○○を刺激すれば神アイデアが降臨する! 紙とペンでできる「エモグラフィ」がおもしろい

顔の表情(感情・emotion)がついた電球

なかなかいいアイデアが思い浮かばない……。

そんなときは、自分の感情が一役買ってくれるかもしれません。人は感情で記憶を強く刻んでは、またその感情で記憶をよみがえらせています。また、感情がなければ物事を決めることさえままなりません。

今回は、アイデア発想の際に感情を活かせる「エモグラフィ®️」と、「エモーションマップ」を紹介します。筆者も挑戦しました。

人間は感情で記憶し、思い出す

「もう、アイデアは出尽くした」――いやいや、そんなはずはありません。あなたの中には「経験と学習」で得たアイデアの種が、たくさん埋まっています。それらはきっと、あなたの感情で刺激すると発芽するはず。

ベストセラー『脳の強化書』(あさ出版)の著者で、医師の加藤俊徳氏が代表を務める「脳の学校」によれば、感情が伴うと記憶は脳に強く刻まれるそうです。

感情をつかさどる「扁桃体」と、記憶をつかさどる「海馬」という領域が、脳の中で隣り合っているため、感情が揺さぶられて扁桃体に刺激が加わると、記憶の海馬に情報が届きやすいのだとか。

また、一方で心理学には気分状態依存効果(mood-state dependency effect)という言葉があります。気分状態依存効果とは「ある気分のときに記憶された情報は、同じ気分のときに思い出しやすくなる」ことを指す言葉です。

アイデアが出ないからと言って、さらに情報を頭に詰め込むよりも、自分の頭の中にあるアイデアの種を、感情というミネラルたっぷりの水で刺激し、芽吹かせるのもいいかもしれません。

太陽の光を浴びながら芽吹く植物たち

人間は感情で物事を決める

「情報はたくさんあるけれど、どう選んで、どう組み合わせたらいいアイデアになるのか判断できない、決められない」――ならば、あなたの感情に耳を傾けてみてください。そもそも感情を無視して判断・決定することは、とても難しいのです。

京都大学大学院教育学研究科准教授の野村理朗氏によると、外から入力された情報は、感情をつかさどる「扁桃体」が決めた価値に基づき、他の脳領域を介していったん全身に出力されるそうです。

そのあと再び身体情報として脳に入力され、諸々の脳領域を経由して「前頭前野」へ投射される(情報を受け取り作用する)のだとか。そうして思考や推論、意思決定が行なわれるとのこと。

前頭前野は理性的な判断や、意思決定などを担う脳の最高中枢ですが、「感情」はそのプロセスを方向性づける役割を担っているわけです。(以上「脳科学辞典」の『情動』と『前頭前野』より)

ハートが入った脳
また、名古屋大学 情報学研究科 教授の大平英樹氏は2014年の論文で、「ビュリダンのロバ (Buridanʼs ass)」という寓話を紹介しています。

その内容は、「1頭の飢えたロバがふたつの干草の山を目の前にしたとき、まったく同じ距離・同じ魅力(美味しそう)であったため、どちらの干草を食べるか決められず、結局餓死してしまう」といったシニカルなもの。

この寓話を踏まえて大平氏は、複数の選択肢の価値に差異がない場合、あるいは情報がなく価値を計算できない場合、人間は合理的な決定ではなく「直感にもとづいた意思決定」を行う、と述べています。

このような合理性から離れた意思決定を、感情的意思決定(affective decision-making)と呼ぶそう。わたしたちは時に自覚がないまま、こうした決定をしばしば行なっているとのこと。たとえば「どれを選んでも一緒かもしれないけど(よくわからないけど)、これが気になる。これにしよう」といった状況でしょうか。

そんな決め方もできるのに、無理に合理的な判断・意思決定を行なおうとしていませんか? それでは、ビュリダンのロバになってしまいかねません。

扁桃体は、「好き・嫌い」といった感情もつかさどる領域です。ビジネスでは合理的に考えることも必要ですが、時にはその合理的思考に、あなたの「好き・嫌い」の感情をプラスすることで、判断や決定の滞りをスムーズにできるはずです。

グチャグチャの思考に感情をプラスしてスッキリ意思決定できたビジネスパーソン

感情が揺さぶられるとアイデアの神降臨?

