みなさんは、自分とは違う価値観や行動パターンを持つ人と一緒になって、困惑した経験はありませんか。
例えば、自分の今までの経験や価値観とは全く違うカルチャーの部署に異動したとき。または、自分とは違う考え方をする人と同じグループになって議論をしなければならないとき。相手が主張の強い人であればあるほど、自分がどんな態度を取ればよいのか、わからなくなってしまうのではないでしょうか。
どんな人ともうまくやれる、というタイプの人であれば、適当に受け流したり自分のなかで解釈しなおしたりして、その場をやり過ごすことができるかもしれません。しかし、あまりコミュニケーションが得意でないという方は、状況にうまく対応できず、相手に対して好意的でない行動をとってしまうこともあるでしょう。でもそれでは、その後の相手との関係性に悪影響を及ぼしかねませんよね。
今回は、このような対人関係における心理的危機に遭遇した場合にどのように対処すればよいのかについて、お伝えしたいと思います。
人は心理的な危機に対し、どのような行動をとるのか?
神戸女学院大学人間科学部教授である小林知博氏によると、上記の例に挙げたような心理的危機に遭遇した人がとる行動は、数タイプに分けられるのだといいます。そのタイプとはどのようなものなのか、いくつかの傾向を見てみましょう。
まず挙げられるのが、異質な習慣や文化に対して拒否的な反応を示してしまう拒否的タイプ。例えば、新しい職場に馴染もうと頑張ったものの、心がついていかずに休んでしまったり短期間で辞めてしまったりするのは、このタイプです。
そして、拒否的タイプとは違って「闘う」ことによって脅威の対象を退けようとするのが攻撃的タイプ。自分とは違う考えをする人同士、議論がヒートアップしすぎてけなし合いになってしまうのには、この攻撃的な傾向が出ていると言えます。
さらに、異質性を鵜呑みにし自分と同質化しようとするのは迎合的同化タイプと言います。自分を抑えて、周囲の意見に従うのはこのタイプです。一見うまく対処しているように見えますが、最終的に張りつめていた糸が切れてしまう可能性があるため、3つの中では一番危険なタイプと言えるでしょう。
異質な相手をうまく受け入れる方法
ここまで、心理的危機に対する3つのパターンを見てきましたが、自分のタイプに当てはまるものはあったでしょうか? 次は、どのような行動をとれば、異質な相手を上手に受け入れることができるのかについて見ていきましょう。
ここで参考にしたい行動パターンがあります。それは、積極的適応タイプというカテゴリーに属する人々の行動傾向です。このタイプは、他者の異質性を認め、自文化と異文化の共存をはかろうとする理想的なタイプ。相手の考え方に対して「受け入れられない」とすぐにジャッジを下す前に、どういった点が受け入れられないのかということを考え、自分と異なる意見でも柔軟に取り込み、納得できる妥協点を見出そうとするのです。
このタイプと上に挙げた3つのタイプとを比べて、どのように行動を改善すれば対人関係についての不安を減らせるのか考えてみることにします。
1. 拒否的タイプに当てはまる人は……
周囲の人々は自分と同じ価値観を持つ人ばかりではありませんし、異質な相手をある程度理解することができたとしても、すべてを受け入れられるわけではないでしょう。ですから、拒否的行動が自然と出てしまうことは仕方がありません。しかし、相手との関係性を考えると、拒否的な行動はできるだけ取らないほうが良いですよね。
そこで積極的適応タイプの行動にならって、「今自分は、何を嫌だと感じているのか。その理由は何なのか」を分析してみてください。
心理学研究家であり作家の秦由佳氏は、嫌な現実には自分の強い執着が隠されていると言います。「自分はこの人と合わない」ということに執着しすぎると、余計に不安や恐怖といったネガティブな感情が高まってしまうのです。相手を受け入れられないと感じたときは、その理由を論理的に考えることで、冷静になって相手に対応できるはずです。
2. 攻撃的タイプに当てはまる人は……
自分とは異質な相手をつい批判してしまう人は、自分の考え方のみで相手を判断してはいけないのだということを理解する必要があります。頑固なままでは、いつまでたっても相手の意見を受け入れることなどできないからです。
積極的適応タイプのように相手の考えを柔軟に受け入れるには、自分からの提案が功を奏します。もし、職場でどうしても相手の意見と合わない場合には、「改善シート」なるものを作ってみてはいかがでしょうか。相手の行動や考えなどについて気になる点があったら、陰で愚痴をこぼすばかりではなく、相手に代案を示してみるのです。
このとき、相手の性格や言動をあげつらうのではなく、仕事の成果に結びつく改善案に一緒に取り組む、という姿勢が大切です。もしかすると、相手にも喜ばれる案が生まれるかもしれません。ただ、個人的な感情を持ち込まないようにのみ注意してください。
3. 迎合的同化タイプに当てはまる人は……
自分を抑えて相手の意見に従おうとしてしまいがちな人は、無理に相手と同じ立場に立とうとして、相手の意見を鵜呑みにし過ぎないことが必要です。
確かに、相手の考え方を理解し取り入れることは大切なことです。しかし、自分の意見と合わないところがあるならば、決して自分を抑え込むのではなく、相手との意見のすり合わせをはかりましょう。それで双方納得のもと、それぞれが持っている意見よりも優れた案を生むことができれば言うことはありません。積極的適応タイプの人が取っている行動は、まさにこういうものです。
もしかしたら、最後までお互いの意見が平行線のまま、ということもあるかもしれませんが、それでも良いのです。お互いに話し合った結果意見が合わなかったということと、話し合いもせずに意見が合わなくてネガティブな感情を溜め込んでしまうのとでは、全然違います。その場合は、信頼できる上司など第三者の立場にある人にも相談して判断を仰ぎましょう。
*** ご紹介した3つの行動タイプを取ることは決して悪いことではなく、むしろ心理的危機に対する健全な反応です。しかし、もしコミュニケーションをより円滑に取れるようになりたいと思ったら、自分がどのタイプに当てはまるか考えたうえで、積極的適応タイプに近づけるよう、自分の行動を見直してみてください。きっと、周囲との関係がより良くなりますよ。
(参考) 米谷淳・米澤好史・尾入正哲・神藤貴昭著(2012),『行動科学への招待―現代心理学のアプローチ』,福村出版. 秦由佳著(2013),『120%心地よい自分で生きる方法 がんばらない人ほどうまくいく』,PHP研究所. 平田譲二著(2014),「既存研究からみた異文化適応能力」,Sanno University Bulletin,Vol34,No.2,pp.39-55. コトバンク|防衛機制