瞬間記憶能力を鍛えるトレーニングのコツが明らかに!

瞬間記憶のトレーニング1

世の中には、「瞬間記憶」と呼ばれる驚異的な記憶力を持っている人たちがいます。「テキストを一度読んだだけで、だいたい暗記してしまう」「頭の中で風景を写真のように再生できる」という人の話を、テレビなどで見聞きしたことはないでしょうか。

多くの人は、瞬間記憶を特別な才能だと思っているかもしれません。もちろん、「カメラアイ」のような生まれつきの瞬間記憶能力は、後天的に身につけることはほぼ不可能。しかし、記憶術やトレーニングによって記憶力のポテンシャルを最大限に引き出し、短時間で多くの情報を記憶できるようになることは、我々にも可能なのです。

今回は、瞬間記憶を実現するための記憶法やトレーニングを、詳しくご紹介します。

瞬間記憶能力とは

「瞬間記憶」と聞くと、多くの人は「見たものが一瞬で記憶に焼きつく」という特殊能力「カメラアイ」を想像するのではないでしょうか。まるで漫画のような話ですが、そのように驚異的な記憶能力を持っている人は実在します。

筆者の高校時代の同級生にも、カメラアイに近い記憶力を持っている人がいました。その同級生は、高校に入学してすぐの頃、買ったばかりの世界史の教科書を1回パラパラと読んだだけで丸暗記してしまい、成績はいつもトップ。現役で東京大学に合格しました。

芸術分野で才能を発揮する瞬間記憶能力者もいます。有名なのが、「裸の大将」としておなじみの画家・山下清氏。ちぎり絵細工による美しい風景画で高い評価を受け、「日本のゴッホ」と称される人物です。

山下氏は、人並み外れた記憶力を持っていました。ちぎり絵細工をつくるときは、風景を見ながらスケッチするのではなく、見た風景を映像記憶として持ち帰り、アトリエで思い出しながら制作するのが常だったのだそう。

イギリスのスティーブン・ウィルシャー氏も、瞬間記憶能力を持つ画家として有名です。ウィルシャー氏は、都市の上空をヘリコプターで20分ほど飛んで眺めただけで、街の全景をそっくり記憶し、正確な鳥瞰図(ちょうかんず)を描くことができます。

瞬間記憶のトレーニング2

瞬間記憶能力は訓練で習得できる?

上記のような瞬間記憶力は、特別な脳を持って生まれた人だけができること。一般的な人は、見聞きした記憶を自然と忘れてしまうので、カメラアイを後天的に身につけるのは困難です。

しかし、記憶術を活用し、記憶の質やスピードを極限まで高めるトレーニングをすれば、短時間でたくさんのことを記憶するスキルを習得できる可能性があります。たとえば、池田義博氏は、「記憶力日本選手権」で何度も優勝し、世界大会でも「グランドマスター」という称号を授与されている、まさにトップクラスの記憶力を持っている有名人です。

世界記憶力選手権のグランドマスターになるには、以下の3つの条件をクリアしなければいけないそう。一般的な人から見れば、まさに「瞬間記憶」と呼ぶにふさわしいような、驚異の記憶能力ですよね。

  • シャッフルした1組のトランプの順番を2分以内に記憶する。
  • シャッフルしたトランプの順番を、1時間で10組以上記憶する。
  • ランダムに並ぶ数字を1時間で1,000桁以上記憶する。

じつは、池田氏はカメラアイのような先天性の特殊能力を持っているわけではありません。素質的には私たちと同レベルの記憶力ながら、記憶術の洗練とトレーニングの積み重ねによって、世界レベルの記憶力を手に入れることに成功したのです。

池田氏自身、「記憶力には生まれもった素質は関係ない」と断言しています。池田氏が本格的に記憶力のトレーニングを始めたのは40代半ばからで、それ以前は競技記憶とは縁のない「平凡な塾講師」だったのだそうです。

瞬間記憶能力とは、トレーニングしだいで習得できるもののようですね。生まれながらの瞬間記憶能力者とは違い、テクニックを駆使することになりますが、それでも勉強やビジネスにおいて大いに役立つはずです。

なお、本記事では、「瞬間的に物事を記憶するスキル」という意味で「瞬間記憶」という言葉を使っています。脳科学や心理学における瞬間記憶とは、100分の1秒~200分の1秒ほどの超短時間だけ残る記憶を指しますが、本記事の「瞬間記憶」とは異なるので、ご注意ください。

瞬間記憶のトレーニング3

瞬間記憶能力のトレーニング1:連想結合法

瞬間記憶能力を養うトレーニングとして、「記憶力世界一」の称号を持つエラン・カッツ氏の「連想結合法」をご紹介します。連想結合法とは、覚えたい対象から視覚的イメージを連想し、イメージ同士を結合することで、記憶しやすくするテクニックのこと。

