心理学者アルバート・バンデューラの「自己効力感」とは?

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アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)氏は、「自己効力感」や「社会的学習理論」を提唱した、20世紀を代表する心理学者です。自己効力感とは、「自分は問題を解決できるだろう」という自信。社会的学習理論とは、他者の行動の観察学習および模倣(モデリング)に関する理論を指します。

今回は、バンデューラ氏の業績を概観したうえで、自己効力感に焦点を当てます。成功体験によって自己効力感を高める方法や、「結果期待」と「効力期待」の違いなどをわかりやすく解説するので、バンデューラ氏に興味のある方はぜひお読みください。

心理学者アルバート・バンデューラとは

バンデューラ氏は、東欧から移民してきた両親のもと、1925年にカナダで生まれました。同国のブリティッシュコロンビア大学で心理学を学び、1952年に米アイオワ大学で臨床心理学の博士号を取得。スタンフォード大学で順調にキャリアを積み、1964年に同大学の教授に就任しました。

バンデューラ氏は、社会的学習理論をはじめとした多くの業績で知られています。学術雑誌や教科書での引用数などをもとに作成された「20世紀の著名な心理学者」(2002年)というランキングでは、スキナー、ピアジェ、フロイトに次いで第4位を占めました。

社会的学習理論の研究および心理学の発展に対する功績を評価され、バンデューラ氏は2014年度のアメリカ国家科学賞を受賞。2015年にオバマ大統領(当時)からメダルを授与されました。

それでは、バンデューラ氏の主な業績を見ていきましょう。

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心理学者バンデューラの「ボボ人形実験」

バンデューラ氏のキャリアは、モデリングの研究から始まりました。モデリングとは、他者の行動を見てまねる(モデル化する)学習方法。そして、モデリング理論を実証するために行なわれたのが「ボボ人形実験」です。

ボボ人形実験では、ビニール製の人形を大人が蹴ったりののしったりし、その様子を子どもたちに見せました。人形に乱暴する大人を見た子どもたちは人形を殴った一方、人形を叩かず遊ぶ大人を見た子どもたちは、人形に乱暴しなかったそうです。

ボボ人形実験により、人間は他者の行動を見るだけで学習することが証明されました。当時の心理学では、人間は自分の経験からしか学習できないと考えられていたため、バンデューラ氏の発見は画期的だったのです。

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心理学者バンデューラの「社会的学習理論」

バンデューラ氏は、ボボ人形実験の結果を利用して社会的学習理論を構築しました。社会的学習理論では、人間の行動の決定要因として、以下の3つが挙げられています。

先行要因

行動を起こす前の条件を「先行要因」といいます。体調や気分、結果の予測などです。たとえば、「心身の調子がとてもよく、やる気に満ちあふれている」という気分や、「この試験の難易度なら、きっと合格できるだろう」という予測は、「勉強する」という行動の先行要因になりえます。

  • 勉強したい気分だ→勉強するぞ!
  • 自分なら合格できるはずだ→勉強するぞ!

結果要因

行動の結果から学習したことを「結果要因」といいます。自分の経験から学んだことだけでなく、他人の経験を見聞きして学んだことも該当。たとえば、勉強することでメリットを得られた経験があるなら、次も勉強しようと思えるでしょう。

  • 試験に合格したときは気持ちよかった→勉強するぞ!
  • 合格した友人はとても嬉しそうだった→勉強するぞ!

認知的要因

ある行動をどう認識しているかという条件を「認知的要因」といいます。たとえば、勉強は楽しいものだと思っている人と、つらく苦しいものだと思っている人では、勉強への取り組み方は大きく変わるでしょう。

  • 勉強するのはすばらしいことだ→勉強するぞ!
  • 努力をするのは楽しいことだ→勉強するぞ!

