人と話す機会が多いビジネスパーソンの中には、「コミュニケーション能力を高めたい!」と考える人は多いはず。でも、何かいい方法はないかなと思ってちょっと検索しただけでも、いろいろなテクニックが出てきますよね。「正直なところ、実際どれが自分に合っているかよくわからない……」ということはありませんか?
もちろん、手当たりしだい試してみるのもすばらしいことだと思います。ですが、どうせやるなら、今の自分にぴったりなテクニックを見つけて、効率よくコミュニケーション能力を高めたいものですよね。
というわけで、こちらのチャートをやってみてください。
いかがでしたか? たどり着いたものが、「今あなたが磨くべきコミュニケーションテクニック」です! それでは、ひとつひとつ解説していきます。
1. PREP法
「“聞く” より “話す” ほうが得意で」「論理的に話しているつもりだけれど」「話がわかりにくいと言われたことがある」あなた。わかりやすく話せない原因は、話の構成にあるかもしれません。「PREP法」で、わかりやすい話の構成を意識してみてはいかがでしょう。
PREP法とは、話を組み立てるテクニックのひとつ。以下の4つのステップの頭文字をとって「PREP」と呼ばれています。
- P=Point:結論
- R=Reason:理由
- E=Example:具体例
- P=Point:結論
営業や交渉力などの研修講師として8,000人以上を指導してきた大岩俊之氏によれば、これはもともと文章術であるものの、トークにも有効なテクニックなのだそう。
たとえば、「自社の新商品の説明」というシーンでPREP法を使った話の構成を考えてみると、以下のようになります。
- Point(結論):この商品はとてもお得です。
- Reason(理由):コストパフォーマンスが抜群にいいからです。
- Example(具体例):従来この機能を備えた商品は〇〇円という価格設定をする必要がありました。ところが今回〇〇円で提供しています。
- Point(結論):ですので、とてもお得です。
このように、伝える順番を整理するだけで、相手にとってよりわかりやすい話し方ができますよ!
2. ストーリーテリング
「“聞く” より “話す” ほうが得意で」「論理的に話すことを大事にし」「内容をわかりやすく伝えられる」というあなたは、「ストーリーテリング」を取り入れて、さらなる説得力アップを狙ってみてください。
ストーリーテリングとは、「story(物語)」「telling(伝える)」という名前の通り、体験談やエピソードを語ることで、聞き手に伝えたいことを印象づける話法です。
マーケティングの専門家であるスタンフォード大学教授のジェニファー・アーカー氏によれば、事実や数字だけの話よりも、ストーリーを織り交ぜた話のほうが、最大で22倍も記憶に残りやすいのだとか。
ストーリーテリングの例として有名なのは、Apple創業者スティーブ・ジョブズ氏が2005年にスタンフォード大学の卒業式で行なったスピーチです。自分の生い立ちやApple社にまつわる3つのエピソードを語り、卒業生にエールを送ったジョブズ氏のスピーチは、10年以上たった今も多くの人に影響を与え続けています。スピーチは「「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳(日本経済新聞)」にて全文を読むことができるので、興味のある方はぜひ目を通してみてください。
そんなストーリーテリングのコツを解説しているのが、アメリカの倫理学者で、講演者として数十年にもおよぶ活動経歴をもつブルース・ワインスタイン氏。同氏の解説の中から、特に実践しやすい2つのコツを紹介します。
【1】「始まり、中間、終わり」を意識する
物語の「始まり→中間→終わり」というシンプルな順序を意識することが大切です。たとえば、上司に「企画のアイデアが提案できない」という悩みを相談するシチュエーションで考えてみましょう。
- 始まり:入社したての頃は、企画のアイデアをとにかくたくさん出していました。
- 中間:しかし1年目を過ぎた頃から、思いついたアイデアを「使えない」と言われることが多くなりました。
- 終わり:今では、アイデアを思いついてもほとんど提案できなくなってしまいました。
この例では、始まり=入社した頃、中間=1年目を過ぎた頃、終わり=現在、という時系列を意識してみました。
【2】ストーリーの中に感情を入れる
エピソードの中では、ただ事実を並べるだけはなく、話し手の感情を語ることも大切です。上記の例は事実のみを並べたものでしたが、感情を込めた話し方の例を考えてみましょう。
