緊張してプレゼンを大失敗。不安で考えがまとまらない。イライラして失言した。失敗を後悔していたら、もっと大きな失敗をしてしまった……。
時に私たちは感情に振り回され、自ら状況を悪くしてしまうことがあります。もしもそんな経験があり、感情をコントロールしたいと考えているなら「自己モニタリングノート」がおすすめですよ。筆者もやってみました。
「モニタリング」の効果
モニタリングとは監視・観察記録のこと。トロント在住の脳外科医であるマーク・バーンスタイン氏は、手術中に起きた自分やチームメンバーのミスを10年間にわたってモニタリングし、データベース化したところ、1カ月に3件以上あったミスを半分に減らせたそうです。
この事例を自身の著書で紹介している米国先端政策研究所(Center for American Progress)シニアフェローのアーリック・ボーザー氏は、モニタリングのメリットを「自分のパフォーマンスへの意識が高まること」だと伝えています。
たとえば、日本が誇るフィギュアスケートの羽生結弦選手は「発明ノート」という練習日誌を毎日つけているそう。気になったこと、思いついたこと、よかったこと、悪かったこと、疑問点などを記録しているといいます。
早稲田大学スポーツ科学学術院教授の堀野博幸氏によれば、こうした記録の心理学的効果は、重要事項を忘れにくくすること、書き出したことを客観的に分析して新たに目標を設定できること、気がかりなことへの執着から解放されることなのだそう。
まさに、この「発明ノート」習慣は羽生選手の自己モニタリング活動であり、その効果は羽生選手の功績が物語っていると言えるのではないでしょうか。
「メタ認知的技能」について
また、東京大学大学院総合文化研究科准教授の四本裕子氏らによれば、自己モニタリングは「メタ認知」の最も重要な部分をつくるそうです(脳科学辞典より)。
メタ認知とは、自分の思考や言動、感情を、もうひとりの自分が別の視点から見ているように、客観的に分析・調整すること。この活動を、自分の長所や短所と照らし合わせながら行なうことをメタ認知的技能と言うそうです。「カオナビ人事用語集」によればメタ認知的技能は、
- 「メタ認知的モニタリング」
- 「メタ認知的コントロール」
といった2ステップからなるとのこと。自分の状態を客観的に観察して認識し、その認識をふまえて感情をコントロールしたり、改善に向け行動したりするそうです。感情のコントロールにもモニタリングは不可欠なのですね。
「メタ認知」のステップ
では、メタ認知的技能のステップを具体的に説明しましょう。医学博士・心療内科医師・本郷赤門前クリニック院長の吉田たかよし氏の「メンタル強化講義(大学受験パスナビ)」や、「カオナビ人事用語集」を参考にします。
1. ファーストステップ:「メタ認知的モニタリング」
たとえばプレゼンの前に、いつもよりひどく緊張してしまったとします。ファーストステップでは、そんな自分を(もうひとりの自分として)客観的に観察し、どんな状態なのか確認します。
その際に「私は緊張なんかしていない。平気平気」などと、自分のネガティブな状態に背を向けてはいけません。現状を認めなければ調整もできないからです。吉田氏いわく、ネガティブな感情は勝手に増殖するとのこと。
2. セカンドステップ:「メタ認知的コントロール」
次に、メタ認知的モニタリングで認識したことをふまえ、感情をコントロールしていきます。
先のようにプレゼンを前に緊張している自分を認識したならば、「ハンカチを濡らして首元につけ、脳をクールダウンししよう」「深呼吸して落ち着こう」などと改善に向けた活動を自分自身に促します。
そして吉田氏は、このステップをスムーズにするメンタルノートをすすめています。
感情を書き出すと効くワケ
吉田氏によると、脳の大脳辺縁系で生まれる感情はモヤモヤの状態。そのままでは脳の前頭前野が感情をしっかりと認識できないので、適切に対応できません。
東北大学と日立ハイテクの脳科学カンパニーが運営する「Active Brain CLUB」によれば、前頭前野は「思考・記憶・応用・集中・意欲、そして行動や感情のコントロールを担う」のだそう。つまり、ノートに感情を書き出し「言語化」してしまえば、おのずと感情の輪郭がハッキリとしてくるので、感情のコントロールに不可欠な前頭前野が認識しやすいのです。
吉田氏によれば、気分が落ち着いているときにこのノートを見返すと、書かれている内容が些細なことに思えて、安心感が生まれ、自信がもてるようになるとのこと。
メンタルノートをつけてみた
これまでの内容をふまえ、筆者も「自己モニタリングノート」をつけてみました。吉田氏のアドバイス通り、不安や不満、イライラや嫌悪、後悔などネガティブな感情が生まれたらひたすら書くようにします。あとで見直した際に「こんな感情だった」と思い出しやすいよう日付も記入。
目的は「自分の感情を脳の前頭前野に認識させること」なので、書き方は自由に、表現豊かに行ないました。
書いていて感じたのは、小さなネガティブ感情は書き出すだけでも薄まるということ。
ひとりでツッコミを入れ、ラクガキを交えながら書いているうち、その際に生まれた嫌な感情はどこかにいってしまいます。「自己モニタリングノート(メンタルノート)」そのものが「冷静スイッチ」なのかもしれませんね。
「どうしよう、もう嫌だ」といった瞬間に、メモ帳、ノート、スマートフォンにでも、自分の感情を書き出してみてください。冷静になり、できることに気がついて、ネガティブ思考のスパイラルから抜け出せるはずです。
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感情のコントロールを可能にする「自己モニタリングノート」を紹介しました。 ぜひお試しくださいね。
(参考)
アーリック・ボーザー 著, 月谷真紀 訳(2018),『Learn Better――頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』, 英治出版.
大学受験パスナビ|【メンタル強化講義:6限目】 メタ認知ーー自分をモニタリング&コントロールする
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Active Brain CLUB|人間らしく生きるためには「前頭前野」が大事
脳科学辞典|メタ認知
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