発してしまう傾向にあります。これに関連して、前出のザンダン氏はこう述べています。
多くの講演者には、極めて短い沈黙でさえ、延々と続くように感じられる場合がある。なぜなら、考えるペースよりも、話すペースのほうが速くなりがちだからだ。我々の研究によれば、平均的なプロの講演者は毎分150語のペースで話をする。だが、ミズーリ大学の研究によれば、人が考えるペースは毎分400語だ(速い人なら、毎分1500語に達する場合がある)。
(引用元:Harvard Business Review|「うーん」「えー」「ほら」……耳障りな口癖を封じる3つのステップ)
頭の中で考える言葉の量と実際に話す言葉の量には、2倍以上もの違いがあります。そのため、話の合間の沈黙が実際よりもかなり長く感じられ、この認識の歪みからくる焦りがフィラーを生み出してしまうというわけです。
しかし実は、適度な沈黙はスピーチにおいて良い働きをします。それは、聞き手に考えを整理する余裕を与え、話し手の次の言葉に注意を向けさせることができるということ。実際に、講演のプロと呼ばれる人たちは普通の人よりも沈黙を多く活用しています。
例えば、スティーブ・ジョブズ氏がiPhoneを初めて世に発表したときのプレゼンテーション。彼はプレゼンの冒頭で「2年半、この日が来るのを待っていた」と切り出した後で、7秒もの間を置いています。また、重要なことを話す場面においてはたっぷりと間を置き、ゆっくりと話を進めたことも、彼のプレゼンの特徴でした。そして、それらの沈黙は、聴衆を退屈させるどころかどんどん引き込み、強烈なインパクトを残すことに成功したのです。
沈黙を怖れてしまいがちな方は、上で紹介した「1日の出来事についてのスピーチを録画するトレーニング」の際に、フィラーを発する代わりに沈黙する練習をしましょう。聞き手がいないスピーチは「早く話さなければ」という焦りを抑制する良い練習になりますよ。
名スピーチと呼ばれるものは往々にして「沈黙」をうまく活用しています。「沈黙=悪」という固定観念を捨て、大胆な間をとってみる方が、かえって良い印象を与えることもあるかもしれません。
*** 話す内容は同じでも、話し方が変われば与える印象は大きく変わります。今回紹介した方法が、皆さんの素敵なスピーチの助けとなれば幸いです。
Harvard Business Review|「うーん」「えー」「ほら」……耳障りな口癖を封じる3つのステップ 高津和彦 オフィシャルサイト|KZ-plus 高津和彦インタビュー「えーあー症候群」――伝わるプレゼンの敵(1) 話し方研修KEE’S|プレゼンの「間」を使いこなす ダ・ヴィンチニュース|緊張してスピーチが苦手という人は、ジョブズのあのテクニックを真似よう! 会話に沈黙を活かす術
梅野凌矢
東京大学工学部所属。鹿児島県立鶴丸高等学校出身。大学では人間の認知システムを中心に勉強中。大学の吹奏楽団体に所属していて、担当はホルン。趣味は音楽ゲーム、読書など。Perfumeがとても好き。