怒りの感情と上手に付き合う! 欧米トップ経営者の常識「アンガーマネジメント」入門

「怒る」というのは、大きなエネルギーを消費する行動です。もちろん、怒ることで人間関係がこじれることを心配する人もいるはずですが、きっと多くの人が、なるべく怒ることなく日々を過ごしたいと考えているでしょう。

そこで、怒りをコントロールするメソッドとして知られる、「アンガーマネジメント」の第一人者・安藤俊介(あんどう・しゅんすけ)さんに、怒りとの付き合い方についてお話を聞きました。まずは、そもそもアンガーマネジメントとはどういうものなのかを教えてもらいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/石塚雅人

欧米では企業トップ層やトップアスリートも導入

アンガーマネジメントとは、怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングのことです。とはいえ、決して「まったく怒らなくなる」といったものではありません。怒る必要があることには怒り、怒る必要がないことには怒らない。その線引きができるようにするためのものだと考えてください。そうやって、周囲との良好な人間関係を成立し、ポジティブな考えを生み出し、自分のまわりの環境や自分自身をより良くしていく。それが、アンガーマネジメントです。

アンガーマネジメントが生まれたのは、1970年代のアメリカ。生みの親は存在せず、ロサンゼルス周辺で自然発生的に誕生したといわれています。当初は犯罪者の矯正プログラムの側面が強いものでしたが、時代の変遷とともに一般化されていき、企業研修や青少年教育、アスリートのメンタルトレーニングなどに幅広く転用されるようになっていきました

いまでは、英語圏の国々ではかなり広く浸透しています。特に発祥地のアメリカでは、企業の経営層などは身につけておかないといけないものだと認識されているほどです。もちろん、トップの限られた人間だけでなく、企業全体が研修に採用することも珍しくありません。

たとえば、米国郵政公社(USPS)では、約70万人の全職員がアンガーマネジメントを受講できる体制を構築しました。その結果、職員間でのコミュニケーションが円滑になったほか、誤配率、遅配率、欠勤率が大幅に下がるという成果を上げています。

また、テニスやゴルフなどメンタルスポーツと呼ばれるスポーツのアスリートにもアンガーマネジメントを導入しているケースが目立ちますね。たとえば、テニスならロジャー・フェデラー(スイス出身。20回のグランドスラム優勝を誇る史上最高のテニスプレーヤー)、ゴルフならキーガン・ブラッドリー(アメリカ出身。2011年に全米プロゴロフ選手権に初出場初優勝するなど通算12勝を誇るプロゴルファー)が例として挙げられます。

コンプレックスだった怒りっぽい性格が一変した

日本ではまだまだ浸透しているとまではいえませんが、それでも徐々に広まりつつあると感じています。僕が日本アンガーマネジメント協会を立ち上げたのは2011年のこと。その頃の日本では、アンガーマネジメントを知る人はほとんどいませんでした。それが、セミナーや企業研修をこつこつと積み重ねていき、メディアから声をかけてもらうことも増えていった結果、いまでは毎年20〜25万人もの人がアンガーマネジメントの講習を受講するようになっています

僕自身とアンガーマネジメントの出会いは、ある企業のニューヨーク駐在員をやっていた2003年にさかのぼります。当時、アンガーマネジメントという言葉を耳にしたことはありましたが、どういうものなのかは知りませんでした。そこで、アメリカ人の知り合いに誘われてアンガーマネジメントの講習を受けてみたのです。

じつは、当時の僕は自分の怒りっぽい性格にコンプレックスを持っていました。いまでは考えられませんけどね(笑)。そして、はじめて講習を受けたときにこう思ったのです。「あ、これなら僕にもできる」と。

「怒りの感情と上手に付き合う」というと、精神論や心の持ち方というようなものを想像するでしょう。でも、そうではありません。アンガーマネジメントは、「こうすれば怒りと上手に付き合える」「こうすれば上手に怒れる」といった単純な技術論なのです。だからこそ、「僕にもできる」「自分を変えられる」というイメージを持つことができたのでした。

「温度計」を思い浮かべて自分の怒りを客観視する

それでは、入門編としてそのメソッドの一部を紹介しましょう。まず前提として理解しておいてほしいのが「感情と理性の関係」です。感情は脳の大脳辺縁系という部分で生まれます。その感情に、大脳新皮質の前頭葉という部分が司る理性が介入する。だから、人間は理性的に行動できるわけです。

でも、感情が生まれてから理性が介入するまでには数秒の時間がかかります日本アンガーマネジメント協会ではその時間を6秒と考えています。この時間には明確なエビデンスがあるものではありませんが、当協会の研究によって導き出された数字です。では、もし、その6秒以内に感情に反応して行動してしまったとしたら? その行動は理性ではなく感情に乗っ取られたものだということ。その感情が怒りであれば、文字通り感情的に怒りを爆発させることになるわけです。

となると、6秒待つことができれば、怒りなどの感情も消えるのではないかと考えた人もいるかもしれませんね。でも、残念ながらそうではありません。6秒待てば、その感情を持ちながらも理性的に行動できるようになるというだけのことです。

ただ、その6秒間にできることもあります。イラッとした瞬間に頭のなかに温度計を思い浮かべてみてください。そして、その怒りの度合いに自分で温度をつけるのです。「これは80度くらいでかなり熱いけど、沸騰して怒りが爆発するほどじゃないな」といった要領です。

感情の度合いは他人と比較できるものではありません。だからこそ、自分自身で温度をつける。その作業を繰り返すうち、自分がどの程度の怒りを感じているのかがわかるようになり、本当に怒るべき場面以外では怒りの感情を鎮めることができるようになるのです。

しかも、温度をつけるという作業には時間も必要です。そうすると、いつの間にか6秒が過ぎて理性的に行動できるようにもなるというわけです。

【安藤俊介さん ほかのインタビュー記事はこちら】 いつも怒っている “あの人” とうまく関わる心理テク。気分屋上司も「パターン」がわかれば怖くない。 「怒ってばかりの人」は損だらけ。でも「怒れない人」も絶対に損をしている。

『「怒り」を上手にコントロールする技術 アンガーマネジメント実践講座』

安藤俊介 著

PHP研究所(2018)

【プロフィール】 安藤俊介(あんどう・しゅんすけ) 1971年12月21生まれ、群馬県出身。アンガーマネジメントコンサルタント。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング・アンガーマネジメントの日本における第一人者。某企業のニューヨーク駐在員時代に出会ったアンガーマネジメントを日本で広めることを決意。2011年、日本アンガーマネジメント協会を設立し、代表理事に就任。ニューヨークに本部を置くナショナルアンガーマネジメント協会では、1500人以上在籍するアンガーマネジメントファシリテーターのなかでわずか15人しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルにアメリカ人以外でただひとり登録されている。『「怒り」が消える心のトレーニング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『マンガでわかる怒らない子育て』(永岡書店)など著書多数。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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