米企業Odyssey Teamsが提供する「Helping Hands」をご存知ですか? これは、チームビルディングのためのプログラムですが、「仕事に意欲がわかない」という方にも、ぜひ知ってほしい内容です。ある企業がそのプログラムを実施したエピソードとともに、仕事の目的を知ることに焦点を当て、意欲を高めるコツを提案します。
「何のため」か気づけば意識が変わる
ヨーロッパ最大級の大手ソフトウェア会社SAP SEの日本法人SAPジャパンの社員は、社員総会で、「Helping Hands」と呼ばれるプログラムを体験したそうです。
社員総会参加者が3人1組になったテーブルの上には、たくさんのパーツが置かれ、何が完成するのか知らされぬまま、わかりにくい説明書でそれをつくるよう指示されたといいます。目的もわからず難解な説明書を与えられ、面倒なことをやらされるので、さすがに文句らしきことをいう人もいたそう。
ところが、作業の途中でつくっているものについて聞かされた彼らは、大いに驚きました。それは、手の機能を失った人々のための、「義手」だったのです。
するとその瞬間、会場の空気がガラリと変わったのだとか。社員総会をサボっている同僚などを電話で呼び出したり、丁寧につくろうと意識を変えたり、もっとこうしたほうがいいとアイデアを出し合ったりするなどして、意欲を燃やし始めたといいます。そして、社員総会の参加者らは一致団結して200体もの義手を完成させたそうです。
仕事の目的を意識しないとどうなる?
前項のエピソードから、「“何のためにこの仕事をしているのか”がわかると、人は熱意を持って取り組める」と客観的にわかりました。しかし、熱意が生まれたのは「義手をつくり届ける」といった崇高な目的があったからではないか? と感じてしまうかもしれません。
ところが、それは、どんな場合でも起こり得る現象なのです。
たとえば広告関係の会社で、あるプロモーション内容がどれくらいメディアに露出されているか調べ、ひたすらそのキャプチャをとる作業があったとします。その際に目的を知らされず、ただキーワードをわたされ検索し、ペタペタとキャプチャを貼るだけだったら、やる気も集中力も維持できるはずがありません。
しかし、もしも、「画期的なプロモーションを行ったので、その効果を可視化したい。ライバル企業が多いため、今後も契約が継続されるとは限らない。露出度が高まっていることを少しでも多くクライアントに示したいので、ぜひ力を貸してほしい」といわれたら、たとえ退屈な単純作業でも、多少は熱が入るのではないでしょうか。
指示する立場なら目的を知らせるべきであり、指示される立場なら目的を把握し、それを意識すべきというわけです。
なぜ仕事への意欲が薄れてしまうのか
これまでの流れからわかるように、仕事に対し意欲を失ってしまう理由のひとつは、「仕事の目的がわからなくなっているから」だと考えられます。
「手段の目的化」という言葉をご存知でしょうか。もともと、ある目的のために選択した手段であったはずなのに、その手段を実行すること自体が目的化してしまうことです。
たとえば、恋愛成就(目的)のためにダイエット(手段)していたら、痩せること自体が目的になってしまったり、海外で仕事をする(目的)ために語学を勉強(手段)していたら、いつの間にか語学を勉強すること自体が目的になっていたり、理解・説得(目的)のためにプレゼンテーションの資料(手段)をつくっていたら、いつの間にかきれいな資料をつくること自体が目的になったりする状況のこと。
好きで選んだ仕事に意欲を失ってしまうことも、少しそれに似ています。最初は「食べることが好きなので、食に関わるため、食品関係の会社に入った」「ファッションが好きなので、洋服の仕事をするため、アパレル関係の会社を選んだ」「本が好きだから、書籍を扱う仕事をするため、出版社に入った」という取っ掛かりがあるでしょう。
しかし、「自分が好きなことに関する仕事をしたい」という目的は、「その関連の会社を選ぶ」という手段を使って、果たされてしまいます。したがって、その次は、その会社で行う仕事の目的が何であるのか、気づかなければならないのです。
それを気づく前に「意欲がわかないのは、自分が好きな仕事ではなかったからだ」と思い込み、「自分探し」の旅を始めてしまうのは、「会社を選ぶ」という手段が目的のようになってしまった状況ともいえるわけです。
仕事の目的に気づくコツとは
仕事の目的に気づき、意欲をわかせるコツは、「――のは、――ためである」という文章に、言葉を当てはめていくことです。
「これらの膨大なデータを整理しているのは、この企画提案を通すためである」と自覚すれば、うんざりしていたデータの整理にも目的意識が芽生えるし、「この資料を作成しているのは、A社に新しいサービスを採用してもらうためである」と自覚すれば、資料の美しさよりも効果に意識が向き、適切なかたちで意欲がわくでしょう。
そして、「この仕事をしているのは――」に対しても言葉を当てはめていくわけです。もちろん、「社会に役立つため」という言葉なら永続性が高いので理想的ですが、「お金を得るため」「出世するため」「モテたいため」「経験を積むため」という目的でもまったく構いません。ただし、その目的はいずれ果たされ、手段に成り代わる場合もあるということだけは意識しておきましょう。
人には自由な意思があり、進む道を自分自身で選び、人生をつくっていくことができるので、いろんな経験を重ねることは大切です。しかし、仕事の目的を知るだけで、気持ちがまったく変わってくる可能性もあると認識しておくことが大切です。避けるべきは、目的がわからないまま安易に「この仕事は意欲がわかない」「この仕事は面白くない」と決めつけてしまうことなのです。
*** SAPジャパンの社員総会に参加した方々とって「Helping Hands」の体験は、「自分たちがやっている仕事の使命は何なのか?」と考えるきっかけになったそうです。意欲がわかない……、と感じたら、ぜひ「目的は何か?」と考えてみてくださいね!
(参考) Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)|なぜ仕事をしているのか? 忘れかけた使命に気づかせる「手作り研修」 MBAのグロービス経営大学院|手段の目的化とは・意味 Wikipedia|SAPジャパン