HSP(Highly Sensitive Person)とは、中枢神経系の感度が高く、思考・経験・感覚を通して知識と理解を得るプロセス(認知処理)が非常に深い人を指す言葉です。アメリカの心理学者 エレイン・N・アーロン博士によって概念化されました。
HSPはとても繊細で敏感なので、何かと自分を否定的にとらえがちなのだとか。もしも思い当たるなら感情モニタリングノートがおすすめです。
なぜHSPは自己否定感が強いのか
アーロン博士によれば、下の枠内に書かれた内容すべてに当てはまる、あるいはひとつでも飛び抜けて当てはまると、HSPの可能性が高いそうです。
- 物事を深く丁寧に考える
- 過剰に刺激を受けやすいので、大きな音、強いにおい、集団、予定外のことなどに弱い
- 非常に共感力が高いため、表情やしぐさから他人の感情を読み取ることができ、落ち込む人が近くにいれば自分も落ち込む
- 小さな音、かすかなにおいや味、軽い痛みなど些細な刺激を察知する
精神科医の長沼睦雄氏によれば、HSPは些細なことを気にしてクヨクヨししてしまう自分、不安や緊張で本来の力を発揮できない自分に悩み、否定的に考えがちなのだとか。
また、精神保健指定医で新宿ストレスクリニック 名古屋院院長の本将昂氏によると、繊細すぎる人は子どもの頃に「変わっている」と言われたり扱われたりした経験があり、自尊心が低いまま大人になってしまう可能性があるとのこと。
(自尊心については「自尊心とは? 自尊心が低い人の特徴&原因が明らかに!」をお読みください)
そんな繊細すぎる人の自尊心を底上げするには、他人から評価されることで自分を認める自己有用感ではなく、ありのままの自分を認める自己肯定感を高めることだと本氏は言います。
HSPが自己肯定感を高めるには?
では、どうしたらHSPは自己肯定感を高められるのでしょう? じつは、そのヒントとなる研究(※)があります。
昭和女子大学教授の田中奈緒子氏らが大学生・大学院生206名を調査したところ、「自分は他人や状況を敏感に察知することができる」と感じている人は、自分の感情の動きを把握していない(情緒把握が低い)と自己嫌悪感が高まり、自分の感情の動きを把握している(情緒把握が高い)と自己嫌悪感が低くなることが示されたそうです。
研究者らは、「自己を理解し受け止めることや、感情を把握することで感情のコントロールが可能となり、否定的意識の低減につながるのではないか」と考えています。
上記の研究で示す敏感な人の特徴は、HSPの特性に合致しています。ならばHSPさんも感情の動きを把握することで、否定的な意識が減り、そのぶん自己肯定感を高めていけるのではないでしょうか。
感情モニタリングノートをやってみた
臨床場面では「日常における感情の測定・記録=モニタリング」を、医療関係者が患者の生活について情報を得たり、患者自身が自分の状態を客観的にとらえたりするために役立てているそうです。
ワークショップの教育研究を手がけるGDWS(Global Design Workshop/東京大学)が行なった調査では、感情モニタリングにより自分の気分の変化を客観的に理解できること、混沌としていた感情が整理されることなどが示唆されたといいます。
それなら感情モニタリングは、否定的な意識の軽減に必要な情緒把握を可能にしてくれるはず。HSPと思われる筆者もさっそく実践してみることにしました。感情の流れをより客観的に把握したいので、以下4つの質問に答える形式にしてみます。
- 朝はどう感じた?
- 午前中はどう感じた?
- 午後はどう感じた?
- 夜はどう感じた?
書き出されたものが「自分の意識の外にあるもの(客体化)」として冷静に眺められるよう、質問に対する答えはできるだけ淡々と簡潔に書くように心がけました。そのため、フォーマットも非常にシンプルです。
「うーん」と考えなければ思いつかないときは、スペースを埋めることに執着せずあっさり「特になし」と書き込み、記録作業が負担にならないようにします。書くタイミングは可能なら感情が湧き上がったとき、基本的には書けるときに書きます。
また、記録するのは最も強く湧き上がった感情のみ。たとえば次のグラフのように感情の起伏が生じたとして、各時間帯の一番上にあるものを書き出します。
こうして数日間続けてみました。
感情モニタリングノートをやってみた感想
感じたままに書く感情ノートは書いたことがありますが、感情の客体化を意識して書く感情モニタリングノートを書いたのは今回が初めてでした。その結果、とても冷静に「ほとんど似たような状況でネガティブな感情が生まれている」と気づけたのです。
筆者の場合、仕事や家事が思うように進まない、始められない、終えられないときに必ずと言っていいほど「不安」や「イライラ」が生じます。しかし、見通しがつけば意外と簡単に「安心感」が生まれます。
こうして感情を観察するうち、自分をネガティブにするのは「相手が落胆するかも」「評価が下がるかも」といった、すべてが人の気分・人からの評価を気にするもので、すべてが推測だとわかりました。これが自分の否定的な思考のクセであり、どれもとるに足らないものだったのです。
ネガティブ思考が今日明日どうなるというものでもありませんが、また今後、同じような状況で不安やイライラが生じたとき、それが他人の気持ちを優先したものであり、推測でしかないことを思い出すことはできます。
だからきっと、HSPさんは感情モニタリングノートをつけたほうが、自分の感情を統制しやすくなるはずなのです。
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自己否定感が強いHSPさんに「感情モニタリングノート」がいい理由は、ネガティブ感情を自分から切り離し「モノ化」して、コントロールしやすくなるからでした。ぜひお試しあれ!
(参考)
丸山華子, 田中奈緒子(2018),「セルフ・モニタリングと自己理解が否定的意識に及ぼす影響 -対人関係における違和感を抱いた状況に着目して-」, 昭和女子大学生活心理研究所紀要, 20号, pp.45-52.
FASHION BOX|「繊細すぎる人」が自分を愛せない理由は? 不器用さを精神科医が解説
STUDY HACKER|繊細なHSPは雑談がちょっと苦手。この “4つの方法” で会話がもっとラクになる
GCL GDWS(Global Design Workshop)|感情モニタリングが生活にどのように影響するか
NHKラジオ らじる★らじる|長沼睦雄さん HSPってなんだろう
長沼睦雄,(2017),『敏感すぎる心がスーッとラクになる本』, 扶桑社.
Wikipedia|Sensory processing sensitivity
Wikipedia|Cognition
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