バンデューラ氏が提唱した先行要因・結果要因・認知的要因は、互いに関連しつつ、私たちの意思決定に影響しているのです。

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心理学者バンデューラの「自己効力感」

バンデューラ氏が提唱した自己効力感は、仕事や勉強のパフォーマンスに関わっています。

心理学を応用したコーチングを提供する「ポジティブサイコロジースクール」代表の久世浩司氏によると、自己効力感とは「価値ある目標に向かって、自分は業務を遂行できると自己を信じること」。つまり、「自分ならできる!」という自信に満ちた感覚です。

自己効力感が高ければ、積極的に努力できるので、目標を達成しやすくなります。「頑張れば合格できる!」と信じて熱心に勉強する人と、「頑張ってもムダだろう」と消極的な人だと、どちらが成功しやすいかは明白ですよね。

NLP(※)トレーナーの足達大和氏によると、自己効力感が高いことには以下のようなメリットがあるそうです(※神経言語プログラミング。ビジネスやスポーツにも役立つとされる、新しい心理学)。

  • 目標を達成できる
  • 逆境を乗り越えられる
  • チャレンジできる
  • 自分の感情や行動をコントロールできる
  • 人間関係を良好に保てる

反対に、自己効力感が低いと、以下のようなデメリットが生じる恐れがあります。

  • 諦めやすくなる
  • モチベーションが上がりにくい
  • チャレンジできない
  • 言い訳が多くなる
  • 劣等感を覚える

仕事や勉強で成功したいなら、バンデューラ氏の提唱した自己効力感を高める必要があるのです。

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心理学者バンデューラの「自己効力感」と「社会的学習理論」の関係

バンデューラ氏による自己効力感と社会的学習理論は、互いに関係しています。やや込み入った話になるので、以下の図を見ながら読み進めてください。

「行動決定3要因」は、先行要因・結果要因・認知的要因に分かれる。先行要因はさらに「生理・情動反応」「学習の生得的機制」「予知機能」に分かれる。予知機能はさらに「効力予期」と「結果予期」に分かれる。「効力予期」は、自己効力感と関係している。

(画像は筆者が作成)

行動の結果に対する予測は「予期機能」といい、私たちの行動決定に大きく影響しています。「絶対合格なんてできない」と予期する受験生は「どうせ無理なんだから、努力なんてやめよう」と捨て鉢になるでしょうが、「きっと合格できる」と予期する受験生は、頑張って勉強するはずです。

予期機能には以下の2種類があります。

  • 効力予期(効力期待):自分の能力への予測
    例)「東京大学に合格する実力が自分にはあるだろう/ないだろう」
  • 結果予期(結果期待):外的な要因への予測
    例)「親が大学進学を許してくれるだろう/くれないだろう」

効力予期と結果予期は、どちらとも重要です。「自分には合格できる実力がある」という効力予期があっても、「親が進学を許さないだろう」という結果予期があれば、「勉強したって進学できない」とやる気がなくなってしまうはず。「親は進学を許してくれるけれど、合格する実力はない」と予期した場合も、意欲は低下するでしょう。

バンデューラ氏は、特に効力予期に注目しました。効力予期の研究を進めた結果、自己効力感という概念に到達。つまり、社会的学習理論における3つの行動要因から、自己効力感が生まれたのです。

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自己効力感を測定してみよう

前述のように、バンデューラ氏が提唱した自己効力感は、目標達成に必要です。そこで、あなたの自己効力感がどれくらいか、チェックしてみましょう。

心理学者の坂野雄二氏らは1986年、「一般性セルフ・エフィカシー尺度作成の試み」という論文内で「一般性セルフ・エフィカシー尺度」を発表しました。YES/NOで質問に答えるもので、点数が高いほど自己効力感も高いことになります。