- 始まり:入社したての頃は、企画のアイデアを考えるのがとにかく楽しくてしょうがありませんでした。
- 中間:しかし1年目を過ぎた頃から、思いついたアイデアを「使えない」と言われることが多くなり、落ち込んでしまうことが増えました。
- 終わり:今では、アイデアを思いついても、否定されるのが怖くなって提案できなくなってしまったんです。
このように感情を込めるだけで、悩みの切実さがグッと伝わるようになりました。ストーリーテリングには、相手を話に引き込む効果があるのです。
3. アイメッセージ
「“聞く” より “話す” ほうが得意で」「気持ちを大事にしつつ」「意見や要望をきっぱりと言える」あなた。もしかして、つい感情的になって言い方がキツくなることもあるのではないですか? 話の中で、相手の反感を買ってしまったり、相手を委縮させてしまったり、という失敗をしたことがある人には、「アイメッセージ」というテクニックがおすすめです。
コミュニケーション総合研究所代表理事の松橋良紀氏は、上記のようなコミュニケーションの失敗をする人は、知らないうちに「ユーメッセージ」を使っていると言います。ユーメッセージとは、あなた(You)を主語にした命令口調の話し方のこと。ユーメッセージの言葉は、他人をコントロールしようとするニュアンスが強く、反感を買いやすいのだそう。
松橋氏いわく、話し方を「アイメッセージ」に変えると、相手との無駄な衝突がなくなるだけでなく、より自分の話を聞いてもらえるようになるとのこと。では具体的にどうすればいいのか、例を使って考えてみます。
たとえば、部下に書類をしっかり保管することを指示するとき、ユーメッセージだとこうなります。
これをアイメッセージに直してみましょう。
このように、アイメッセージでは、私(I)を主語にして、話し手の気持ちや感情を伝えます。私を主語にするだけで、途端に命令口調ではなくなるのです。
松橋氏によると、人に何かをしてもらいたいときや、自分の要望を通したいときには、アイメッセージが有効なのだそうです。「〇〇してくれると、私は嬉しい」「〇〇してくれたら、私は助かる」というように、「私+感情」を言い表す言葉をつけ足すだけで、簡単にアイメッセージが作れます。これなら、すぐにでも実践できそうですよね!
4. アサーション
「“聞く” より “話す” ほうが得意で」「気持ちは伝えたいのだけれど」「きっぱりとは言えない」あなた。そんな、相手に遠慮しがちな人には「アサーション」がおすすめです。
アサーションとは、アメリカの心理学者ジョセフ・ウォルピ氏とアーノルド・ラザラス氏によって確立された、自分の気持ちや状況を相手に配慮して伝える方法のことです。
具体的には以下の「DESC」という手順に沿って、相手に自分の主張を伝えていきます。
- D=Describe(状況の描写):客観的に事実や状況を述べる
- E=Express(感情や状態の表現):自分の意見や感じていることを表現する
- S=Specify(特定の提案):相手に望む行動、妥協案、解決策、などを提案する
- C=Choose(選択):肯定的・否定的結果を考え、それに対する行動の選択肢を示す。
たとえば、「自分の仕事で手いっぱいのときに、上司からほかの仕事を頼まれた」というシチュエーションで、アサーションを使った話し方を考えてみましょう。
- D(状況の描写):「今手がけている案件が大変で、手が回らない状況です」
- E(感情や状態の表現):「引き受けたい気持ちはやまやまですが、今日は難しそうです」
- S(特定の提案):「手をつけるのは明日以降ではいけませんか?」
- C(選択):「明日以降でよければ私がやれます。必ず今日中に終らせなければならないものでしたら、ほかの方にお願いできますか?」
アサーションのよい点は、自分の意見を主張しつつも相手の意見を聞き、お互いが納得できる点を探し出すことができるということ。したがって、「自分の気持ちを正直に言ってはいけないのでは?」というふうに自分の感情を否定・我慢したり、相手に遠慮したりする必要はありません。
感情を上手に伝えて、自分も相手も不快にならない、気持ちのよいコミュニケーションを目指しましょう!
5. アクティブリスニング
1~4で紹介したものは「話す側」のコミュニケーションテクニックでした。ここからは、「聞く側」のテクニックについて説明していきましょう。
「“話す” よりは “聞く” ほうが得意で」「話を聞いているうちにいろいろ質問がしたくなる」あなたは、「アクティブリスニング」でより相手が気持ちよく話せるよう手助けしてみてはいかがでしょうか?
