人は意外と「論理」では動かない。「感情」を揺さぶれるかどうかがキモ。

時間をかけて考え抜いたものほど「意外にパッとしなかった」ということはありませんか? それは、もしかして、論理的に考えすぎた、あるいは論理的に説明しすぎたせいかもしれません。人を動かすのは「論理」ではなく「感情」だといいます。

世界的に有名なCMや、ブランドのネーミングについて説いたプロフェッショナルの言葉をひも解き、探っていきます。

人は論理やデータで動かない

「ストーリーブランディング」という言葉を生み出した第一人者として知られる川上徹也氏は、こう説明しています。

ビジネスの現場にいる方だと納得していただけると思うのですが、人は論理=ロジックやデータだけでは動かないものです。むしろ感情で動くことの方が多いくらいですよね。

(引用元:日経BizGate|人を動かすのは、感情揺さぶる「ストーリー」

たとえば、「1991年に公開された映画『羊たちの沈黙』は、作品賞や監督賞などアカデミー賞主要5部門を独占受賞しただけあり、よくできた脚本と演出、秀逸な演技で完成されたサスペンスホラーです」と論理的に説明するより、

「とにかく『羊たちの沈黙』は不気味でゾッとするけど、サイコパスなレクター博士がいい味出しているし、賞もたくさん受賞したみたい。物語にもグイグイ引き込まれるよ」と感情豊かに説明するほうが、相手の観たい気持ちをくすぐる、というわけです。

人を動かすのは「論理」ではなく「感情」の例1:アディダス

川上徹也氏は、サッカー界のスーパースターであるリオネル・メッシ選手を起用したアディダス社のCMが、前項で説明した「論理やデータではなく感情で人は動く」ことの典型だと述べています。

YouTube|adidas Impossible is Nothing - Lionel Messi

メッシ選手自身の「これが僕のストーリー」という語りからはじまり、子供のころ成長ホルモンの分泌に異常が見つかり、それが原因で背が伸びなかったこと、結果的にはそのおかげで足に吸いつくようなドリブルを習得でき、すばしっこく動いてプレイできたことなどを伝え、「人生は意外にいいほうへと転ぶ」と締めくくっています。そして、最後にアディダス社のキャッチフレーズ"IMPOSSIBLE IS NOTHING(不可能なものは何もない)"が。

商品のことは何ひとつ語っておらず、製品のクオリティとは何の関係もない映像です。それに、「莫大な契約金の有名選手をCMに起用するより、そのぶん価格を下げてほしいという主張が、消費者からあってもおかしくない」と川上氏はいいます。

しかし、海外サッカースパイク通販サイト「Pro-Direct Soccer」がYouTubeで公開しているこのCM動画には、多くの好意的なコメントが寄せられています。川上氏は、「心を動かされた消費者のなかで、アディダスの商品バリューは確実に高まった」と述べています。

人を動かすのは「論理」ではなく「感情」の例2:ナイキ

世界規模で展開する主要上場スポーツメーカーの決算業績を、2018年7月時点で改めて集計したレポートによると、ナイキ社は連結売上高363億9,700万米ドル(約3兆9,308億7,600万円・6.0%増)で1位を独走中なのだとか。

前項のCMで紹介したアディダス社は2位で、グループ全体の連結売上高は、212億1,800万ユーロ(約2兆8,644億3,000万円・14.8%増)とのこと。

企業の真の姿を見るための分析を、ケーススタディ方式で示した『ビジネスモデル分析術 数字とストーリーでわかるあの会社のビジョンと戦略』によると、以前はアディダス社やプーマ―社などとは比較にならないほど小さな会社だったナイキ社が、これほどまでに成長したのは、緻密なマーケティング戦略があったからだといいます。

その一部が、バスケットボールならマイケル・ジョーダン氏、ゴルフならタイガー・ウッズ氏という広告塔によるイメージ戦略です。1998年には、ワールドクラスのサッカープレイヤーが空港でナイキの商品を身につけ、サッカーをプレイしはじめるというCMも公開しています。

YouTube|Ronaldo & Brazilian team: Airport football for Nike commercial

これを手掛けたのは、『ミッション:インポッシブル2』や『レッドクリフ』のジョン・ウー監督。ナイキに関する説明は一切なく、「こんなことがあったら、最高だよね」という状況のみが、魅力的に描かれています。