  1. 仕事をするときは自信をもってやるほうだ(○なら1点)
  2. 失敗や嫌な経験を思い出して暗い気持ちになることがよくある(×なら1点)
  3. 友人より優れた能力をもっている(○なら1点)
  4. 仕事を終えたあと、失敗したと感じることのほうが多い(×なら1点)
  5. 心配性なほうだ(×なら1点)
  6. 何かを決めるとき、迷わないほうだ(○なら1点)
  7. 何かをするとき、うまくいかないのではと不安になることが多い(×なら1点)
  8. 引っ込み思案なほうだ(×なら1点)
  9. 記憶力がいいほうだ(○なら1点)
  10. 見通しのつかない仕事でも積極的に取り組むほうだ(○なら1点)
  11. どうやるべきか決心できず仕事を始められないことがよくある(×なら1点)
  12. 友人より特に優れた知識をもっている(○なら1点)
  13. どんなことも積極的にこなすほうだ(○なら1点)
  14. 小さな失敗でもかなり気にするほうだ(×なら1点)
  15. 積極的に活動するのは苦手なほうだ(×なら1点)
  16. 世のなかに貢献できる力がある(○なら1点)

論文によると、被験者278名の平均点は6.580点、標準偏差は3.369点だったそう。この結果をふまえると、だいたい以下のように判断できそうです(※筆者個人の見解)。

  • 10~16点:標準より高い
  • 4~9点:標準
  • 0~3点:標準より低い

自己効力感の低かった人は、以下に挙げるバンデューラ氏の見解を参考にして、自己効力感を高めていきましょう。

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心理学者バンデューラが説く、自己効力感を高める4つの要素

バンデューラ氏は、自己効力感を高める要素として、以下の4つを提唱しています。

直接的達成経験

自分自身が経験した成功を「直接的達成経験」といいます。例としては、

  • TOEICで990点とった
  • 営業部でトップの成績を出した
  • 自分で決めた勉強ノルマを達成した

などが考えられるでしょう。成功した経験があれば、「次も成功できる!」と思いやすいはず。

代理経験

他人の経験を見聞きしたことによる疑似体験を「代理経験」と呼びます。会社の先輩がサクサク仕事をこなしているのを見たり、友人が勉強を頑張っている話を聞いたりして、「自分も頑張ろう」と思ったことはありませんか?

代理経験は、身近な人や実在の有名人を通して可能です。主人公が努力して成功をつかむような映画・漫画でも、代理経験ができます。

言語的説得

「自分ならできる」「あなたならできる」とポジティブな言葉を何度も言い聞かせることを、「言語的説得」といいます。

家族や友人に「あなたなら大丈夫」と励ましてもらうだけで自信が湧き、本当にできそうな気分になることがありますよね。ポジティブな歌詞の「応援ソング」を聴き、やる気を充電する方もいるのではないでしょうか。

生理的・情動的喚起

体調を整えたり気分を盛り上げたりすることを、「生理的・情動的喚起」といいます。寝不足のときや悲しいことがあったときは、なかなか行動する気になれませんからね。

バンデューラ氏が提唱した以上の要素を意識すれば、自己効力感が高まりますよ。

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自己効力感を高める方法

バンデューラ氏が提唱した以上の要素をふまえ、自己効力感を高める具体的な方法をお教えします。前出の足達氏が提案するやり方を3つご紹介しましょう。

1. ポジティブな経験を書き出す

「直接的達成経験」を利用し、過去に体験したポジティブな出来事を書き出しましょう。以下のように、ちょっとしたことでかまいません。

  • 子どもの頃、字がうまいとほめられた
  • ぶ厚い専門書を最後まで読んだ
  • 知らない人に道を教えたら感謝された

いくつか書き出したら、そのリストを見つつ、成功体験をなるべく鮮明に思い出しましょう。そして、「あのとき○○ができたんだから、自分には□□もできるはず」と、前向きな気持ちをつくり出してください。

2. 成功をイメージする

次は「代理経験」を利用します。足達氏によると、脳は現実とイメージを区別できないそう。その特徴を利用して、自分が成功したシーンを鮮明に思い描き、実際に経験したように錯覚させるのです。

成功シーンをイメージするときは、五感をフル活用すると効果的だそう。以下のように、なるべく具体的に想像を膨らませてください。

  • 目の前にはどんな光景が広がっている?
  • どんな音が聞こえている?
  • 周囲の空気や着ている服にはどんな感触がある?
  • どんなにおいや味がする?

