楽天やファーストリテイリングなどで実施され10年以上が経過した「英語公用語化」について、自分の会社もそろそろかな……とお考えの、経営層や担当者のみなさま。以下のようにお悩みではありませんか?
- 海外展開を加速させるために英語公用語化を検討しているけれど、デメリットはないのだろうか?
- 最近、海外人材が増えて社内コミュニケーションを英語で行なう場面が増えてきた。思いきって、英語公用語化に踏み切ったほうがいいのだろうか?
- 海外人材の採用を強化するために英語公用語化を視野に入れたいが、何から始めればいい?
この記事では、上記のような方に向けて、企業の英語公用語化に関する現在のトレンドや、英語公用語化のメリット・デメリットを解説していきます。英語公用語化の基本を、ぜひこの記事で押さえてくださいね。
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STUDY HACKER 編集部
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東洋経済オンライン|楽天は「英語公用語化」でどう変わったのか
株式会社 ファーストリテイリング|2012年8月期上期の振り返りと今後の展望
日本経済新聞 日経電子版 2017年2月20日|資生堂、英語を公用語に 18年に本社部門で
エリートネットワーク|日産自動車株式会社 企業インタビュー
日本経済新聞 日経電子版 2022年6月23日|シャープ、社内公用語を英語に 海外強化へ23年から
繊研新聞|ファストリ 売上収益10兆円目指す 海外ユニクロ軸に事業拡大
資生堂 企業情報|地域概況
パーソル総合研究所|労働市場の未来推計 2030
株式会社マイナビ|マイナビ中途採⽤状況調査2020年版
「「英語公用語」企業トップが語る AIを使い倒すほうがうまくなる」, 週刊東洋経済, 2024年1月20日号, p60.
英語公用語化の3つのパターン
企業の英語公用語化にはさまざまなケースがあり、大きく3つに分けられます。
- 「全社」での英語公用語化
- 「特定の部門のみ」での英語公用語化
- 「海外企業の傘下に入った」ことによる英語公用語化
それぞれのケースについて詳しくご紹介しましょう。
1.「全社」での英語公用語化
1つめは、会社全体で英語公用語化が実施されるパターンです。
たとえば、楽天グループ株式会社と株式会社ファーストリテイリングは、2010年に英語公用語化を発表し、2年間の移行期間を設けて2012年に完全移行しています。
これらが、日本企業のなかの英語公用語化第一期生と言ってもいいでしょう。
2.「特定の部門のみ」での英語公用語化
2つめが、現在トレンドとなっている、特定の部門のみでの英語公用語化です。
たとえば、2018年には株式会社資生堂が、本社部門で英語公用語化を実施。人事・会計などの業務部門向けのソフトウェアを提供する株式会社マネーフォワードは、2024年度中を目途にエンジニア部門の英語公用語化を進めています。
3.「海外企業の傘下に入った」ことによる英語公用語化
3つめは、海外資本企業の傘下に入ったことをきっかけに、英語公用語化が実施されたり、実質的に英語が公用語となったりするケースです。
たとえば、1999年にルノーの傘下に入った日産自動車株式会社では、外国人比率の増加から実質的な英語公用語化といえる状況に。ほかには、2016年に台湾の鴻海精密工業に買収されたシャープ株式会社が、2023年からの英語公用語化を表明しました。
英語公用語化のメリット
全社での導入、部門での導入など、企業によって英語を公用語化する割合はさまざまですが、なぜ企業は英語公用語化を進めるのでしょうか?