ナイキ社は、この映像を短期間にたくさん流し、消費者の心をつかんでいったそう。

人を動かすのは「論理」ではなく「感情」の例3:Lexicon Branding

David Placek 氏は、アメリカのマーケティング企業 Lexicon Branding の創設者。この会社は、日本でも有名な消臭剤の Febreze(ファブリーズ)や、スマートフォンの BlackBerry(ブラックベリー)といったブランド名を生み出した企業でもあります。

同社は、sound symbolism(音象徴)という言語学の分野に多大な投資をしてきとのだとか。音象徴とは、音そのものがある特定のイメージを喚起する事象のこと。そうしたことを踏まえ、David Placek 氏は以下動画で「商品名のつけ方」について解説しています。

YouTube|How to name a product, from the man behind Swiffer and BlackBerry

たとえば「v」は元気と活力を呼び起こし、「b」と「t」は信頼性を思い出させるのだとか。トヨタ自動車が主に北米地域で販売していたトヨタ・ヴェンザ(TOYOTA VENZA)にも「v」が使われていますが、こちらも同社が名づけたそうです。

David Placek 氏は動画のなかで、「人は論理的に物事を進めようとするが、人の心を動かすのは論理ではない」と説いています。

また、動画では、Swiffer という掃除用具の商品名についても説明しています。アメリカ版“クイックルワイパー”ともいえるこの商品、どうみても従来のモップとは違います。しかし、企業側は「従来のモップを大幅に改善した」とアピールしたかったため、最初は「ProMop」「EasyMop」といった商品名がテーブルの上にのっていたそうです。

ところが、 Lexicon Branding 社はモップという言葉にいいイメージがないことを見出し、もっと楽しそうな「Swiffer」という商品名を生み出したそう。Sweeping(掃除)という単語がもとになっていますが、候補に挙がっていた名前よりも、ずっと掃除が楽しそうです。

結果として、この商品は15カ国で60億ドル(約6600億円)も売り上げたのだとか。商品価値の高さと、「論理」ではなく「感情」が人を動かした結果ともいえるでしょう。

「論理」ではなく「感情」で人を動かすために

もちろん、ビジネスには論理的な思考が不可欠です。人材育成に関する事業を行うトーマツ イノベーション株式会社は、ロジカル・シンキングについてこう説明します。

「論理的である」とは、あるメッセージとその根拠が、客観的に見て(立場やバックグラウンドが異なる人が見ても)違和感がなく受け入れられる状態を指します。

(引用元:トーマツ イノベーション|人材育成・教育研修|コラム|ロジカル・シンキングの鍛え方 ~合理的なメッセージ共有に必要不可欠な思考力~

しかし、「人の心を動かす」という観点では、論理的に考えすぎていると、あるいは論理的に説明しすぎると、そのパワーが生まれにくいということです。

たとえば、ロボットとしての価値が高まった「お掃除ロボット」のキャッチコピーを考えるとしましょう。その場合、「次世代ハイスペックお掃除ロボ」ではなく、「“ただいま!”がいいたくなる優秀なお掃除ロボ」とするイメージです。

アイデアを出すとき、企画を練るとき、文章を書くときなどには、“人の心を動かす”ためにも、ぜひ自分にこう問いかけてみてください。

・論理的に考えすぎてはいないか? ・論理的に説明しすぎてはいないか?

*** 人を動かすのは「論理」ではなく「感情」であるということを、アディダス社やナイキ社、Lexicon Branding 社の例と、専門家の言葉を用いて説明しました。ぜひたくさん“いいもの”を生み出し、それを人々に知ってもらい、実感してもらえるよう、「人の心を動かすテクニック」を身つけてくださいね。

(参考) 日経BizGate|人を動かすのは、感情揺さぶる「ストーリー」 Quartz|How to name a product, from the man behind Swiffer and BlackBerry Sports Business Magazine スポーツ・ビジネス・マガジン|上場スポーツメーカー、2018年度業績まとめ【外資編】(上) ナイキ、アディダス、プーマ、往年の主力ブランドが健闘見せる トーマツ イノベーション|人材育成・教育研修|コラム|ロジカル・シンキングの鍛え方 ~合理的なメッセージ共有に必要不可欠な思考力~ Wikipedia|音象徴 望月実著,花房幸範著, 三木孝則著(2013),『ビジネスモデル分析術2: 数字とストーリーでわかるあの会社のビジョンと戦略』,CCCメディアハウス.

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