習慣化が人生を変える——わたしは常日頃そう提唱していますが、今回はポジティブ心理学の「幸福の公式」をベースに、幸せと習慣化について解説していきます。「幸福の公式」を知り生活のなかで意識すれば、きっとあなたは自分の思い描く幸せに近づいていけるでしょう。
構成/岩川悟(slipstream) 写真/玉井美世子
ポジティブ心理学が生んだ「幸福の公式」
古代ギリシャの哲学者・アリストテレスは、「人生の目的は幸せ(幸福)になることである」という言葉を残しています。では、幸せになるにはどうすればいいのでしょうか? お金持ちになれば幸せになるのか、出世して名誉を得れば幸せになるのかなど、とても定義が難しいものです。
心理学の新しい領域として、「ポジティブ心理学」と呼ばれる分野が存在します。この「ポジティブ心理学」とは、心理学を心の病の治療ではなく、より心の豊かさを高めるために使っていこうというもの。この分野の第一人者である、ソニア・リュボミアスキー、エド・ダイナー、マーチン・セリグマンの3人の教授が研究開発したのが、「幸福の公式」です。
幸福の公式とは、
H = S + C + V 幸福(Happiness)= 規定値(Set point)+ 生活状態(Condition of living)+ 自発的活動(Voluntary Activities)
というものです。簡単に3つの要素を解説します。
1つ目の「規定値」とは、ものの考え方やとらえ方です。たとえば、「コップに水が半分も入っている」ととらえるのか、「コップに水が半分しか入っていない」ととらえるのか、ということ。事実は同じであっても、解釈の違いで、感情とその後の行動は変わっていきます。事実をどう解釈するかで、幸福度への影響は40%程度あるとされています。
2つ目の「生活状態」とは、人生における出来事(幸運、不運)のこと。一時的に何かが起きても感情は一瞬上がったり下がったりするだけで、長く影響しないそうです。たとえば、出世して給与が上がってもそれが長く幸福に影響もしないし、会社の倒産や病気などがあって一時的には感情が下がっても、再びその人が持つ規定値に戻っていく。規定値でポジティブにとらえられる人は、結局のところポジティブな側面を見るし、ネガティブな側面を見る人はそこに集中してしまうのです。人生で起きてくる出来事により、幸福度への影響は10%程度あるとされます。
3つ目の「自発的活動」とは、人生や生活を自分で選んだ活動をしているか、もしくは自分で選んだ感覚を持って生きているかというもの。たとえば、日常生活で休日に夜更かしをして、朝10時に目を醒まし、だらだらとテレビを見てぼーっと過ごしてしまう。1日、なにも予定していなかったので、無計画にすごしてしまい貴重な休日が終わっていくという日を想像してみてください。
自己コントロールする力や規律がないと豊かさは確実に下がります。逆に、早起きという行為に人気があるのは、自己コントロール感の主導権を握るものとして、自発的に取り組む活動だからではないでしょうか。「自分で決めた時間に起きる!」というルールを守ることは、自発的な活動であり、会社の出社時間に起こされるというのは他動的な生活になります。この自発的活動は、幸福度への影響力は50%もあるとされます。
まとめると、幸福度の影響力は、規定値で40%、生活状態で10%、自発的活動で50%となります。
習慣で90%幸福度は決まる!
さて、上記の幸福の公式に当てはめて見ると、規定値Set point(40%)、自発的活動Voluntary Activities(50%)は、習慣であることがわかります。規定値であるものの考え方、とらえ方は思考習慣です。
ここで、わたしの習慣化の学校で1年間自己改造に取り組んだ女性のケースをご紹介します。この女性は会社の降格人事でひどく傷つき、そんな状態から脱したいということで習慣化の学校に参加されました。そして1年後、どうなったでしょうか?
当初は転職や独立も選択肢として検討していましたが、やはりいまの会社に一生懸命貢献したいと「置かれた場所で咲く」ことを決意しました。どうしようもない人事のことを嘆くのではなく、コントロールできる自分の目標や課題解決にフォーカスするという思考習慣を1年かけて身につけたのです。毎日のように感謝の日記を書き、いま置かれている環境に対してまったく新しい見方をするようにしました。結果、外的状態は何も変わっていないのに、幸福度や前向きさは激変したと言います。
また、自発的活動は、「行動の習慣」「生活の習慣」「働き方の習慣」が影響してきます。まわりに振り回されてコントロールを失うような状態でいるのではなく、自分で悪い習慣を手放し、良い習慣を身につけ自発的に生活することで、生きている感覚がまるで違ってくるのです。同時に、それが豊かさに影響していきます。
また、自分が好きなこと、使命感を感じることを仕事にすることも重要な要素です。「人生は、自分で選ぶことができる!」この感覚を持つときに、幸福度はぐっと上昇するからです。
わたしの場合は自分で独立して事業をしているので、仕事の内容も、時間の使い方も、人間関係もすべて自分で選ぶことができます。この状態になっていちばんの幸せなのは、お金や名誉より「すべて好きなように選べる感覚」です。好きなことで人生を満たしていくという自由な選択ができる――。ここにわたしは、幸福感を感じています。
もちろん、会社に勤めていても自発的活動をやっている人はたくさんいます。不遇の職場や人事でも自分なりに目標を決めて着実に行動する人は、「自発的活動」ができている人です。
自分の幸福度をチェックしたときに、どの部分を高めていくかを考えてみてください。
【今回の習慣化ルール】 ・幸福の公式とは、「H=S +C +V」幸福Happiness = 規定値Set point + 生活状態Condition of living +自発的活動Voluntary Activities ・ひとつ目の規定値とは、ものの考え方、とらえ方。ふたつ目の生活状態とは、人生における出来事(幸運、不運)。3つ目の自発的活動とは、人生や生活を自分で選んだ活動をしているか、もしくは自分で選んだ感覚を持って生きているかというもの ・規定値と自発的活動は、思考習慣と行動習慣を変えれば圧倒的に良くなる