人前に立つことは苦手ではないが、よく聞こえる声で喋らなければならないプレゼンテーションは苦手だという方は、“客観的な自分の声”と、“舌のちから”に注目してみてはいかがでしょう。プレゼンを成功に導く、「声力」を手に入れる方法をご紹介します。
自分の声を知る
◆2つのスピーカーで聞いている自分の声
声はプレゼンテーションの成否に大きく影響するといわれています。どんなに優れた内容でも、声の印象が悪いとその価値が伝わらないのだとか。「話す声」のスペシャリスト・白石謙二氏は、人としての魅力を表すような声、相手が望むような声であることが重要だといいます。なぜならば、プレゼンテーションの目的は「人を動かすこと」だから。
人を動かすようなプレゼンテーションを行うには、展開によって声を使い分ける必要があるとのこと。そして、声を使い分けるには、自分の声を、自分自身が把握しなければなりません。
私たちは普段、外側から聞こえる自分の声と、からだの内側で響く自分の声、両方を2つのスピーカーで聞いています。しかし、他者が聞いているのは外側から聞こえる声のみなので、ほとんどの人は客観的な自分の声を知らないそう。
◆さまざまな展開で使い分ける発声
自分の声を知るための一番シンプルな方法は、自分の声を録音して客観的に聞くことです。それから高さや大きさ、音色などを調整して、聞き心地のいい声を探せばいいと白石氏は説明しています。
なお、ボイストレーニングの基本的な発声法には、低音「チェストボイス」・中音「ミドルボイス(ミックスボイス)」・高音「ヘッドボイス」の3つがあります。自分の意見をはっきりと伝えたいときは中くらいの音域の「ミドルボイス」、聞き手の注意を引きたいときは高い音(声)の「ヘッドボイス」、聞き手に説得力を与えたいときは低い音(声)の「チェストボイス」といった具合に、使い分けるといいそうです。
こうすることで、聞き手が耳を傾け、関心を持続してくれるとのこと。
舌を鍛える
◆声の悩みの原因は舌力不足?
そしてもう一つ大切なのは、“舌のちから”です。声のプロたちのトレーナーとして活躍する篠原さなえ氏は、声にコンプレックスを持つ人の根本的な原因が、舌の筋力不足だと見抜いたそう。
人間の舌には、茎突舌筋、舌骨舌筋、オトガイ舌筋、上縦舌筋、下縦舌筋、横舌筋、垂直舌筋という、7つもの筋肉があります。「声が小さい」「滑舌が悪い」「声が鼻にこもる」という人は、それらの筋力が不足しているということです。
◆自分の舌力を確かめる
自分の舌の筋力が不足しているかどうか、自分で確かめる方法があります。姿勢を正して口を閉じ、舌がどこにあるか確認してみてください。
1.舌の前から後ろまで上顎にくっついている――【正常な舌の状態】
前方から奥の親知らず近くまで、しっかり舌がついていると明確に感じられたら、「舌を後方まで持ち上げる力がある」ということ。つまり、正常な舌の状態です。しかし、それでも自分の声が小さい、こもっている、鼻声・喉声だと感じたら、「舌幅を縮める力」が足りないとのこと。
2.舌の前方は上顎についているが、後ろはよくわからない――【前位舌】
口を閉じたとき、舌の後方が上顎についていない状態を前位舌といいます。「前方はついているけれど、後ろはどうなっているかわからない」という人は、おおむね舌の後ろのほうは上顎についていていないそう。この場合、舌っ足らず、鼻声・喉声など、声に問題が起こる可能性が高くなります。
3.舌がまったく上顎に触っていない――【低位舌】
舌が上顎にまったくついていない場合は、確実に舌の筋力が不足している低位舌と判断できます。このままだと、滑舌はよくならないそう。おまけに、口をポカンと開けている状態になるため、風邪を引きやすくなり、顔の形まで変わってしまうのだとか。
◆自分で簡単に舌を鍛える方法
前位舌、低位舌、あるいは舌幅を縮める力が足りない場合、最も効果的なのは、プロのボイストレーニングを受けることかもしれません。しかし、多少は自分で鍛えることも可能です。内科医の今井一彰氏は、舌の筋力が不足して正しい位置に保てないと病気になりやすいことから、「あいうべ体操」を発案しました。
方法はとても簡単です。口を左右上下前に大きく動かして「あ」「い」「う」といい、その次に「え」といいたいところをいわず、代りに「べー」と舌を出すのです。それが「あいうべ体操」です。普段はあまり動かさない舌の筋肉を、しっかり動かしたと実感できるはずですよ。朝昼晩10回ずつが目安とのこと。
これを3年間続けた小学校では、インフルエンザにかかった児童の割合が、周囲の学校に比べて大きく抑えられたそうです。つまり、しっかりと舌が鍛えられたということですね。
滑舌をよくする方法
最後に、声楽のプロや劇団員が行っている「滑舌をよくする方法」を2つご紹介します。
◆舌筋トレーニング
1.口を閉じ、下唇と下歯茎の間に、舌を差し込む 2.舌に力を入れて端から端にゆっくり移動する動作を三往復 3.終わったら、今度は上唇と上歯茎の間に、舌を差し込む 4.2と同じ動作を、同じく三往復行う
◆劇団四季が取り入れている母音法
どんな言葉でもいいので、「母音に変えて話す」→「もとの言葉に戻して話す」を繰り返す。
【例1】「おはようございます」→「おあおうおあいあう」 【例2】「よろしくお願いします」→「おおいうおえあいいあう」 【例3】「お疲れさまでした」→「おうあえああえいあ」
ぜひ、隙間時間に取り入れてみてください。
*** 舌の筋力がつくと、滑舌、鼻声・喉声が改善されるだけではなく、姿勢がよくなって、二重顎やほうれい線なども解消されるそう。「声力」ついでに「見た目のよさ」も手に入れ、プレゼンテーションを成功させてくださいね。
(参考) PROJECT DESIGN - 月刊「事業構想」オンライン2016年2月号|「声の力」でプレゼンは成功する 影響力を高める「発声の技術」 ブルーバックス 講談社|「声が小さい」「滑舌が悪い」本当の理由は「舌力」だった(篠原 さなえ) みんなのスタンバイ|プロ仕様の滑舌トレーニングで「ん?もう1回?」を言わせない! NHKニュース おはよう日本|鍛えよ! 健康のカギは舌にあり|けさのクローズアップ Wikipedia|舌筋