研修評価に「満足度アンケート」はNG!? 研修の成果を正しく評価するための基本4ステップ

考えを巡らせているビジネスパーソン

社内/社外にかかわらず、研修の評価を難しいと感じている方は多いのではないでしょうか。「とりあえず、経営層に報告するために満足度アンケートをとってみたものの、本当に研修が業務に活かされているのだろうか……」なんて、内心疑問に思いながら研修を実施している方もいるかもしれませんね。また、「研修を受けたけど、実際にその研修が業務に活かされているのか自分自身でもわからない」と思われている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、研修評価でよく使われる「満足度アンケート」等の問題点や、研修で学んだことを現場で実践し、成果につなげるための重要な考え方である「研修転移」「混合評価」について詳しくご紹介します。

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(参考)

中原淳・関根雅泰・島村公俊・林博之(2022),『研修開発入門 「研修評価」の教科書 「数字」と「物語」で経営・現場を変える』, ダイヤモンド社.

「満足度アンケート」で研修評価をすることの問題点

「研修転移」の話の前に、多くの日本企業が抱えている研修評価の問題点について見ていきましょう。これまで研修を受けたことのある方は、研修最終日に「満足度アンケート」を書いた経験があるのではないでしょうか。

この満足度アンケートは、言葉を選ばなければ、手っ取り早く研修を評価する方法と言えるものです。立教大学経営学部の中原淳教授らによる著書では、以下のように指摘されています。

研修満足度で研修を評価するほうが、研修担当者にとっても、研修講師にとっても都合がいい、という側面があることも否めません。

(引用元:中原淳・関根雅泰・島村公俊・林博之(2022),『研修開発入門 「研修評価」の教科書 「数字」と「物語」で経営・現場を変える』, ダイヤモンド社.)

たとえば、研修の最後に研修内容の要約やグループディスカッションを行ない、そのあとに満足度アンケートを実施すれば、受講者は研修のポジティブな面だけを思い出しやすくなります。このようにして、研修の満足度を人為的に操作することはそれほど難しくありません。

研修講師としては、「高い評価」を得たい。加えて研修担当者としても、自分の担当した研修の満足度を高めて「自分の評価を高めたい」——このように利害が一致し、「研修講師と研修担当者の間に一種の「共犯関係」ができあがると中原淳教授は指摘しています。

しかし、研修の本来の目的は、研修講師の評価を高めることでも、研修担当者の評価を高めることでもありません。研修の目的は、受講者が「研修で学んだことを、現場で実践し、成果につなげていくこと」。この部分を評価の軸にもっていくのが「研修転移」という考え方です。

(カギカッコ内引用元:同上)

研修で学んだことを実践している社員らのイメージ

研修の成功を左右する「研修転移」の考え方

研修転移とは「研修で学んだことを、現場で実践し、成果につなげていくこと」を指します。この考え方にのっとれば、研修を評価する際には「直後の満足度を問う」のではなく、「研修した内容が業務で活かされたかどうか、実践されたかどうか」「研修の成果が明確に業務改善に寄与しているか」を測るべきでしょう。

たとえば、「顧客サービスの向上」を目的とした研修を実施したあとには、顧客満足度などの数値がどう変化したかを見るのです。

しかし、このような実践的な成果を測定することは困難なもの。そのため多くの企業が、より手軽に実施できる「満足度アンケート」に頼りがちになってしまうのです。

それでは、「研修転移」を促すにはどういった研修評価を設計すればいいのでしょうか。前出の中原教授らによる著書では、「混合評価」という実践的な評価方法がすすめられています。

仕事をしているビジネスパーソン

バックキャスト思考の「混合評価」

混合評価では、日本企業の多くで採用されている「カークパトリックモデル」の「新モデル」のフレームワークを採用しています。「新モデル」とは「カークパトリックモデル」を提唱したアメリカの経営学者ドナルド・カークパトリック氏の息子 ジェームス・カークパトリック氏が提案するものです。

