新入社員の離職を防ぐ3つのヒント。大切なのは社員を “顧客” として見ること

組織に新しいメンバーが参加しようとしている様子

「新しく入社した社員が、会社に馴染んでいない気がする……」
「社員の離職率が高い。どうすれば会社にフィットした人が入社してくれるだろう……」

このように悩んでいる方の役に立つのが、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)という概念です。ベンチャーキャピタリストであるマーク・アンドリーセン氏が広めた言葉で、一般的にはスタートアップや大企業の新規事業開発で使われていますが、新入社員や中途社員の受け入れにも応用できる考え方です。

PMFでは、「商品」と「市場」というふたつの軸で考えます。今回は、「市場」を「新入社員や中途社員」、商品を「企業」と見立てて、いかに社員が企業に滞りなくフィットできるかを、解説しましょう。ぜひ参考にしてみてくださいね。

【この記事はこんな方におすすめ】

  • 新入社員や中途社員が自社にうまくフィットしていないと感じている方
  • 新入社員や中途社員を組織に円滑にフィットさせるためのヒントを探している方
  • 新入社員や中途社員の離職率の高さに悩んでいる方

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。

(参考)

栗原康太(2022), 『新規事業を成功させる PMF(プロダクトマーケットフィット)の教科書 良い市場を見つけ、ニーズを満たす製品・サービスで勝ち続ける』, 翔泳社.
田所雅之(2024), 『「起業参謀」の戦略書 スタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』, ダイヤモンド社.
SAIRU|新規事業がPMFできない12の理由~失敗から学ぶ、PMFに必要な行動~
パーソル総合研究所|20代若手社員の成長意識の変化 -在宅勤務下の育成強化も急がれる

PMF(プロダクト・マーケット・フィット)とは?

組織を盛り上げるために、熱意あふれる社員を一斉に採用した。しかし、一定の期間が経過すると、その多くが会社を去ってしまった……。このような状況に、多くの企業が直面していることでしょう。

せっかく入社した社員がすぐに辞めてしまう。社員がなかなか戦力になってくれない……。このように「新入社員や中途社員」と「企業」がフィットしない場合に活用すべきなのが、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)という考え方です。

BtoBマーケティング支援などを手がける、株式会社才流の代表取締役である栗原康太氏によると、PMFは「顧客を満足させる商品を正しい市場に提供していること」という意味。(引用元:栗原康太(2022), 『新規事業を成功させる PMF(プロダクトマーケットフィット)の教科書 良い市場を見つけ、ニーズを満たす製品・サービスで勝ち続ける』,  翔泳社.)

どういうことか詳しくご説明しましょう。まずはこちらの、PMFの概念を図で表したものをご覧ください。

PMFの概念を図で表したもの

(同上の資料を参照しながら編集部が作成した)

商品(プロダクト)と市場(マーケット)が一部重なり合っていますね。これがPMFの状態です。

それでは、この概念図における、商品を「企業(あるいは組織)」、市場を「新入社員・中途社員」としてみましょう。

商品を「企業」市場を「新入社員中途社員」に置き換えたもの

(編集部が作成した)

当然ながら、新入社員や中途社員は採用試験をクリアしてきた人たちなので、ある程度は企業にフィットしている状態で入社してくることでしょう。しかしながら、このフィット感は安定しないもの。

下図のように、「新入社員・中途社員」を早めに組織に適合させることが、社員の戦力化や早期離職防止には欠かせません。

企業と新入社員・中途社員がフィットしている図

(編集部が作成した)

社員に長く働いてもらうには、この図のように、企業により強くフィットした状態もっていくことが理想です。

新入社員を教育している様子

PMFを実現している状態とは?

前述のように、社員が早期に離職したり、なかなか組織に馴染んでいなかったりする場合には、PMFを実現することが重要です。では、「新入社員・中途社員」と「会社」における、「PMFを実現している状態」とはどういった状態なのでしょうか。

前出の栗原氏は、著書のなかで、「PMFを実現している状態」を下記のように説明しています。

PMFがある商品は、商品が顧客に引っ張られるように売れていき、顧客が商品を使い続けてくれたり、口コミをして他の顧客を連れてきてくれたりします。

(引用元:同上)

つまり、“顧客を満足させる商品” をつくり、“正しい市場” に投入すれば、商品は自然と売れ、口コミが広がり、さらに売れ行きが加速する——ということですね。

これを「新入社員・中途社員」に置き換えると、組織にフィットすればするほど、社員がすぐに活躍し、チームメンバーとの親和性が増し、組織として一段と強くなると言い換えることができるでしょう。

チームワークのいい職場

PMFで大事な考え方とは?

では、PMFを実現するために企業の担当者がやるべきことはなんでしょうか。ここで重要となってくるのが、“視点” を変えることです。

株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEOとしてスタートアップ支援を行なう田所雅之氏は、著書のなかで、PMFについてこう述べています。

PMF達成のための要諦となるのが、徹頭徹尾「顧客起点」で考えることだ。

(引用元:田所雅之(2024), 『「起業参謀」の戦略書 スタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』, ダイヤモンド社.)

