左回りの法則とは、人間は自然と反時計回りに行動してしまうという説のこと。コンビニなどでの導線作りや商品配置に活用されています。
左側に心臓があるから左回りになってしまう……など、さまざまな理由が考察されている左回りの法則ですが、実際のところはどうなのでしょう? ディズニーランドやお化け屋敷とも関係があるといわれていますが、本当なのでしょうか?
なぜ右回りではなく「左回りの法則」なのか、検証してみたいと思います。
左回りの法則とは
マーケティングを研究する山口隆久教授(岡山理科大学)によると、左回りの法則とは、マーケティングの世界において「導線は左回り(=反時計回り)がよい」とされていること。店舗内などを歩き回るとき、左回りか右回りか選べると、多くの人は左回りを選択するようなのですが、皆さんはどうでしょう? 左回りと右回り、どちらが歩きやすいでしょうか?
山口教授によると、左回りの法則の「原因」として、さまざまな説が挙げられているそう。そのひとつが「利き足が右だから」説です。
手と同様、実は足にも「右利き」「左利き」があります。学術雑誌『理学療法学』上に掲載された2009年の研究発表「健常成人の利き足の違いによる片脚立ち保持時間への影響」によると、アンケート回答者の92.6%が、ボールを右足で蹴ると答えたのだそう。つまり、多くの人の足は「右利き」なので、体の向きを変えるときは、右足で地面を蹴って左足を「軸足」として使うのが自然なため、体が左に回転しやすくなる……というのが、「利き足が右だから」説なのです。
山口教授によると、左回りの法則の原因として、ほかにも「心臓が左にあるから」説、「右側にある肝臓が重いため、バランスをとろうとして重心が左側に移るから」説などが存在するものの、特に科学的な根拠はない様子。山口教授は、左回りの法則の根拠について、以下のように結論づけています。
結局のところ、多くの人は右利きであるため、左手にカゴを持ち、右手で商品をとるので、左回りのほうが取りやすく一般的には好まれるようです。
(引用元:岡山理科大学|理大の栞 その20 太字による強調は編集部が施した)
左回りの法則の身近な例
ふつうに暮らしていると気がつきにくいですが、左回りの法則が活用されている例は、実は身の回りのさまざまなところに見ることができます。
最もわかりやすい例が、陸上競技のトラックです。400メートル走やリレーなどでは、必ずトラックを左回りに走りますよね。短距離走を特に研究する礒繁雄教授(早稲田大学)によると、左回りのほうが好記録を出しやすいと考えられているため、国際陸上競技連盟によって、トラックは左回りだと決められているのだそうです。
たしかに、日本陸上競技連盟の規定にも、「走ったり歩いたりする方向は、左手が内側になるようにする」と書かれています。ほかのスポーツだと、野球でランナーがベースを回る向きも左回りですね。
また、多くのコンビニやスーパーマーケットなどでは、左回りの法則にしたがい、入口→商品棚→レジの導線が左回りに設定されています。筆者がいつも利用するコンビニも、入口すぐに雑誌売り場があり、左回りに進むと、お弁当売り場→飲料の棚→レジという順番です。
山口教授によると、雑誌やお弁当といった売れ筋商品は、左回りする人の目に留まりやすく配置されているそう。つまり、左回りする人が右手を伸ばしやすい、右側の棚=店の外周部です。
皆さんも、よく利用するコンビニを思い出してみてください。雑誌やお弁当は、店の内側の棚ではなく、外側の棚にあるはず。もちろん、この配置にはさまざまな要素が関連しているわけですが、その要素のひとつに左回りの法則があるといってよいでしょう。
左回りの法則の例外
左回りの法則はさまざまな場面で取り入れられていますが、なかには例外もあります。お化け屋敷です。
山口教授によると、多くのお化け屋敷は、あえて順路を右回りに設定しているのだそう。馴染みのない右回りをさせることで、客に違和感を与える意図があるためです。
お化け屋敷に行く機会があれば、左回りの法則を思い出し、右回りなのか左回りなのかに注目してみてください。
左回りの法則の活用方法
左回りの法則を、どう活かせばよいのでしょう? 2つの活用例を考えてみました。
会場の導線
イベントごとを開く際、会場の動線は左回りを基本にしましょう。来場者は混乱や違和感を感じにくく、スムーズに移動できるはずです。混雑が予想される場合には、ディズニーランドのテクニックを取り入れてみましょう。
レジャー産業などを研究する山口有次教授(桜美林大学)によると、東京ディズニーランドは、入り口から見て左手に「過去」をイメージしたエリア、奥に「現在」のエリア、右手に「未来」のエリアを置くことで、過去→現在の流れで右回りをしたくなるよう設計されているそう。右回りをしたくなる人と、左回りの法則にしたがって左回りをしたくなる人とに客が分散するため、混雑緩和の意図があるのだそうです。
やや高度なテクニックではありますが、いずれにせよ、「多くの人は左回りに移動するものである」という原則を念頭に置いて導線を設定しましょう。
商品のレイアウト
商品のディスプレイにも、左回りの法則が関係しています。
上で説明したコンビニの例をイメージしつつ、導線は左回りを基本とし、売れ筋商品・売りたい商品を右側に配置しましょう。多くの人にとって利き手は右なので、商品が手にとりやすくなります。
また、多くの店は左回りの法則を意識して設計されているため、一般的なデザインに合わせることで、客は違和感を感じにくくなるでしょう。
***
左回りの法則は、一見ささいなようですが、多くの人が集まる場面では無視できない影響を及ぼします。特に、店舗やイベントの経営・運営に携わる場合は、ぜひ意識してみましょう。
岡山理科大学|理大の栞 その20
J-STAGE|健常成人の利き足の違いによる片脚立ち保持時間への影響
毎日新聞|陸上のトラックはなぜ左回りなの?
日本陸上競技連盟公式サイト|第3部 トラック競技
サタデープログラム公式ブログ|ディズニーランドを科学する
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。