3. 目標を適切に設定する

足達氏によると、「新たな目標を設定して達成に向けてチャレンジすること」は自己効力感の向上につながるとのこと。NLPの考えに基づけば、以下の点を意識して目標を決めるといいそうです。

肯定的な表現

目標は肯定的に表現しましょう。「仕事でミスしない」のような否定表現ではなく、「業務の達成率を100%にする」などにしてください。

自分でコントロールできる内容

目標は、自分でコントロールできる内容にしましょう。たとえば、「売上を1.5倍にする」という目標は自分でコントロールできません。商品を買うかどうかを決めるのは客なので、自分の努力ではどうにもならない要素があるためです。「訪問数を1.5倍にする」「常に笑顔で話す」など、自分でコントロールできる目標にしましょう。

達成の難易度

目標の難易度は、難しすぎず簡単すぎない、適切なものにしましょう。難しすぎる目標だと、達成できなかったときに自己効力感が下がってしまいますし、簡単すぎる目標では退屈になり、自己効力感が高まらないためです。

自己効力感を高めるため、バンデューラ氏の理論に基づいた方法を、ぜひ実践してみてください。

バンデューラの「自己効力感」を高めるにはどうすれば?

心理学者アルバート・バンデューラの著書

最後に、バンデューラ氏の研究についてもっと知りたくなった人のため、日本語で読める著書を2冊紹介します。

『新装版 社会的学習理論の新展開』

バンデューラ氏が1982年に来日した際の講演を中心にまとめられた論集。特に、自己効力感が人間の行動や選択に及ぼす影響が詳しく語られています。日本人研究者によって、社会的学習理論や自己効力感の概要が説明されているため、入門書として最適です。

新装版 社会的学習理論の新展開

新装版 社会的学習理論の新展開

  • 発売日: 2019/12/18
  • メディア: 単行本
 

『激動社会の中の自己効力』

バンデューラ氏を筆頭とし、10人以上の心理学者が自己効力感について語った論集です。

先述のように、自己効力感の有無は私たちの行動決定に影響しています。つまり、自己効力感があるかないかで未来は大きく変わってしまうのです。

『激動社会の中の自己効力』は、現代社会を生きるうえでの自己効力感の影響や、自己効力感を高める方法を、科学的に提示してくれます。日本において、自己効力感は「自尊心」や「自己肯定感」と比べてマイナーな言葉かもしれませんが、バンデューラ氏らの『激動社会の中の自己効力』を読めば自己効力感の重要さがわかるのではないでしょうか。

激動社会の中の自己効力

激動社会の中の自己効力

  • 発売日: 1997/10/01
  • メディア: 単行本
 

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心理学者バンデューラ氏の業績と、自己効力感を高める方法をご紹介しました。仕事や勉強での目標達成にお役立てください。

(参考)
ALBERT BANDURA
American Psychological Association|Study ranks the top 20th century psychologists
American Psychological Association|Eminent psychologists of the 20th century
American Psychological Association|Albert Bandura receives National Medal of Science
National Science Foundation|Albert Bandura
Albert Bandura (1977), Social Learning Theory, New York, General Learning Press.
日外アソシエーツ株式会社 編(2016),『現代外国人名録2016』, 日外アソシエーツ株式会社.
坂野雄二・東條光彦(1986),「一般性セルフ・エフィカシー尺度作成の試み」, 行動療法研究, 12巻, 1号, pp.73-82.
池辺さやか・三國牧子(2014),「自己効力感研究の現状と今後の可能性」, 九州産業大学国際文化学部紀要, 57巻, pp.159-174.
STANFORD magazine|Confidence Man
コトバンク|アルバート バンデューラ
コトバンク|自己効力感
コトバンク|社会的学習理論
ダイヤモンド・オンライン|まずは「小さな成功」により自信を積み重ねよう
ライフ アンド マインド|全てのジャンルで成果が上がる!「自己効力感」を高める7つの方法

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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