自ら作成した事業アイデアについて、徹底的に「顧客」を起点に考え、ブラッシュアップしていくことが大切だということです。

これを「社員を組織に定着させる」という文脈に当てはめると、新入社員や中途社員を組織によりフィットさせるには、彼ら彼女らを徹底的に「顧客」として見ていくことが重要だと言えます。“社員を顧客として見る” という“新たな視点” をもつわけです。

新入社員がチームに参加しているイメージ

PMFの失敗例から考える「社員を企業にフィットさせる方法」

そんな「顧客」についてより詳しく知るために、ここで、ご自身が新入社員や中途社員として入社したときの気持ちを思い出してみましょう。

  • ちゃんと仕事を覚えられるだろうか
  • 上司やチームメンバーとうまくやっていけるだろうか
  • 前職のスキルをこの会社でも活かせるだろうか
  • 現在のスキルをベースに、よりチャレンジングな仕事に取り組めるだろうか

——総じて「この会社・組織に入って(=この商品を買って)、本当に大丈夫だろうか?」という不安があったのではないでしょうか?  会社へのフィット感を増していくには、この不安を解消していく必要があるのです。

ただし、うまくやらなければPMFが失敗してしまうおそれも。栗原氏によると、PMFの失敗例には以下のようなものがあるそうです。

  • 「顧客ニーズを検証せずに商品をリリースしてしまう」
  • 「PMF達成に必要ないことに時間を使ってしまう」
  • 「「やってみないとわからない」と、思考停止で進めてしまう」

(カギカッコ内引用元:SAIRU|新規事業がPMFできない12の理由~失敗から学ぶ、PMFに必要な行動~

これをもとに、新入社員のPMFはどういうときに失敗してしまうのか、3つのケースで考えていきましょう。各ケースにおける改善策もお伝えします。

組織に馴染むことができなかった社員

PMFのよくある失敗例1:顧客ニーズを検証しないまま社員を受け入れしてしまう

1つめが、「顧客ニーズ」つまり「新入社員が会社に求めているもの」を把握できていないという失敗例です。

これに関しては、定量的な調査やデータを参考にするとよいでしょう。パーソル総合研究所が実施した調査によると、20代の社員が「仕事を選ぶ上で重視すること」のなかで特に上昇傾向にあるのは、下記の項目だったそうです。

  • 「色々な知識やスキルが得られる事」
  • 「資格や免許の取得に繋がること」
  • 「入社後の研修や教育が充実していること」

(カギカッコ内引用元:パーソル総合研究所|20代若手社員の成長意識の変化 -在宅勤務下の育成強化も急がれる

新入社員のニーズをないがしろにしてしまっては、彼らが企業・組織へフィットすることは難しくなります。早期離職の原因にもなるでしょう。「現在の若手社員が会社に何を求めているのか」を調査やデータから把握し、若手社員への定期的なヒアリングを実施して、研修・教育体制の見直しを行なうことが大切です。

若手世代の早期退職を防ぐ方法については、ぜひこちらの記事もお読みください。
>>Z世代の社員を早期離職させないための3つの対策。大切なのは「○○の量」を増やすこと

PMFのよくある失敗例2:必要のないことに時間を使ってしまう

2つめは、新入社員たちに “必要のないこと” に時間を割かせてしまうという失敗例。

PMFでは、「試行錯誤する回数」が重要だといわれています。にもかかわらず、“必要のないこと” に時間を費やしてしまうと、試行錯誤の回数を重ねられないので、新入社員や中途社員の組織へのフィットが遅れてしまうのです。

必要のないこととしては、下記が挙げられるでしょう。

  • 必要のないMTGへ出席させる
  • 無理なスケジュールを設定する
  • 過度のプレッシャーをかける

PMFのよくある失敗例3:育成に時間をかけすぎてしまう/とりあえず現場へ出してしまう

3つめは、新入社員の育成期間を長くしすぎるという失敗例です。

大切な命を預かる仕事や取り返しのつかない職種を除いて、あまりに長い研修期間は社員のモチベーションを下げてしまいます。

いくら研修体制が充実していても、社員が研修で学んだことを業務のなかで発揮しないかぎりは、スキルとして定着しないもの。研修期間は適切か、過不足がないかチェックして、研修と実務のバランスを整えましょう。

反対に、研修予算が潤沢にないとなどの理由から、研修が不足した状態で「とりあえずやってみて」と現場に出してしまうことも避けるべきです。「現場でやってみないとわからないこともあるから」と、新入社員をすぐ現場で働かせる方針をもつチームもあるかもしれません。

ですがこれでは、急に現場に出された社員は戸惑って当然です。

予算や時間がない場合は、OJTを手厚く行なうだけでも、社員はスムーズに組織や仕事内容にフィットすることができます。たとえば営業パーソンであれば、「事前に会社情報を調べて、ターゲットとなりえる企業を仮説を立ててから行く」……など、予算や時間がなくても工夫できることはたくさんあるでしょう。

育成期間は、長すぎず短すぎず、適切な期間を見極めて実施することが大切です。

***
この記事では、新規事業開発の文脈で使われる PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の概念をもとに、「新入社員はどうすれば早期に組織にフィットできるか」について見ていきました。

入社したばかりの社員が、すぐに組織にフィットするのは難しいもの。社員を「顧客」と見立て、新たな視点で社員の受け入れ体制を見直してみてはいかがでしょうか。

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