心のエンジンをフル回転させ、意気揚々と仕事や勉強に精を出していたら、「そんなに無理しないほうがいいよ」「頑張りすぎないで、よい加減でね」と周囲に言われ、気持ちがなえてきた。 頑張ることは、そんなによくないことなのだろうか……。
いえいえ、そんなことはありません。“頑張りたい” あなたは、頑張るほどいいことがあるはず。今回は、“頑張る” の新たな意味を紹介します。
「頑張る」の考察
まずは「頑張る」の変容をたどってみましょう。
1.「頑張る」が盛り上がった時代
昭和の日本は、「がむしゃらに頑張ること」が敗戦から立ち直る術でした。それから1950年代後半に突入した高度成長期で、ますます「頑張って働けばうまくいく」といった、頑張り精神が浸透したのです。
(参考:日本経済新聞|予想超えた高度成長 つくれば売れる好循環(戦後70年)/松下政経塾|日本人の心~“がんばり”精神についての考察(塾生レポート))
2.やがて「頑張る」はNGワードに
しかし、それから長く時が過ぎ、すでに頑張って疲弊している人に対し「頑張れ」というのは酷だ、という考えが広がっていきました。 日本メンタルアップ支援機構 代表理事の大野萌子氏によれば、「2000年以降に職場でも心の病が労災認定されるようになったことが、発端と考えられる」そうです。
(参考:東洋経済オンライン|「頑張れ」はいつからNGワードになったのか | 自衛隊員も学ぶ!メンタルチューニング)
3.「頑張る」が嫌われた原因は誤用?
こうして「頑張る」は、多くの場で避けられるようになりました。
楽しむだけで頑張らないアスリートはほとんどいませんが、「頑張ります」ではなく「楽しんできます」 と言うアスリートを目にすることも多いのではないでしょうか。
しかし、じつは「頑張る」がここまで嫌われたのは、“頑張ること” そのものが原因ではなく、間違った使われ方をしてきたことが原因です。「頑張る」にまつわるシチュエーションを、安田女子大学准教授の川岸克己氏が示したデカルト座標系をもとに見てみましょう。
- 困難や忍耐がともなう従来の「頑張る」は、<活発で不快>の第4象限(Ⅳ)に位置することになります。「ものすごく難しいし、つらいけど、歯を食いしばって頑張る!」といった具合です。
- 第3象限(Ⅲ)は<不活発で不快>なので「頑張れない」。肉体的にも精神的にも、頑張ることが難しい状況です。
- <不活発で快>の第2象限(Ⅱ)は、しんどいことは避けたいから「頑張らない」状況。行動しなければ楽=快適というわけです。
- 最後の第1象限(Ⅰ)は<活発で快>なので、最も理想的な状況です。川岸氏はこの位置に「頑張“れ”る」という言葉を当てはめました。たとえば、「ピアノが大好きだから練習が苦にならない(練習を頑張れる)」「絶対に優勝したいので頑張りたい(どんどん意欲が湧くので頑張れる)」といった具合です。
(参考:川岸克己(2011),「『頑張る』における構造と変化」, 安田女子大学紀要, No.39, pp. 11-19./(参考:川岸克己(2015),「「がんばる」における新旧の意味要素」,安田女子大学紀要, No.44,pp.1-9.)
つまり、問題なのは<不活発で不快>な状況の「頑張れない」人にまで、従来の忍耐系「頑張る」を強要してしまうことや、「嫌な仕事も楽しめるよう頑張らなきゃだめだぞ」などと、従来の<活発で不快>な「頑張る」を、<活発で快>であるかのように扱うことです。
逆を言えば、当人と周囲の「頑張る」にギャップがなければ問題がないことになります。頑張りたい(頑張れる)人に、「頑張れ」と声がけすれば、喜々として「ありがとう!」と返すのではないでしょうか。
加えて言えば、自ら意欲的に頑張れるなら、何かしら結果を出せるはず。目標達成に不可欠な、物事をやり抜く力も一緒に強まると考えられるからです。頑張ること自体は、決して悪ではないのです。
「頑張る」の新しい意味
それに、「頑張る」には新しい意味が加わっているそうですよ。
前出の川岸氏によると、『日本国語大辞典』『大辞林』『岩波国語辞典』には、主に “困難に屈せず忍耐強くやり通す” といった忍耐系「頑張る」の意味が記されていますが、『新明解国語辞典』には、“もてる力をフルに発揮して努力する”と、明らかに性質が違う記述が加わっているのだとか。
これについて川岸氏は、旧解釈(前者)が「辛抱」するプロセスによって目的を達成しようとしているのに対し、新解釈(後者)はもっと積極的な「挑戦」を感じさせる、と述べています。
(参考:川岸克己(2015),「「がんばる」における新旧の意味要素」,安田女子大学紀要, No.44,pp.1-9.)
「頑張る」の進化
川岸氏いわく、新しい意味(もてる力をフルに発揮して努力する)をもつ「頑張る」は、望ましくない<不快で活発>から、望ましい<快で活発>な状態へと変化した、とのこと。「頑張“れ”る」と助動詞を加えなくても、「頑張る」という言葉のまま意味を変化させているそうです。
したがって、“頑張る” の新たな意味は、「熱意をもって積極的に挑戦すること」です。
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“頑張る” の新たな意味について説明しました。熱い思いで頑張るみなさんは、周囲の言葉で気持ちをなえさせることはありませんよ……!
(参考)
川岸克己(2015),「「がんばる」における新旧の意味要素」,安田女子大学紀要, No.44,pp.1-9.
川岸克己(2011),「『頑張る』における構造と変化」, 安田女子大学紀要, No.39, pp. 11-19.
松下政経塾|日本人の心~“がんばり”精神についての考察(塾生レポート)
日本経済新聞|予想超えた高度成長 つくれば売れる好循環(戦後70年)
東洋経済オンライン|「頑張れ」はいつからNGワードになったのか | 自衛隊員も学ぶ!メンタルチューニング
STUDY HACKER|頑張って「バカを見る人」と「見ない人」の決定的違い。“4つのコツ” で正しい頑張りができるようになる。
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