「あの人の話には引き込まれる」 「人の心を動かすスピーチができるようになりたい」
そう思うことはありませんか?
やはり、しゃべることがうまいビジネスパーソンは、どこへ行っても目立ち、それだけで仕事ができるように見えますよね。「話す」技術を身につけたいというのは、多くの方が願うこと。StudyHackerでもこれまで、多くの記事でスピーチ・プレゼンのテクニックや心得をお伝えしてきました。
今回は、ここに気をつけるだけでいつものスピーチがさらに魅力的になる「3つのポイント」をご紹介いたします。難しいテクニックやおおげさなマインドセットは要らない、実践しやすいポイントに絞りました。今日から、スピーチに活かすことができますよ!
1.「つかみ」をあらかじめ用意する
良いスピーチをするには「つかみ」が重要です。
はじめが肝心、という言葉があります。なにをするにも、はじめがしっかりとしていればその後もうまくいくという意味です。曲でいうイントロ、お笑いでいうつかみ。「はじめ」は、いろいろな分野で名前がつけられるほど重要なものだということがわかります。
スピーチにおいてもこの法則は当てはまります。「自分はうまいつかみなど思いつかない」という方もご安心を。思いつかなくても、覚えておけばいいのです。幸いにも、スピーチは一方的なコミュニケーションですし、つかみの部分はスピーチの冒頭にあたるので、聴衆の反応を見ながらアドリブで考える必要はありません。つかみの言葉は、あらかじめ決めておきやすいものだといえます。
つかみの部分で重要なのは、聴衆の共感を得ることです。聴衆が共感できることを言うと、聴衆とスピーカーであるあなたとの心の距離が縮まります。「今日は寒いですね」など本当に簡単なもので構いません。はじめにひとこと、共感できる言葉を言う。これを心がけることで、場の空気をやわらかくすることができるほか、話し手としての緊張も解くことができます。
また、つかみとしてエピソードを語るのも効果的。以下のような例があります。
スピーチの達人とされる小泉進次郎氏は、ある講演会の冒頭でこう切り出した。 「民主党へ政権が交代した選挙で、初当選したときのことです。当時、世襲した政治家への風当たりが相当強く、自民党への失望感とも重なって、演説しても話を聞いてもらえなかった。自分の名刺を破られ、演説する横で太鼓を叩かれ、わざと足も踏まれた」 小泉氏が昔を振り返り、こんな苦労話を明るく話し始めると、聴衆は瞬時に話に引き込まれた。
(引用元:SankeiBiz|ジョブズ氏の「5分間」はだから凄い 心をつかむ“絶品スピーチ”の条件)
「共感を得るつかみをストックしておく」「エピソードをあらかじめ用意しておく」これだけで、スピーチの冒頭で聴衆を引き込めるだけでなく、話し手も自信を持つことができ、そのままスムーズにスピーチの本題に入ることができます。
2. 話し手の感情に聴衆を感染させる
スピーチでは、聴衆に話し手と同じ感情を味わわせることで、聴衆をより話に引き込むことができます。
人は、周りにいる人の感情に感染するもの。楽しんでいる人と一緒にいると自分も楽しくなり、落ち込んでいる人と一緒にいると自分まで落ち込んだ気分になる――。皆さんにもそんな経験がありませんか? このように、感染の効果はかなり大きなものなのです。
感情の感染は、脳科学的には「ミラーニューロン」の働きであると説明できます。
感情の伝染を引き起こしているのは、脳内のミラーニューロンと呼ばれるものです。神経細胞の一つで、他人のまねをするよう自分の行動に働きかけているものだと考えられています。これは、他人の考えをより深く理解するため、また模倣により他者から技能を習得するために備わっている能力で、人間にとっては欠かせないものです。
(引用元:マイナビウーマン|相手の気持ちが移ってくる「情動感染」とは?―より伝わりやすいのは負の感情)
この脳の働きをスピーチにも活かしましょう。話し手自身が、聴き手に味わってほしい感情を放つのです。
