相手の感情が分かったらいいのに……、と思ったことがある人は多いのではないでしょうか。感情や心理を読み取ることができれば、仕事や人間関係も円滑になりますよね。そんなとき、科学的根拠に基づいて調べられた行動心理学はあなたの手助けとなるでしょう。行動心理学に基づいた、すぐに使える感情の読み取り方を紹介します。
感情を読み取るには、相手の「なだめ行動」を見よ
表情や感情に関しての先駆的な研究を行ってきたアメリカの心理学者であるポール・エクマンは、言葉よりも身振り手振りや視線の動き、顔の表情などといった体の動きの方が当人の本心が表れやすいことを報告しています。言葉は表面上はいくらでも感情に反したことを言えますが、体は脳の働きによって無意識のレベルで反応してしまいます。そこを見逃さずに注目することで相手の感情を見極めることができるのです。
例えば、ヒトは恐怖や脅威、ストレスを感じると、気持ちを落ち着かせるため脳が体を動かし、心の動揺をなだめる行動を取ります。この「なだめ行動」が見られたら、相手が不快になっているサイン。具体的には、以下のような行動があります。
・額で手をこする ・首に手を当てる ・頬や鼻など顔に触る ・頬を膨らませゆっくりと息を吐く ・髪を触る
この行動を相手がとったら、何かしらの恐怖やストレスを抱えている可能性が高いのです。例えば会話中にこのようななだめ行動が見られたら、つまらないと感じているのかもしれません。話題を変えてみたり、話を中断したりして、相手の持っている不快感を軽減させましょう。また、後輩に仕事を任せたときにこういったなだめ行動が見られた場合には、必要以上にプレッシャーを感じているのかもしれません。緊張をほぐすような言葉をかけるなどして、後輩のストレスを取り除いてあげましょう。
このように行動から相手の感情を推測できるようになると、ビジネスにおいても大いに役立ちます。しかし、打ち合わせをしている最中に相手の表情から体の細かい動きまでチェックするのは大変ですし、失礼に当たってしまいますよね。
では、どうやって相手の感情を読み取ればいいのでしょうか。実は、すべての動きを見ずとも、心の動きが表れやすい体のパーツがあるのです。
相手の心理状態を知れるパーツは「足」
足は、時々の心理状態が表れやすいパーツのひとつ。足の動きに注目して、相手の好意や不安な気持ちを読み取ってみましょう。具体的には、以下の3つのポイントが挙げられます。
1. 足の開き具合から興味の有無が分かる アメリカの臨床心理学者であるジョン・ブレイザーは、会話中に足を開いている人は楽しんでおり、足を閉じている人は相手の話に興味を持っていない、ということを報告しています。相手が足を閉じてきたら早めに会話を切り上げるか話題を変えるのがいいでしょう。一方で、楽しんでいる分こちらの話をしっかりと聞いてもらえるので、相手に何か頼みたい場合には足を開いているときが狙い目です。
2. つま先の方向から好意の有無が分かる つま先の向きは好意や関心を表します。つまり、相手のつま先が自分の方を向いていれば、こちらに興味があって好意を抱いてくれている証拠。逆に自分とは違う方向に向いてしまっている場合は、相手は退屈していて関心を持ってくれてはいないのです。話しているときは相手のつま先の向きにも気にかけるようにしましょう。そっぽを向いてしまったら興味がない話になった証拠なので、話題を変えながら関心を探ってみてください。
3. 足組みから不安の有無が分かる 足組みをしているときは不安を抱いていることが多いのだとか。無意識のうちに不安から自分を守ろうとしているのです。じっとしていられずに足をよく組む人を見かけたら話を聞いてみましょう。何か悩みを抱えているかもしれません。話を聞いているうちに足組がほどけてきたら、不安が解消されてきている合図です。
手や口の動きはどんなサイン?
足以外にも相手の感情を読み取る際によく使われる箇所を見てみましょう。
1. 「手」に出てくる心のサイン ・膝や太ももをこする:不快・不安 ・額をこする:不快・体調が悪いときに見られることもある ・喉もとに触る:女性によくみられるなだめ行動 ・首の後ろに触る:男性によくみられるなだめ行動 ・髪の毛を触る:緊張・ストレス。女性に多い
一般的に、動きが多くなったときには緊張や不快感を感じてなだめ行動を取っていると考えられます。男性と女性でよく見られるパターンが異なることから、異性と接しているときに自分の感覚で考えると見落としをしてしまう可能性が高くなります。恋人と過ごすときや、仕事で異性の方と一緒に取り組むときにはよりいっそう注意してみましょう。
2. 「目」に出てくる心のサイン ・まばたきが多くなる:弱気・緊張 ・瞳孔が開く:好き・興味がある ・視線を逸らす:興味がない・拒否 ・自分の左上を見る:過去を思い出す ・自分の右上を見る:物事を想像する
過去の話をする際に、本来は思い出すため左を向くはずの目が右を向いていれば、相手がウソをついている可能性があります。ただし利き手や癖で異なる場合もあるので、「修学旅行はどこに行った?」など、嘘をつく必要のない過去に関する質問をして、そのときの目の動きをチェックしておくと、判断の確実性をより高めることができるでしょう。
相手の表情ではなく、体の動きに注目することがポイントです。相手の様子を観察して感情を読み取る方法を身につけることができれば、相手の興味・希望に合った対応ができ、コミュニケーションも円滑になります。
*** 行動心理学の視点から相手の感情を読み取る方法を紹介しました。ビジネスや恋愛などさまざまな場面で活用できます。もちろん、すべての人すべての場合に当はまるわけではありませんが、科学的な根拠に基づいた指標なので一度使ってみることをおすすめします。
(参考) 植木理恵(2012),『植木理恵のすぐに使える行動心理学』, 宝島社. 齊藤勇(2015),『今日から使える行動心理学』, ナツメ社. 植木理恵(2016),『植木理恵の人間関係がすっきりする行動心理学』, 宝島社. 武川直樹(2002), コミュニケーションにおける視線の役割 : 視線が伝える意図・気持ち, 電子情報通信学会誌, 85(10), pp.756-760. Wikipedia|ポール・エクマン