何も考えずぼーっとしているとき、普通であれば「自分の脳はいま休んでいる」と思うことでしょう。しかし、脳科学の研究が進んだ結果、「仕事をする」「本を読む」といった意識的に脳を働かせている時間より、ぼーっとしている時間のほうが20倍もエネルギーを使っていることが判明したのです。
この脳の仕組みは「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれており、このDMNについて理解すると、本当の意味で “脳疲労を取り除く方法” がわかります。「なんだか頭が働かないな……」と悩んでいる人は、じつは “脳によくない休み方” をしているのかもしれませんよ。詳しく見てみましょう。
「DMN」は脳のエネルギー消費の80%を占める
「デフォルトモードネットワーク(DMN)」とは、ひらたくいえば「無意識化で脳が活動している状態のこと」を指します。
脳外科医の菅原道仁氏によると、このDMNは脳のエネルギー消費の60~80%を占めており、意識的に脳を働かせているときより20倍もエネルギーを使っているのだそう。赤信号で、エンジンをかけたままアイドリング状態で停止している車をイメージするとわかりやすいですね。
このDMNの仕組み、決して無駄というわけではなく、じつは多岐にわたるメリットがあるのだそう。たとえば、菅原氏は「過去の経験や情報が整理されるので、記憶や思考がまとまる」といいます。また、ハーバード大学のロジャー・ビーティ博士は「創造性が高まる」と指摘。通勤中や掃除中など、意識して頭を使っているわけではないタイミングでいいアイディアが浮かぶのは、DMNの活性化によるものなのです。
そして、ハーバード・メディカル・スクールの精神医学臨床准教授スリニ・ピレイ氏は、DMNを「非集中回路・非集中ネットワーク」と呼び、集中力の維持や向上に寄与していると述べています。DMNには、安静時に活性化し、集中している最中に不活発になる特性があるためです。
逆にいえば、思考がまとまらない、集中力が低下していると感じている人は、DMNが充分に機能していないのかも。いったい何が、DMNの働きを阻害してしまうのでしょうか?
DMNの機能が低下する「息抜きスマホ」に注意
「ぼーっとする時間があればいいんでしょう? それなら毎日確保できているはず」と思ったあなた。その片手にはスマートフォンが握られていませんか?
脳神経外科医の奥村歩氏によると、息抜きの時間にスマートフォンを触ってしまうために、脳内の情報があふれて「脳過労」を引き起こしている人が多いのだそう。「スマートフォン=息抜き」と考えるのは危険なのです。
ぼんやりすべき時にスマホを使いすぎると、この「情報の整理」が行われないため、脳がまるで、ごみ屋敷に。
(引用元:NHK クローズアップ現代+|“スマホ脳過労” 記憶力や意欲が低下!?)
奥村氏が診た患者の中には、メールやSNS、仕事関連の情報収集などで頻繁にスマートフォンを使っていた結果、脳過労を起こし、「物忘れが増える」「部下に対する当たりがきつくなる」といった変化が起こった人もいたのだそう。彼らには「まずは5分でもいいから、スマートフォンを触らないようにし、ぼんやりする時間をつくろう」と伝えたといいます。
同様に「息抜きスマホ」に警鐘を鳴らす、早稲田大学教授の枝川義邦氏は、着信音が鳴ったらすぐ画面をチェックするといった「スマートフォンに使われている状態」になっている人は注意が必要だといいます。
スマートフォンを触りすぎている自覚がある方は、1日5分でも、それを手放す時間をつくるべきなのです。
1日5分から始める、DMNの有効活用
「DMNが脳の活性化を招く」と聞くと、「無意識下で脳が活動する時間を増やせばいいのかな……?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。脳の80%ものエネルギー消費を占めるDMNを使いすぎると、かえって脳は疲れてしまいます。では、どうすればいいのでしょうか?
先述のピレイ氏は、「意識的にDMNのスイッチを入れる方法を身につけることが必要」だといいます。DMNのオン・オフに有効だと多くの脳科学者がすすめるのが、「マインドフルネス」です。
瞑想の宗教的側面を切り分け、テクニックのみを標準化させたマインドフルネス。メンタルヘルスに精通する西本真寛氏は、「過去の嫌なことやまだ起こってもいないことに対するストレスに惑わされず、『今ここ』に注意を向ける」という意味で、トレーニングのひとつだといいます。
マインドフルネスにはいくつかのやり方がありますが、初心者でも始めやすいのが「集中瞑想」です。西本氏によると、1日に5分でもいいので、移動中や入浴中など、いつもの習慣のついでに行なうのがいいとのこと。手順は次の通りです。
- 呼吸に集中する
- 呼吸とは別のことを考えるなど、拡散思考が起こってきたら、自分の注意がそれたことに気づく
- ゆるやかに呼吸に意識を戻す(ここまでを繰り返す)
姿勢を正し、丹田を意識しておなかをへこませながらも、息は止めずに呼吸は深くしましょう。少し慣れが必要ですが、慣れてくると動きながらでもおなかをへこませて呼吸をすることができます
(引用元:NIKKEI STYLE|疲れない脳をつくる 1日1回プチ瞑想のススメ)
たったの5分間ですが、慣れないうちは次第に体がグラグラしてくることもあるのだそう。自宅で実践する時間が取れない場合は、通勤時の5分間を利用してやってみるのがよさそうですね。
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「ぼーっとする」というと、さぼっているようで罪悪感を抱く人もいるかもしれませんが、じつは脳にとって必要なことなのです。たまにはスマートフォンを手放し、1日5分のマインドフルネスでDMNのオン・オフの切り替えを身につけて、仕事中のパフォーマンス向上を目指しましょう!
(参考)
菅原道仁(2017),『脳外科医が教える 一生疲れない人の「脳」の休め方』, 実務教育出版.
ScienceDaily|The creative brain is wired differently
ダイヤモンド・オンライン|これで一生衰えない!最新理論でわかった「脳の鍛え方」
ダイヤモンド・オンライン|天才たちに共通する「脳の使い方」があった!
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【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。