アクティブリスニングとは、アメリカの臨床心理学者カール・ロジャース博士によって提唱されたコミュニケーション法です。
話を聞くときの態度といえば、相づちをうったり、共感したり、というのは多くの人がしているものだと思います。アクティブリスニングでは、そうした態度で話を聞くのに加えて、質問を投げかけることで、相手がより深く話すことを促します。
インタビュアーとして政財界の超一流と話した実績を数多く持つForbesJAPAN副編集長の谷本有香氏は、アクティブリスニングのポイントとして次の2点を挙げています。
- 傾聴:まずは相手の話に集中する。相づちやうなずきで、相手が気持ちよく話せる土台をつくる。
- 問答:ところどころで質問を投げかけ、より深い話を導き出す。質問がすぐに浮かばないときは「それで、どうなったのですか?」というフレーズで話を促すだけでも有効。
それでは、さきほど「ストーリーテリング」のところで紹介した悩み相談の例をつかい、「上司として聞く側の立場だったら、どういう聞き方をするか」というふうに視点を変えて考えてみましょう。太字を施した箇所に注目してください。
入社したての頃は、企画のアイデアを考えるのがとにかく楽しくてしょうがありませんでした。(ここで相づちを打つ「そうだったよね」)
しかし1年目を過ぎた頃から、思いついたアイデアを「使えない」と言われることが多くなり(うなずきを入れる)、落ち込んでしまうことが増えました。(質問をする「それで、どうなったの?」)
今では、アイデアを思いついても、否定されるのが怖くなって提案できなくなってしまったんです。(質問をする「なにが改善されれば怖さはなくなりそうかな?」)
アクティブリスニングは、部下の悩みを聞くときのほか、クライアントの考えを引き出すときなど、幅広いシチュエーションで使えます。ぜひ試してみてください。
6. ミラーリング
最後に、「“話す” よりは “聞く” ほうが得意で」「相手の話はじっと聞く」タイプのあなたへ。聞いている最中にちょっとした工夫をするだけで好感度をアップさせられる「ミラーリング」というテクニックをご紹介します。
ミラーリングとは一言で言うと、相手の動作や、静止しているときの手足の位置、さらには呼吸まで、鏡のようにマネをするというテクニックです。
前述の松橋氏が紹介するミラーリングのポイントから、実践しやすいものをいくつか紹介します。
- 姿勢:相手がどのように座っているかマネする。リラックスして浅く腰かけているか、背筋が伸びているかなど、相手の身体に注目。
- 重心:相手の重心が右に傾いていたら自分は左に、というように、鏡合わせを意識して重心を揃える。
- 表情:表情を相手に合わせる。注意点は、相手の表情そのものよりも感情に合わせること。相手が笑いながら悲しい話をしているなら、笑いではなく悲しさをマネする。
- 呼吸:「相手が話している間は少しずつ息を吐く」「相手が息継ぎするタイミングで息を吸う」の2点が基本。
ミラーリングの目的は、相手にとって居心地のいい状態をつくりだすこと。ですので、マネはあくまでも自然にできる範囲内でとどめておくことが大切です。やりすぎて、相手に「マネをされてる」と気づかれてしまったら、逆に相手は居心地が悪く感じてしまいます。マネそのものを目的としないように注意しましょう。
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コミュニケーションの取り方は十人十色。シチュエーションや得意不得意に合わせて、ぜひ自分に合ったコミュニケーションテクニックを取り入れてみてください!
(※記事中の人物の肩書は記事公開当時のものです)
(参考)
アルファポリス|営業マン必須の「話が伝わりやすい」2つの法則
Stanford VMware Women's Leadership Innovation Lab|Harnessing the Power of Stories
StudyHacker|チームを動かすのは細かい指示より "ストーリー" だ! 人を動かす「ストーリーの構成法」教えます。
日本経済新聞|「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳
Forbes JAPAN|相手を引き込むストーリーテリング 良い話し手になる7つのコツ
リクナビNEXTジャーナル|人を動かしたいなら、「アイメッセージ」を使いこなせ
リクナビNEXTジャーナル|コミュニケーション上手な人が「相手に合わせて」いる意外なものとは?
谷本有香(2015),『アクティブリスニング なぜかうまくいく人の「聞く」技術』, ダイヤモンド社.
平木典子(2012),『アサーション入門――自分も相手も大切にする自己表現法』, 講談社.
【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。