「いつも気持ちが沈んでいる」
「毎日仕事のことで頭がいっぱいでつらい……」
このように、ストレスや不安に悩まされてはいませんか?
頻繁にストレスを感じている方におすすめしたいのが、運動です。
「運動すると、なんとなくスッキリした」という経験がある方は多いかもしれません。じつは、運動がストレス解消になる科学的なメカニズムがあるのです。
ストレスがたまる仕組みと、運動でストレスを解消できる理由をご説明しましょう。
ストレスがたまる仕組み
脳がストレスを感じると、副腎からコルチゾールというストレスホルモンが分泌されます。血液中のコルチゾール濃度が上がると、体が厳戒態勢に入り、心拍数が上がったりわずかな物音にも敏感になったりと、さまざまな反応が引き起こされることに。コルチゾールは通常、ストレスがかかると一時的に増加し、ストレッサーが除かれるとすぐに減少します。
では、ストレスを放置すると、どうなるのでしょうか。コルチゾールの分泌を抑制するもののひとつが、脳の海馬です。海馬は、慢性的なストレスに何ヶ月も何年もさらされると、萎縮してしまいます。すると、すぐに減少するはずのコルチゾールが大量に分泌され続けるように。いつまでもストレスが解消されず、精神的・身体的につらい状態に陥ってしまうのです。
そうして、慢性的なストレスがさらなるストレスを呼び、悪循環を生んでしまいます。
運動でコルチゾールが減少
ストレスに悩まされている人は、この悪循環を断ち切らなければいけません。問題は分泌されっ放しのコルチゾールです。抑制されにくくなってしまったコルチゾールを、どうやって減らせばよいのでしょう。そこで有効なのが運動です。
運動すると体に負荷がかかり、ほかのストレスがかかったときと同じようにコルチゾールが分泌されます。しかし、運動が終わると、分泌量は正常に減少します。つまり、コルチゾールの「分泌→減少」の正しいサイクルを、運動によって取り戻すことができるのです。
さらに、定期的な運動を続けると、コルチゾールの分泌量そのものが徐々に減っていきます。それによって、運動以外のストレスにも体が過剰反応しなくなるのです。
「幸せホルモン」セロトニン
運動の効果はそれだけではありません。
筋肉中には「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンが存在します。この物質は、ストレスに関わると考えられているキヌレニンという物質を無害化してくれるもの。さらにセロトニンは、興奮の要因となるノルアドレナリンやドーパミンの作用を和らげ、不安を解消し、ポジティブな気分をもたらしてくれる効果もあります。
セロトニンを増やすには、ダンスやジョギングなどのリズム運動、光を浴びることなどが有効です。畿央大学の研究によると、運動後は、運動前に比べて、尿中セロトニン量が増加し、被験者の気分もよくなることがわかっているのだそう。また、セロトニンは筋肉中の物質ですから、筋肉トレーニングでも増強できると考えられます。
おすすめの運動
では、実際にどのような運動をすればいいのでしょうか。
コルチゾールの分泌を抑えるためには、短時間の運動を数回繰り返すのが効果的です。内容は、できれば歩くよりは走ること。激しい運動のほうがより効果が得られます。そして、その運動を習慣化することが大切です。セロトニンを増やすには筋トレやリズム運動が効果的ですが、コルチゾールを抑える運動と合わせて考えれば十分でしょう。
2つのメカニズムに加え、激しい運動で心拍数が上がることに慣れておくと、不安や緊張で上がる心拍数に体が過剰反応しなくなります。「ドキドキする=運動後のように気分が爽快になる」と体が覚えるのです。そのためにも、負荷をかけることは重要。短時間を数回、より負荷をかけて、継続的に。これを意識して運動してみましょう。
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椅子にじっと座っていても、ストレスは軽減されません。ストレスに悩まされている方は、迷わず外に出て体を動かしてみましょう。
(参考)
アンダース・ハンセン 著, 御舩由美子 訳(2018), 『一流の頭脳』, 御舩由美子訳, 幻冬舎.
脳科学辞典|ストレス
ハコジム|筋トレはうつ病のリスクを大幅に低減する可能性があります
東邦大学医療センター 大森病院 臨床検査部|幸せホルモン「セロトニン」
日吉心のクリニック|特に重要な3つの神経伝達物質
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター|運動によるセロトニンシステムの活性化が不安を軽減する
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。