たとえば、「皿」「パソコン」「消しゴム」という3つの単語をそのまま覚えるのは難しいですが、「皿に描かれたパソコンの絵を、消しゴムで消している」という具合に、3つの単語のイメージを結合すると、記憶がスムーズになりますよね。カッツ氏によれば、既知のものや興味のあるものに対象が結びつくと、集中力が高まり、「記憶力のスイッチ」が入るのだそう。連想結合法を使えば、単語の数が何十個、何百個と多くなっても、比較的容易に記憶できます。

ためしに、「ベッド」「魚」「カーペット」「ドレス」「犬」「車」「テレビ」という7つの単語を、連想結合法で覚えてみましょう。かなり大変そうですが、連想結合法を使えばあっという間に、しかも長期的に記憶できます。 カッツ氏が紹介している連想結合の例は、以下のようなものです。

  1. 「ベッド」に「魚」が横たわっている。
  2. その「魚」が「カーペット」のように床に敷かれる。
  3. その「カーペット」を「ドレス」のように巻いて家を出る。
  4. すると、ピンクの「ドレス」を着た「犬」が現れる。
  5. 「犬」が「車」を運転する。
  6. 「車」と並んで巨大な「テレビ」が走っている。

上記のような6組の視覚的イメージをつくることで、最初の「ベッド」さえ思い出せば、→「魚」→「カーペット」→「ドレス」→「犬」→「車」→「テレビ」と、芋づる式に記憶がよみがえるのです。

カッツ氏によると、連想結合法を成功させるコツは、リアルに映像をイメージすること。そして、なるべくオーバーに、バカバカしいような想像をすることなのだそう。連想結合法のスピードと質を上げていけば、瞬間記憶に近いかたちで瞬時に記憶できます。

瞬間記憶のトレーニング4

瞬間記憶能力のトレーニング2:ゴロ合わせ

瞬間記憶力を鍛える2つ目の方法は、「ゴロ合わせ」。誰でも知っている記憶術なので軽視されがちですが、先述した記憶力日本チャンピオン・池田氏も、ゴロ合わせをフル活用しています。使い方を究めれば、ゴロ合わせは絶大な効果を発揮する記憶術なのです。

数字

ゴロ合わせは、数字のように、連想結合法によるイメージがしにくいものを記憶する際に有効です。

たとえば、「794年、平安京に遷都」を覚えたい場合、794という数字は視覚的にイメージできないので、連想結合法が使えません。そこで、794を「鳴くよウグイス」とゴロ合わせにし、ウグイスが飛んでいそうな「平安」のイメージにつなげれば、スムーズに覚えられるというわけです。

ゴロ合わせには多くの人が親しんでいるはずですが、「使えるケースが限られるなあ」と不満を感じたことはないでしょうか。「794=鳴くよ」「795=泣く子」などの場合はいいですが「793」「796」のように、ゴロ合わせが思い浮かばない数字も多いですよね。

そこで池田氏が紹介しているのが、2桁ずつ数字を区切る方法。「14159265」という数字の場合、14/15/92/65と2桁ずつ分割して、「14=石」「15=飛行機」「92=クジラ」「65=肋骨」とゴロ合わせをし、「石を飛行機から落としたらクジラの肋骨に当たった」のように、連想結合法の要領でイメージをつなげるのです。

このやり方なら、00~99という100とおりのゴロ合わせさえ決めておけば、どれほど桁数が多くても覚えられます。実際、池田氏は2014年の世界選手権で、たった1時間で1,450桁もの数字を覚えたそうです。

外国語

ゴロ合わせは、外国語などの未知の単語を覚える際にも応用できます。意味を覚えきれていない外国語は、連想結合法のようにイメージを思い浮かべることができないので、代わりにゴロ合わせを使うのです。

池田氏が挙げる例は、「progress(前進)」という英単語。数字のゴロ合わせ同様に「プロ」「グレ」「ス」と分解すれば、「“プロ” になるために、“グレ” “ず” に『前進』」と連想できます。

数字のゴロ合わせほどシステマティックではありませんが、英単語の暗記にはかなり大きな効果を発揮する方法です。

人の顔・名前

応用編として、人の顔と名前を覚えるコツも押さえておきましょう。仕事で会った人をなかなか覚えられずに苦労している方は、ぜひ参考にしてみてください。

1. 顔の印象を言語化する

初対面の人に会ったら、その人の顔を見て感じたことを(頭の中で)言葉にしましょう。「上品そう」「肌が白い」「鼻が大きい」など、その人を思い出す "とっかかり" になりそうな特徴であれば、何でもOKです。

2. 名前から勝手に連想する

次に、その人の名前からイメージを連想します。以下のような具合です。

  • 安藤さん
    →「あんドーナツ」をたくさん食べている姿
  • 小林さん
    →少林寺拳法の服を着ている姿

名前を視覚的イメージに変換することで、ただの文字列にすぎなかった名前に具体的なイメージがひもづけられ、記憶しやすくなるのです。

3. 何度も復習する

顔のイメージと、名前から連想したイメージを、頭の中で結びつけましょう。

  • 「上品そう」な「安藤さん」
    →上品な顔でむしゃむしゃとあんドーナツを頬張っている姿を想像
  • 「鼻が大きい」「小林さん」
    →鼻の特徴を強く念頭に置き、少林寺拳法の服を着ている姿を想像