人間が、感情によって“よく記憶しては思い出す”生き物であること。そして、感情が“物事の判断や意思決定の方向づけ”に関わっていること、“難しい判断や意思決定を助ける”ことがわかりました。

これらはアイデア創出に欠かせない要因。だからこそ実際に、アイデア発想の現場でも、感情が重要であることが確認されています。

ソフトバンク時代に社長室のマネージャーを務めていた中沢剛氏が、戦略コンサルタントとして働いていた頃に考案したアイデア発想法プログラム「idea Picnic」を取り入れると、誰でもユニークなアイデアを大量に生産できるのだとか。

その中には、否応なく感情が刺激されるステップがあります。

  1. 課題をあげる:(例)「朝しっかりとご飯が食べられない」
  2. その課題が“できない理由や不満”をぶちまける:(例)「だって時間がないんだもん」「面倒くさいんだもん」「眠いんだもん」
  3. 不満等をポジティブに言い換える:(例)「時間がなくても大丈夫」
  4. 3の言葉について問いかける:(例)「時間がなくても大丈夫とは、どういうこと?」

その、“否応なく感情が刺激されるステップ”とは、2番目の「不満をぶちまける」こと。「だって、○○なんだから仕方がないでしょ!」と感情的に不満や文句を言いまくることで、いつの間にか多様な切り口が生まれるそうです。

それからまた3、4へとステップを進み、最後の問いかけに答えることで、アイデアがざくざくと生まれてくるとのこと。

「idea Picnic」のワークショップでは、皆が笑いながら不満や文句を言いまくるので、ネガティブな雰囲気にはならず、楽しくアイデアを出しあえるそう。中沢氏は「多様な切り口を出して」と言われるより、「文句を言いまくって」と言われるほうが感情が揺さぶられ、思わず答えてしまうと述べています。

なかなかいいアイデアの切り口が出てこないときは、テーマについて文句を言いながら感情的に考えてみることで、アイデア発想が促進されるかもしれません。

何かいいアイデアを思いついた女性

人の心理を探れる「エモグラフィ」とは?

前項で紹介した「idea Picnic」は、論理的なステップを踏むうちに自然と感情が刺激され、スムーズにアイデア創出へとつながる方法でした。

感情を刺激してアイデアを出す方法には、「エモグラフィ®️」という感情記述記号を用いたやり方もあります

「エモグラフィ」は、エモーション(emotion/感情)グラフィ(graphy/記法)を合わせた言葉。富士通株式会社に勤務しながら、ラクガキコーチとして会議や社員研修のワークショップを開催するタムラカイ氏が開発した、コミュニケーションやアイデア発想に役立つ手法です。

感情表現を記号に落とし込んでから描く方法なので、絵が苦手でも顔の表情を描きやすいことが特徴です。今回は、こちらを実践してみましょう。

パーツごとに分解(輪郭・口・目・眉)したものを、再び組み合わせるのが「エモグラフィ®️」。まずは最初に丸(輪郭)を14個描きます。

顔の輪郭だけ描いた「エモグラフィ」
次に口と目と眉を描き入れます。

口は「5母音(あ・い・う・え・お)」になるように。目は「黒目・白目・にっこりした目・つむった目・ギュッとつむった目」の5種類。眉は「横にまっすぐ眉・にっこり眉・上がり眉・下がり眉」の4種類。

口と目と眉をそれぞれ入れた「エモグラフィ」
これらのパーツを組み合わせると、「エモグラフィ®️」が完成します。

口と目と眉のパーツを組み合わせた「エモグラフィ」
(参考:あしたのコミュニティーラボ(富士通株式会社)|みんなでつなぐ、豊かな社会|デザイン思考のアプローチを、紙とペンではじめてみよう! 「エモグラフィ特別講座」── グラフィックカタリスト・ビオトープ プロジェクト(2)

