周囲の人に良い印象を与えたい、もっと自分に対する評価を上げたい……。そう思ったことはありませんか?
今回は、心理学の知見に基づいて、周囲からの自分への評価を高めるための簡単な方法をご紹介します。自然に、且つすぐにできて、大きな効果を得られますよ。
誰かを「努力家」と褒めると、自分まで「努力家」だと思われる
Spontaneous Trait Transference「自発的特性転移」という心理学用語があります。一言でいうと、他人の特性について話すとき、話している本人までもがその特性を持っていると思われること。
例えば、Aさんが同僚のBさんの前で上司を「優しくて努力家」と褒めたとします。すると、その発言を聞いているBさんは、話をしているAさん自身が「優しくて努力家」だと思うようになります。
トピックに挙がっているのは上司の長所。Aさん自身が優しくて努力家だとは決して言っていません。Aさんはただ上司の特性を褒めているだけなのに、それを聞いているBさんは、無意識のうちにその特性がAさんのものだと思うのです。
一方、AさんがBさんの前で上司について「責任感がない」と悪口をいったらどうでしょう。するとBさんは、上司の「責任感のなさ」について話しているAさん自身が「責任感がない人」だと思ってしまいます。
ポジティブなことであれネガティブなことであれ、聞き手からすると、話に挙がっている第三者の「特性」が、話し手に「転移」して聞こえるのです。
自発的特性転移は、Ohio State UniversityのSkowronski JJ、Carlston DE、Mae L、Crawford MTの研究によって注目されるようになりました。
実験では、被験者に写真やビデオが見せられ、それに関して口頭説明がなされた。(中略) 口頭説明はポジティブまたはネガティブな特性を含むもの。例えば、ある男性の写真について「この男性は動物が嫌い。今日彼は店に行き、子犬を見た。そして子犬を足で蹴り飛ばした。」と他者が口頭で説明する。 ここでは、写真に写っている男性の「残酷さ」というネガティブな特性が表されている。話し手はその説明をしているだけ。しかし、説明を聞いている被験者は、話し手自身が「残酷だ」と感じるという結果になった。 話に挙がっている第三者の特性が話し手に転移する傾向は、「話し手と話す内容は一切関係がない」と被験者に明確に示されたときに、特に強くなった。
(引用:BLTC|Speak well of the living; Spontaneous Trait Transference)
この現象は非合理的で、無意識的だとSkowronski JJらは述べています。他人の特性として話しているのに、意識しないうちにそれが話し手自身に当てはまると思われてしまうなんて、びっくりですね!
第三者への褒め言葉は自分の評価に反映される
自発的特性転移を利用すると、自然な形で自分の印象を良くすることが可能。以下の手順に従うと、自分の理想の人物像と周囲からの実際の評価を近づけることができるようになりますよ。
1. 「周囲の人にこう思われたい」という自分の理想像を表すキーワードを書き出す
あなたはどんな人だと思われたいですか? 自分の長所と認識して欲しいことや、理想の特性を表すキーワードをリスト化してみましょう。以下に例を挙げておきます。参考にしてください。
信頼できる・親切で優しい・面白い・前向き・嘘をつかない・誠実・素直・まじめ・努力家・社交的・論理的・クリエイティブ・向上心・行動力・計画性・主体性・協調性・忍耐力・リーダーの素質がある・一緒にいて楽しい……
2. 選んだキーワードを第三者への褒め言葉として話す
よく思われたい相手に向けて、共通の知り合いのことを、1で選んだキーワードを使って褒めてください! 聞き手は、その褒め言葉の内容が、話し手である自分にもそっくりそのまま当てはまると思うでしょう。
上司や同僚、友人や恋人や家族など、誰でも構いません。ポジティブなことを言うときは、笑顔も忘れずに!
悪口の内容は自分の評価にそのまま反映される
逆に、他人への悪口の内容も、自分にあてはまると思われてしまいます。第三者の欠点を悪く言うことは、ありもしない自分の欠点を主張しているのと同じこと。他人に関するネガティブなことは言わないように心がけましょう。
他人の話をするとき、聞き手は無意識のうちに話の内容を話し手であるあなたに関連づけます。友人や同僚を褒めれば、あなたも長所が多くて素晴らしい人だと思われます。一方、友人や同僚の失敗に関して不満を言えば、無意識的にあなた自身も能力がない人だと思われてしまいます。
(引用:Richard Wiseman (2010), 59 Seconds: Change Your Life in Under a Minute, New York, Anchor.)
人を褒めることで得られる第二の効果
褒めることには、気持ちを安定させる効果もあります。
脳生理学者の有田秀穂氏は、著書『「脳の疲れ」がとれる生活術: 癒しホルモン「オキシトシン」の秘密』のなかで、ほめるとオキシトシンが脳内に分泌されると述べています。 以前は女性だけのものと考えられていたこの脳内物質は、男性も年齢も関係なく分泌すると分かっています。そのオキシトシンの効果はこのとおり。 ・人への親近感、信頼感が増す ・ストレスが消えて幸福感を得られる ・血圧の上昇を抑える ・心臓の機能を良くする ・長寿になる 同氏は人間の「心」が脳の前頭前野にあるといい、オキシトシンが分泌されると、その「心」を変えてくれるといいます。つまり人をほめるだけで、その人自身の気持ちを安定させ、人に対する気持ちさえも変えてくれるということです。
(引用:「人をほめる」は自分の脳にも効果大! 相手のため、自分のための “上手なほめ方” 教えます。)
褒めることで、周囲からの自分の印象が良くなるだけでなく、自分自身の心の安定も得られるなんて、一石二鳥ですね!
*** よく「人の悪口を言ってはいけない」と聞きますが、そのカラクリはここに潜んでいたようです。自発的特性転移をうまく利用して、周囲からの自分に対する評価をアップさせましょう!
(参考) Richard Wiseman (2010), 59 Seconds: Change Your Life in Under a Minute, New York, Anchor. NCBI|Spontaneous trait transference: communicators taken on the qualities they describe in others BLTC|Speak well of the living; Spontaneous Trait Transference Barking Up The Wrong Tree|How does what you say about others reflect on you?