「暗記物は寝る前にやるべき」「読解力はひたすら読書をすることで身につく」「起きて3時間は頭が働かない」……。 今回は、さまざまな勉強法の効果を科学的に再検討してみます。
暗記物は寝る前に?
「記憶が定着するのは睡眠中だから、暗記物は寝る前にやりましょう」こんなことを言われたことはありませんか? この発言はおおむね正しいようです。記憶の定着は、レム睡眠という浅い眠りのときとノンレム睡眠という深い眠りの時の両方で行われているということが最近の研究からわかっています。どっちの睡眠でどんな種類の記憶が定着するのかはまだ分かってないので、両方ともしっかりとる、つまり最低でも6時間は寝るようにすべきでしょう。
睡眠は記憶の定着だけではなく記憶を向上させることもわかっています。ある研究によると、タイピングを習得した被験者たちは、練習をしなくても、睡眠を何回かとるだけでタイピングの能力が向上していったようです。しかしここで注意することは、「すべての記憶が睡眠によって定着・向上するというわけではない」ということ。特に感情を揺さぶられる記憶、もしくは自分が重要だと思う記憶が定着・向上することが実験から明らかになりました。 つまり、何かを効果的に記憶するためには、記憶する対象に感情を持ち、またそれを記憶することがなぜ重要なのかを意識するべきでしょう。(例:「この単語は面白い綴りをしているなあ」「明日の商談のために覚えなくては」)
ちなみに睡眠は、自分にとって重要な記憶を特に定着させるわけなので、よく聞く「重要な選択は一晩寝てから考えよう」という発言もまた正しいということのようです。突発的に何かが欲しくなったとしても、一晩寝てから考えれば、翌朝の記憶の状態により、自分にとって本当に必要なものなのかわかるかもしれません。
読解力を向上させるためにはひたすら本を読むべき?
結論から言えば間違いのようです。ベネッセ教育研究開発センターの研究によると、一か月に本を1~3冊読んだ学生とそれ以上読んだ学生の間に、読解力の差がほとんどないことが明らかになりました。ただし、0冊と1~3冊読んだ学生の間では大きな差があり、月に1冊は本を読んだ方が良いということになります。「読解力を上げるためには読書は必要だが、多ければ多いほど効果が上がる」というわけではな、ということですね。
読解力をつけるには、読み方を工夫することが一番の近道です。工夫例としてはSQW3R法という方法があり、ここで紹介していますのでぜひ試してみてください。 ☆文章を完璧に理解する! 欧米で注目『SQW3R法』という読み方
起きて3時間は本当に頭が働かないの?
これは本当のようです。さらに恐ろしいことには、起きた直後の脳は徹夜した脳よりも悪いパフォーマンスをするということです。ある実験結果によると、被験者が8時間しっかり寝て起きた直後の場合と26時間寝ていない場合で数学のテストをすると、後者の方が良いパフォーマンスをしたそう。なるほど、睡眠不足より、起きた直後の方がよっぽど悪いということですね。
さすがに起きてから2時間経てばある程度は脳が働くようになるようですが、それでも100%の能力は発揮できないということがわかっています。やはり本来の能力を発揮するためには起きてから3時間は欲しいものです。 ちなみに「論理的思考能力が必要なものは朝にするべきだ」と言いますが、少なくとも起きた直後は頭が働かないので早起きして、3時間経ってから勉強すべきだと思います。起きてすぐの時間は気晴らしや趣味などに充てるのが良いのかもしれませんね。
人の集中力は2時間しか持たない?
本やネットなどで色々調べてみましたが、諸説あるようです。15分しか持たないと主張している人がいれば10時間は持つと言っている人までいます。このことから、集中力が持続する時間は人によってまちまちではないかと考えられます。自分の集中力持続時間を今までの経験から把握すること、そして集中力が切れる時間になったら休憩すること。これが良いパフォーマンスを継続するために必要です。
*** いかがでしたか。今回のように、勉強方法の科学的根拠を探ることは、純粋に面白いですし、実はそれだけで学習意欲を向上させるということもわかっています。今回取り上げられなかった勉強法もたくさんあるので、ぜひ、自分でも時間があるときに自分が知っている、もしくは使っている勉強方法について調べてみてはどうでしょうか。 参考文献 Robert Stickgold,「記憶・免疫・ホルモンを活性化−睡眠パワーに迫る」,古川奈々子ほか訳,日経サイエンス,2016年1月,46巻,1号,p.32-39. Benesse|データからみる今と未来 第27回 New Scientist|Eyes open, but not wide awake