「カークパトリックモデル」については、こちらの記事も参考にしてみてください。

この「新モデル」の大きな特徴は、「成果」からバックキャスティングして考えていくこと。バックキャスティングとは、未来のあるべき姿から、現在にさかのぼって課題解決を考えるアプローチ方法です。つまり、ゴールから逆算して考える方法ということですね。

混合評価の4つのステップの図

(『研修開発入門 「研修評価」の教科書 「数字」と「物語」で経営・現場を変える』p.86の図を参考に作成した)

次の項目で各ステップの詳細を見ていきましょう。

ステップ1:成果につながる行動の明確化

このステップでは、研修の「成果」を「具体化」し、成果につながる「行動」を「明確化」する必要があります。カークパトリック氏は、研修企画段階でステークホルダー(多くの場合、企業の経営層)と話すことを重要視し、ステークホルダーに対して、以下の3つの質問を投げかけることをすすめています。

「(研修を行って)どうなれば成功といえますか?」
「(成功というためには)どんな証拠が必要ですか?」
「どうすれば成功したかどうかを測れるでしょうか?」

(カギカッコ内含む引用元:同上)

このように質問を投げかけ、「研修を行なうことで売上を何%伸ばしたい」という定量的な数字や、「研修を受けた従業員がこうなってほしい」といった定性的な期待を引き出していきます。このプロセスでは、研修担当者だけでなく、ステークホルダーにも目標や期待を言語化し、共有してもらうことが必要です。

ステップ2:行動の測定

このステップでは、部門などの現場からの情報収集をしたうえで「重要な行動」を特定することが重要です。

たとえば、新人がとるべき「重要な行動」を「自分のやるべき仕事を把握したうえで適切に指示を仰ぐことができる」ことと設定した場合、それを測定項目として設定し、評価します。あるいは、営業部では「マニュアル通りに営業電話をかけられる」ことが「重要な行動」となるでしょう。

また、このステップでは研修受講者に、「研修で学んだことを仕事で活用したか・活用したのであれば、うまくいったか」などを自己評価させる簡易アンケートやインタビューを実施することも有効です。

研修の受講生らがディスカッションしている様子

ステップ3:学習目標の設定

このステップでは、「研修設計の目標」を設定します。受講者に「研修で学んだ知識、スキル、態度を、現場で実践する気になってもらい、成果につなげていくこと」を念頭に設計していきましょう。

たとえば、顧客対応スキル向上を目的とした研修で、「顧客からのクレーム対応時に冷静かつ効果的なコミュニケーションを行ない、顧客満足度を向上させる」という学習目標を設定したとしましょう。この目標を達成するためには、クレーム対応のシミュレーションなど、社員が現場で直面する可能性のあるシナリオを想定した研修を行なうことが重要です。

ここでは、研修を受ける側の立場になって、「学んだことを実践すればいい結果になりそう!」「たしかに仕事に役立つ!」と思えるよう研修をデザインするよう留意しましょう。

ステップ4:関連度・有用度・自己効力感の評価

このステップでは研修設計者が、下記の4点を測定する必要があります。

  • 「受講者の行動」促進につながったのか?」
  • 「受講者から見て「関連度・有用度」が高い研修であったのか?」
  • 研修転移につながるような研修設計であったのか?」
  • 受講者が「私にも、実践できる!」「私は、これを実践する!」という「自己効力感」を得られたか?

(カギカッコ内引用元:同上)

ここでは、研修直後に「満足度」を聞かないことが大切です。上記のように具体的な成果や行動変化に焦点を当てることで、研修が実際に業務において有効であったかを評価しましょう。

これにより、「その場限りの研修で業務に活かされない」という事態を防ぎ、研修の実践的な効果を確実にすることができます。研修担当者だけでなく、経営層や現場マネージャーなど、すべての関係者が協力して研修の効果を最大化させることが、組織全体の成長につながるでしょう。

***
研修評価の方法を見直すことは、組織にとって不可欠です。単に満足度アンケートに依存するのではなく、「研修転移」と「バックキャスト思考」を取り入れた混合評価を採用することで、実際の業務に役立つ研修の設計と評価が可能になります。

このアプローチにより、受講者はもちろん、研修担当者や組織全体にとっても、研修がより有意義な学びと成長の機会となるでしょう。

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