仕事などでプレゼンする際、ただ自分の伝えたいことを話すだけでなく、せっかくなら聞き手を惹きつけるようなプレゼンをしたいですよね。
2020年のオリンピックの開催地を巡って行われた、候補地の代表同士のプレゼンテーション対決を覚えていますか? 開催地として東京が決まった際には、あの会場内の関係者のみならず、日本全体が熱狂したことが記憶に新しいはずです。
日本人といえば論理的な説明が下手で、パフォーマンス能力もあまり高くはない、というのがこれまでの常識でした。しかし、あのプレゼンは使う言語が英語やフランス語であったにもかかわらず、5人ともそれぞれ個性的で説得力に富み、世界から高い評価を受けました。そして見事に、他の開催国を差し置いて、東京でのオリンピックの開催を勝ち取ったのです。
では、あのIOC総会での感動のスピーチがどのように演出されたのか、そこから学んだ人を惹きつけるプレゼンテーションの原則を紹介していこうと思います。
共通点は「3の原則」!?
話をする時には、3つにまとめることが黄金パターンだと言われる「3の原則」があります。まず、話の展開を大きくA,B,Cの3つに区分します。そして、そのA,B,Cの各要素にもより小さな要素としてa,b,cを入れていきます。そして、さらにはそのa,b,cの中にも1,2,3のより小さい要素を入れる、というように、ロシアの人形マトリョーシカのような構造で文章を作っていくのです。
プレゼンテーションでの5人のスピーチには、その「3の原則」の厳守があったと言われています。例えば、招致委員会理事長の竹田氏は、「3の原則」を以下のように使っています。
第一に、オリンピック・ムーブメントの成功を、財政的にもスポーツ的にも一番継続させることができるのはどこの都市なのか。 第二に、大会を成功に導けるのはどこの都市なのか。 そして最後に、スポーツが直面しているこの困難な時代に、一国としての問題を超え、グローバルなビジョンで、オリンピックの価値を推進できるのはどの都市なのか
(引用元:THE HUFFINTON POST|オリンピック東京プレゼン全集)
このように述べることで、聞き手には、整理されているというような印象を残すことができ、聴きやすく、説得力が増すのです。
聞き手を引き付ける「キーワード主義」
ニュースなどで専門家が出てきた際に、わかりやすい解説どころか難しい話を延々とされて聞くのを止めてしまった、ということはありませんか? これは、話の全体像をとらえずに、部分的な話に固執してしまうというミスが根本にあります。
これを避ける方法が、話を「キーワード主義」で組み立てることです。日常会話にさえ、伝えたいことがあり、それを伝えるまでの流れというものが存在します。そしてそれを確実に把握して整理し、相手に伝わるようにすることで、より伝わりやすい話をすることができるのです。
竹田氏のスピーチでは、東京の持つ強さが全てのオリンピック・ファミリーに恩恵をもたらすとして、3つのキーワードが示されていました。それは「Delivery,Celebration,Innovation」です。
これらの3つの単語がどれもポピュラーな単語であるというのもポイントの1つといえるでしょう。
「ストーリー」は人を惹きつける
女子陸上選手でパラリンピック選手の佐藤真海さんのスピーチは、下記の3つに分けられます。
A)自身の経験 B)東日本大震災について C)オリンピックが持つ力
彼女のスピーチは、「3の原則」で紹介した最初のABCの内、結論であるCを最初に述べるという方法を使っています。
まず、下記のようにスピーチを始めました。
私がここにいるのは、スポーツによって救われたからです。スポーツは私に人生で大切な価値を教えてくれ ました。それは、2020 年東京大会が世界に広めようと決意している価値です。
(引用元:THE HUFFINTON POST|オリンピック東京プレゼン全集)
次に、自身の経験を話します。
19 歳の時に私の人生は一変しました。私は陸上選手で、水泳もしていました。また、チアリーダーでもありました。そして、初めて足首に痛みを感じてからたった数週間のうちに、骨肉種により足を失ってしまいました。
(引用元:THE HUFFINTON POST|オリンピック東京プレゼン全集)
続けて、東日本大震災について触れます。
2011年3月11日、津波が私の故郷の町を襲いました。6日もの間、私は自分の家族がまだ無事でいるかどうかわかりませんでした。そして家族を見つけ出したとき、自分の個人的な幸せなど、国民の深い悲しみとは比べものにもなりませんでした。
(引用元:THE HUFFINTON POST|オリンピック東京プレゼン全集)
そして、再び冒頭の話に戻るのです。
私達が目にしたものは、かつて日本ではみられなかったオリンピックの価値が及ぼす力です。そして、日本が目の当たりにしたのは、これらの貴重な価値...卓越、友情、尊敬...が、言葉以上の大きな力をもつということです。
(引用元:THE HUFFINTON POST|オリンピック東京プレゼン全集)
また、個人的な話をすることによって、一般論を語るときには感じない、親近感を聞き手が感じることができます。
このように、ちょっとしたテクニックを上手く使うことによって、多くの人を動かすプレゼンテーションは可能になります。日常会話でも応用可能なテクニックだと思うので、ぜひ試してみてください。
(参考) 斎藤孝(2014),「すぐに使える!頭がいい人の話し方」,PHP新書 日経ビジネス|7つの法則であなたも「五輪招致」並みのプレゼンを THE HUFFINTON POST|オリンピック東京プレゼン全集