「テキストだけでは感情が抜け落ちてしまう。そこを描くことで見えてくることはある」――タムラカイ氏はそう述べます。

たとえば商品やサービスのアイデアを発想しようとするとき、ユーザー自身も気づいていない真の欲求(インサイト)を掘り起こすことが重要ですが、その際に「エモグラフィ®️」の表情(感情)を起点にすると、ユーザー心理を深いところまで探りやすくなるそうです。

これはアイデア発想の促進に期待できそうです。

「エモーションマップ」でアイデアを練ってみる

次に、「エモグラフィ®️」を用いてアイデアを練ってみましょう。その際の手法は、同じくタムラカイ氏が考案した「エモーションマップ」というものです。

まず1枚の紙の中央に「主題」を書きます。今回の主題は、最近筆者が十分にできていない「読書」としました。

「エモグラフィ」をつかった「エモーションマップ」のお題
その周辺に4つの顔の表情(エモグラフィ®️)を描きます。もちろん表情の数はもっと増やしても大丈夫です。

なにか言葉を思い浮かべたわけではなく、表情は適当に書きました。

「エモグラフィ」をつかった「エモーションマップ」のお題と4つのエモグラフィ
それぞれにフキダシを描きます。

「エモグラフィ」をつかった「エモーションマップ」のお題と4つのエモグラフィとふきだし
タムラカイ氏が言うように、感情が伝わるエモグラフィ®️の横にフキダシがあると、思わずセリフを書いてみたくなります

たとえばこんな感じ。

エモグラフィ」をつかった「エモーションマップ」のお題と4つのエモグラフィとふきだしに、セリフを入れたもの

このままもう少し続けてみました。

(参考:あしたのコミュニティーラボ(富士通株式会社)|みんなでつなぐ、豊かな社会|デザイン思考のアプローチを、紙とペンではじめてみよう! 「エモグラフィ特別講座」── グラフィックカタリスト・ビオトープ プロジェクト(2)

「エモグラフィ×エモーションマップ」をやってみた感想

今回は、誰でも簡単に描ける顔の表情「エモグラフィ®️」を用いた手法「エモーションマップ」で、アイデア発想にチャレンジしてみました。

こんな、ありきたりの主題を広げていけるのかなぁ、と心配でしたが、単純なディテールのくせに表情(感情)たっぷりのエモグラフィ®️のおかげで、不思議なくらい言葉があふれ出てきましたよ。

「エモグラフィ」をつかった「エモーションマップ」をどんどん広げたもの

私たちの感情は常に「何か」を伝えたがっているのかもしれません。とにかく楽しい「ひとり会議」でした。

ちなみに、「読書(が減っている)」という主題のひとり会議で出たアイデアは、「部屋の配置換えで可能になるリラックススペースをつくり、本を読むためのスイーツ(報酬)を用意して、また読書率を上げる」といったことに落ち着きました。

楽しいし、切り口がバンバン出てくるのでおすすめです!

***
タムラカイ氏いわく、エモーションマップは「自分のやりたいこと」を見つけ出す際にも活用できるとのこと。ぜひお試しくださいね。

(参考)
MRI脳画像診断で発達障害改善や脳の成長をサポート「脳の学校」|第197号 記憶力UP!海馬を刺激する脳番地トレー二ング  
仲真紀子著(2007),「感情と記憶」,放送大学教育振興会,感情の心理学, ISBN: 9784595307065,pp.71-84. 
大平英樹(2014),「感情的意思決定を支える脳と身体の機能的関連」,心理学評論刊行会,心理学評論,Vol.57,No.1,pp.98-123.
NIKKEI STYLE|WOMAN SMART|脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法  
ダイヤモンド・オンライン|アイデアのスイッチ!|「不満の多い人」ほどアイデアが豊富である理由 
MICHIKARA(地方創生協働リーダーシッププログラム)|第3期レポート 
会議HACK!|会議に感情を残すために生まれたエモグラフィ【スマート会議術第82回】 
あしたのコミュニティーラボ(富士通株式会社)|みんなでつなぐ、豊かな社会|デザイン思考のアプローチを、紙とペンではじめてみよう! 「エモグラフィ特別講座」── グラフィックカタリスト・ビオトープ プロジェクト(2)  
脳科学辞典|情動
脳科学辞典|前頭前野

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