グローバル・マーケットでのビジネスチャンスを拡大できる
日本はアメリカに次ぐ内需大国ではありますが、人口減や個人消費の落ち込みから、企業はグローバル・マーケットでのビジネスチャンス拡大を狙う必要があります。
英語公用語化を先んじて行なった株式会社ファーストリテイリングでは、23年8月期の海外売上比率が61.7%と10年で6倍に。本社部門の英語公用語を発表した株式会社資生堂でも、海外売上比率は年々増加しており、2022年では約70%となっています。
さらなる事業成長を求める企業や、内需で頭打ちになっている企業にとって、英語の社内公用語化を進めることで、グローバル・マーケットに活路を見いだせるメリットがあるのです。
優秀な人材を採用しやすくなる
英語を公用語化することで、日本だけではなく、海外からも優秀な人材を採用しやすくなります。
なぜ海外人材を採用する必要があるのか――その背景には、日本の労働人口減少があります。近頃話題にのぼることが多い「2030年問題」では、2030年に日本の人口の3分の1が65歳以上となり、それによる深刻な人材不足が予想されています。
株式会社パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2030」によると、2030年の労働需要が7,073万人であるのに対し、供給される労働人口は6,429万人と推計されています。差し引くと、644万人の人材不足が発生する見通しとなっているのです。
また近年では、ITエンジニアの人材不足から、採用の難易度が非常に高くなっています。IT業界の採用コストも高騰。株式会社マイナビの「マイナビ中途採⽤状況調査2020年版」によると、IT・通信・インターネット業界の年間中途採用費用(2019年)は、全体平均の674.1万円を大幅に上回る898.5万円であったそうです。
そうした事情にともない、海外人材の採用が活発化しています。実際、マネーフォワードでは、全従業員の約40%を占めるエンジニア・デザイナー職のおよそ半数がノンジャパニーズという構成になっているのだとか。
今後の日本の労働人口不足、優秀な人材の採用競争激化を考えると、海外人材の採用は日本企業にとって急務。英語を公用語化すれば、海外人材を採用しやすくなります。英語公用語化は、中長期的な企業経営の視点で見ても非常に重要な戦略のひとつになっているのです。
英語公用語化のデメリット
英語公用語化は企業にとってメリットがある一方、既存社員に負荷がかかるというデメリットもあります。大きな改革には痛みをともなうということですね。
英語公用語化の導入を検討するなら、メリットだけでなく以下のデメリットも考慮する必要があります。具体的に解説しましょう。
一時的に生産性が下がる可能性が高い
英語公用語化を推進するうえで一番のデメリットは、企業の生産性が一時的に下がる可能性が高いことです。
たとえば、これまで日本語で円滑に進んでいたミーティングで「今後は英語しか使えない」となると、意思疎通がうまくはかれなくなるかもしれません。コミュニケーションコストがかかり、業務の推進スピードが落ちる可能性があります。
また、本業における労働時間を縮小せざるを得なくなるおそれも。社員に英語学習の時間を確保させる必要が出てくるためです。
前出のマネーフォワードでは、
英語が得意な人ばかりではないため、学習ツールを会社が無償提供し、1日3時間までは勉強に使っていいというルールを作った
(引用元:「「英語公用語」企業トップが語る AIを使い倒すほうがうまくなる」, 週刊東洋経済, 2024年1月20日号, p60.)
と、代表取締役社長 CEOの辻庸介氏が語っています。
1日3時間勉強するとなれば、本業の時間を多少なりとも抑える必要が出てくるでしょう。おのずと、本業の進行は遅くなり生産性が落ちてしまいます。
とはいえ、英語学習はすべて業務時間外に行なうよう社員に命じるのも難しいもの。英語公用語化を推し進めるには、これくらいの痛みをともなうことも覚悟しなければならない、ということなのかもしれません。
社内リソースが消耗する
英語公用語化は数か月で完了するプロジェクトではありません。楽天やファーストリテイリングが移行期間を2年とったように、年単位で取り組む必要があります。
プロジェクトのなかでは、英語公用語化に向けた社内文書の作成、スケジュールの策定、既存社員への説明、英語研修の導入、社員の英語力や学習進捗の管理、ミーティングの英語化、海外人材の採用戦略策定……と、膨大な業務が発生します。英語公用語化プロジェクトは、社内のリソースをかなり割く必要があるプロジェクトなのです。
会社全体が相当な力をかけて取り組むわけですから、「なぜ英語公用語化を実現しなければいけないのか」を経営層が明確にし、繰り返しメッセージとして発信する必要があるでしょう。
また社員のなかには、英語に苦手意識をもつ人や、そもそも学習をしたくない人がいる可能性も。そういった社員に対するケアも欠かせません。社員にどのような仕組みで学習に取り組んでもらうのかの検討も非常に重要です。
英語公用語化はスモールスタートがおすすめ
ここまでお伝えしてきたように、英語公用語化にはメリットもありますが、デメリットもあります。
デメリットをできるだけ小さくして、スムーズに英語公用語化を実現していくコツは、小さく始めること。部門・部署ごとの英語公用語化にまず取り組み、少しずつ会社全体に普及させていくのがおすすめです。
その際は、最もインパクトを出せる部門や部署での英語公用語化から始めるとよいでしょう。
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この記事では、企業の英語公用語化についてのトレンドやメリット・デメリットを紹介しました。
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