池田氏によると、相手の名刺の裏などに「顔の特徴」と「名前からの連想」の2つをメモしておくと、復習しやすいのだそう。人の顔や名前を覚えるのが苦手だという人は、この瞬間記憶法を、ぜひ試してみてください。

瞬間記憶のトレーニング5

瞬間記憶能力のトレーニング3:100日間プログラム

上で紹介した「連想結合法」や「ゴロ合わせ」を反復練習し、記憶のスピードを速めていくことで、瞬間記憶能力の獲得を目指しましょう。田辺由香里氏の『2万人の人生を変えた超人気記憶マイスターが教える 瞬間記憶術』(ぱる出版、2019年)を参考に、記憶力トレーニングを実践する手順をご紹介します。

1. 目標と目的を明確にする

まずは、具体的にどれくらいのスピードで記憶したいのかという「目標」を決めましょう。「1時間で英単語50個」「10秒で人の顔と名前を覚える」などの具体的な目標を持つことで、目指すべきゴールが明確になり、モチベーションを保ちやすくなります。自分が今どのくらいのレベルにいるのか、ゴールまでどのくらい足りないのかがわかり、目標までの距離を把握できるのもメリットです。

数値的な目標だけでなく、なぜ記憶スピードを高めたいのか、というそもそもの目的も明確にしましょう。「英単語を覚えて、将来外資系の会社に勤めたい」「人の名前を瞬時に覚えられるようになって、仕事に役立てたい」といった動機が自覚できていれば、途中で挫折してしまうリスクが低くなるのです。

2. 「100日間プログラム」をつくる

トレーニングの効果を高めるには、100日間の長期プログラムをつくるのがオススメです。

田辺氏によると、毎日のトレーニングが習慣化していない初心者は、「できた!」という上達の喜びを味わう前に挫折してしまうことが多いのだそう。まずは100日後までの計画を決め、確実にこなしていくことで、トレーニングの習慣を身体に染みつけることが肝要とのことです。

100日間プログラムを計画・記録するにあたって、田辺氏は以下のような表の活用を推奨しています。一日あたり、英単語50語を覚える例です。

日数 日付 目標 実績 気づきなど
1日目 4/1 20分 46分 20分ではとても無理。目標を変更する必要がありそう
2日目 4/2 40分 45分 昨日よりはタイムが縮んだ。まずは40分切りを目指そう
……        
100日目 7/9 20分 19分 安定して20分を切れるようになった

記録表には、日付と、ノルマ分の情報を記憶するまでにかかるであろう「目標時間」を記入しておきます。トレーニングを実践したら、実際に要した時間である「実績」や、気づいたことを書き込みましょう。日に日に成長しているのを実感でき、さらに頑張ろうという気持ちが湧いてくるはずです。

3. 時間を区切ってトレーニングする

目標・目的・計画が定まったら、記憶力を鍛えるトレーニングを開始しましょう。「10分以内に英単語を10個覚えよう!」などの具体的なタイムリミットを設けると、適度な緊張感が生まれるので、オススメです。

一日あたりのノルマを決め、タイムアタック形式のトレーニングを毎日繰り返していると、しだいに記憶の効率がよくなっていくはず。かかった時間や気づきを「100日間プログラム」の表に記録していけば、成長を実感できます。

気をつけたいのは、記憶術の基本を忠実に守りつづけること。記憶のスピードを速めたいからといって、記憶術の手順をおろそかにしては、記憶の定着率が悪くなってしまい、本末転倒です。最初は思うようにいかないかもしれませんが、慣れるにつれてスピードが伴ってくるので、焦らず着実にインプットを行なってください。

上記のような地道な訓練を重ねることで、瞬間記憶能力の獲得を目指しましょう。

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瞬間記憶スキルは一朝一夕に身につくものではありませんが、一度マスターしてしまえば大きな武器になってくれるはず。勉強や仕事の成果を高めたい方は、今回ご紹介した方法をぜひ活用してみてください。

(参考)
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所|サバンと自閉症(5) ―美術的才能―
ダイヤモンド・オンライン|40代後半から独学で「記憶力日本一」になれた理由
池田義博(2017),『世界記憶力グランドマスターが教える 脳にまかせる勉強法』, ダイヤモンド社.
プレジデントオンライン|ギネス認定! 「世界一の暗記王」記憶の引き出し整理術【1】
田辺由香里(2019),『2万人の人生を変えた超人気記憶マイスターが教える 瞬間記憶術』, ぱる出版.
飯田英晴, 岩波明(2008)『ポケット図解 心理学がよ~くわかる本』, 秀和システム.

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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