「悪い習慣をやめたいけれど、そのやめ方がよくわからない……」これこそ、多くの人がいちばん悩むポイントではないでしょうか。
たとえば、お酒の飲み過ぎ、長時間残業、夜更かしなどは、実のところ「ドミノ倒し」のように負の循環で形成されています。それらの習慣はすべて連動していて、全体のリズムとして一体になっているのです。
そこで大切なことは、なにがいちばんのボトルネックになっているのかを紙に書き出し、鍵となる習慣行動を見つけること。そして、解決策をきちんと考え、実際の行動に移していくことです。
構成/岩川悟(slipstream) 写真/玉井美世子
悪習慣をついやってしまう原因を紙に書き出してみる
Aさんはつい飲み過ぎてしまう習慣を持っていて、それが悪いことだとわかっているのになかなかやめることができません。こんなとき、解決するために表面的な手法を適用してもうまくいきません。そこで、対策を立てる前に原因を紙に書き出して深掘りしていくと、悪習慣のリズムを俯瞰する糸口が見えてきます。
Aさんは、夜は缶ビールを3本、焼酎をグラスで2杯飲みます。なぜ飲むかというと、「眠れない恐怖」があるからだそう。飲まないと眠れない。眠れないと朝起きられないという怖さから、寝酒に頼ってしまうのです。では、眠れないという恐怖はどこからやってくるのでしょうか。
Aさんは、頭のなかが仕事の不安と焦りでいっぱいの状態なのです。それを自宅に持ち帰り、頭のなかが落ち着かない……。つまり、脳が仕事モードで興奮している状態がずっと続いているのです。ところが、寝酒に頼ると良くないのが何度も夜中に目を覚ましてしまうこと。トイレに頻繁に行くことで眠りの質が悪くなり、また寝つけない状態を繰り返し、「眠れない恐怖」を膨らませてしまうのでした。
そして、寝不足がたたり仕事効率が上がらず残業を繰り返してしまう……。仕事が片付かないことが多くなりがちですから、ますます眠れなくなります。
Aさんの深酒の習慣は、「眠れない恐怖」を癒すための方法になっているのです。ここまで見ていくと、「眠れない恐怖」を解消しなければ、お酒をたくさん飲むことをやめるという解決策から脱することができません。
ただ大事なポイントがここにあります。ここで考えるべきは、お酒のやめ方ではなく、寝つきやすさの習慣を追求することが本質となるということを忘れてなりません。そこは後述するとして、まず大切なことは、これくらいまで突き詰めて原因を深掘りしてみることです。
そして、原因を紙に書き出してみる。悪い習慣というのは、必ずなんらかの心理的問題からスタートしています。そこを解決するための、短絡的であり、安易であり、対処療法的な行動として続いていることがほとんどなのです。
解決策としての良い習慣をきちんと考える
お酒の飲み過ぎの原因が、眠れない恐怖からくるものだと特定してしまえば、解決策の自由度は広がります。原因が見えたら、次に3つくらいの解決の方向性を考えてください。
眠れるようにするためにすべき解決法は、
- 頭のストレスを整理する
- 心身のリラックス法を適用する
- 眠りやすくするために運動する
という方向性でAさんは考えてみました。それらを具体的に見ていきます。
1. 頭のなかのストレスを整理する 頭のなかのストレスを整理する方法としては、ストレスを紙に書き出す習慣を身につけること、または、人に悩みを聞いてもらう習慣を身につけることなどが考えられます。わたしのおすすめは書く習慣です。問題が複雑に絡み合ってたくさんの心配事を抱えていると、リラックスできずに寝つくことができません。仕事のストレスから不眠になっているのであれば、まずは心を整理することが重要。心の整理は、頭のなかの混乱を片づけることから実現することができます。
2. 心身のリラックス法を適用する ヨガ、瞑想、入浴、マッサージなど、過去の体験から効果的だったことを書き出してみてください。人それぞれ、なにが良いかは過去を参考にするのがいちばんです。
3. 眠りやすくするために運動する 頭のなかがごちゃごちゃしているときに、体を意識的に疲れさせると眠れることがあります。あたりまえですが、運動して疲労すれば眠りやすくなります。であれば、お酒に頼るのではなく、運動による身体疲労で眠りやすくするのです。眠りが浅く寝不足なのだとしたら、深く早く眠りやすくなるためには、運動して疲労することがベストです。また、運動すれば体にフォーカスがいきます。頭のなかのごちゃごちゃから離れることができますし、セロトニンというホルモンが出るので気持ちがスッキリします。
このようにして、解決策をきちんと考えていくと自分にピッタリくる方法が見つかってくるでしょう。
そこでAさんは、運動することが好循環をつくり出す鍵であると考えました。もともと体を動かすことが好きなこと、そして運動していたときは深く眠れていた経験を思い出したからです。
単に深酒やめるという考え方ではなく、体を疲れさせて寝つきを良くする習慣を得るための方法に行き着くことができました。
毎日の生活リズムに実際に落とし込む
最後は、実際に運動するという習慣により、眠れない恐怖を解消できるように習慣化していくことです。ここで問題なのは、忙しい毎日に「運動する」ことをどうやって取り入れるかでしょう。
Aさんは、職場の近くのジムに通うのが最適だと考えました。そして、40分間ランニングマシーンで走ることを決め、18時半に仕事を終えて19時にジムに行くことを決意します。運動をして汗を流し、21時には帰宅して23時には就寝するリズムで生活すると考えたのです。
このように、「深酒をやめる」というテーマの原因を深掘りしていくことで、Aさんは残業しないような仕事を心掛け、ジムでの運動習慣を生活リズムのなかに取り入れ体を疲れさせることを覚えました。その結果、良い寝つきを手に入れることができたのです。
【今回の習慣化ルール】 ・悪い習慣を解決するためには、紙に書き出して負の循環の原因を探り分析する ・原因を解決するための方向性を3つくらい考えてみる ・生活リズムのなかで実際にできる解決法を考え行動に移す