例えば、社員に集まってもらい、新しい企画を発表するスピーチを行うとき。聞き手に企画への期待感を抱かせたいのならば、話し手自身がワクワクした気持ちで話しましょう。また、自らが経験した深刻なトラブルの事例を共有する場合は、聞き手にも事の深刻さを味わってほしいですよね。そこで、聞き手が静かに聞き入ることができるよう、ゆっくりと落ち着いた気持ちで語りましょう。
聞き手に話し手の感情が伝わり、話し手と同じ感情を抱かせることができれば、必ずや聴衆を話に引き込むことができるはずです。
3. 大事なワードは反復する
いつものスピーチをいっそう魅力あるものにするためには、重要なワードを繰り返し、聴衆に強く印象付けることが効果的です。同じワードを反復すると、しっかりと相手に伝えることができます。
これは、歴史上様々な演説にも用いられてきたテクニックです。例えば、米国大統領の演説では単純なワードが何回も繰り返されます。バラク・オバマ元大統領の「Yes, we can」はその好例。2008年の大統領選挙に勝利した際の演説でオバマ氏が繰り返した「Yes, we can」の回数は、7回にものぼります。
また、アフリカ系アメリカ人の公民権運動の指導者として知られたマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが、人種平等と差別の終焉を呼びかけたとき、彼は「I Have a Dream」と繰り返し述べました。その回数は8回。何度も何度も呼びかけることで、明確に自分の言いたいことを表現したのです。
これは、普段のスピーチでも使えるテクニックです。主張を何回も繰り返しましょう。例えば、「タイムマネジメントが重要である」という内容で話すのであれば、「タイムマネジメントはとても重要です」と何回も繰り返し主張するのです。すると、タイムマネジメントは重要なんだと聴き手の頭の中に残すことができます。それができれば、自分の意図した内容をしっかりと相手に伝えられたことになりますね。
逆に、いくら一生懸命スピーチをしたとしても、伝えたいことを聴き手の記憶に残すことができなかったのなら、そのスピーチは失敗と言わざるを得ません。プレゼンのスペシャリスト・マイクロソフトテクノロジーセンターの澤円センター長は、繰り返しの重要性について次のように述べています。
これだけは伝えて聞き手に覚えて帰ってもらうべきことだけをまとめておきましょう。3つくらいのポイントにまとめて、そのことだけは絶対に伝えられるよう、繰り返し繰り返し練習する。一番重要なことなのですから、頭が真っ白になったとしたら、それだけを100回言ってもいいんですよ。逆にどんなに流暢に話せても、そのポイントを聞き手に伝えられなければ失敗です。
(引用元:StudyHacker|成功するプレゼンと失敗するプレゼンにはどんなちがいがある?——“世界ナンバーワン・プレゼンター” 澤円さんインタビュー【第2回】)
いろいろなことを話していると、結局相手の頭の中に何も残らなかったということになる可能性があります。相手の頭の中に、ひとつ(または2、3)の「反復された言葉」を残すことで、相手の行動にまで影響を与えるスピーチができるようになるのです。
*** スピーチのコツは、「つかみ」「感染」「反復」。まず共感を呼ぶつかみを準備し、話し手の感情に聴き手を感染させ、伝えたいことは何度も反復する。これらを心がけることで、しっかりと相手の心に響くスピーチができるようになりますよ!
(参考) ギュスターヴ・ル・ボン著,桜井成夫訳(1993),『群衆心理』,講談社. マイナビウーマン|相手の気持ちが移ってくる「情動感染」とは?―より伝わりやすいのは負の感情 Wikipedia|I Have a Dream SankeiBiz|ジョブズ氏の「5分間」はだから凄い 心をつかむ“絶品スピーチ”の条件 StudyHacker|成功するプレゼンと失敗するプレゼンにはどんなちがいがある?——“世界ナンバーワン・プレゼンター” 澤円さんインタビュー【第2回】