「プロジェクトメンバーの数が多すぎて、皆が納得できる決定ができない」
「上司から『最後は君が判断していいよ』と言われたが、なかなか決断できない」
仕事で何かを判断・決定しなければならないとき、あなたがもしも「決まらない」ことで悩んでしまうことが多いなら、今回お伝えする3つの方法を用いればきっとスムーズな意思決定ができるようになるはずです。詳しくご紹介しましょう。
「なかなか決められない」のはなぜか
私たちがスムーズに意思決定できないのは、いったいどうしてなのでしょうか。アタックス・セールス・アソシエイツ代表取締役社長で営業コンサルタントの横山信弘氏は次のように述べています。
決断力のない人は、何を決断するかで頭を悩ませているのではなく、いまこの瞬間に何かを決めなければならないという決断ができないのだ。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|【第2回】意思決定できない組織は、なぜ、3つの「直感の罠」にハマってしまうのか?)
横山氏いわく、なかなか決められないのは現状を維持したいという心理欲求(現状維持バイアス)のせいなのだとか。「いま決めなくてもいい」「もっとじっくり考えて後で決めたほうが、良い手が打てるはずだ」などと考えてしまうため、いつまでたっても決断ができないのです。
そして、こうした人の脳では「思考系」の機能より「感情系」の機能が優位になってしまっていると言います。「思考系」とは、持っている情報を組み合わせて合理的に判断する機能。「感情系」とは、疲れたら休みたくなるなど、人間の原始的な欲求に関する機能のことです。つまり、正しい決断をするには、「今はまだ変わりたくない」という感情系を制御し、思考系をうまく働かせて合理的に考える必要があるのです。
スムーズな意思決定の方法1:「ファーストチェス理論」でリーダーが決める
では、現状を見極めて適切な意思決定をするには、具体的にどうすればいいのでしょうか。分かりやすい基準があれば、「今はまだ決めたくない」という気持ちを抑えてより合理的に考えやすくなるはずですよね。そのためにここからは、なかなか決められない皆さんに3つの方法をご紹介します。
1つ目は「誰かリーダーとなる人が決断を担う」というものです。これは特に、複数人で話し合っていてなかなか意見がまとまらないときに有効な手段になります。
ここで、次のような状況を考えてみてください。文房具を開発・製造する企業で、新たな付箋商品を開発することになったとします。その付箋のデザインを検討する打ち合わせで、パッケージに関して複数の意見が対立してしまいました。しかしどの意見も理に適ったものに思われ、メンバー間で合意に至れるような決定打が見つかりません。
このような場合は、「リーダーに決断を託す」ということにしてしまいましょう。皆で必要な情報を集め、メンバー同士で議論をしたうえで、最後の意思決定の部分のみをリーダー1人が担うのです。
たとえば、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏は、トップダウンで意思決定を行なうことで知られていますよね。そのすばやい意思決定を支えるのが「ファーストチェス理論」です。ファーストチェス理論とは、「5秒で考えた手」と「30分かけて考えた手」では、実際86%が同じ手になるため、できる限り5秒以内に手を打つほうが良いという考え方。「時間をかけてもかけなくても一緒だ」と思えば、すばやい意思決定ができるというわけなのです。
皆で話し合っていても結論が見えてこない。そんなときは、決断する人を1人決めて、その人が5秒で意思決定をしてしまいましょう。荒業なように見えて、意外と効果的かもしれませんよ。
スムーズな意思決定の方法2:「橋渡し的」な人を探す
1人で決めたほうがいいとは言っても、もともとリーダーシップがある人でもない限り、決断を託されたほうは困ってしまうことでしょう。どうしても最後はその人の裁量に頼ることになってしまうからです。
そのような場合は、複数人の意見をうまくまとめあげる助けとして「橋渡し役となる人」を探してみましょう。
アメリカのジャーナリストであるジェームズ・スロウィッキー氏は、著書『「みんなの意見」は案外正しい』のなかで、複数人での意思決定が優れたものとなるためには以下の4点がそろわなければならないと述べています。
・意見の多様性(各人が独自の私的情報を多少なりとも持っている)
・独立性(他者の意見に左右されない)
・分散性(それぞれが得意な分野、身近な分野に特化し、判断する)
・集約性(個々の意見をひとつに集約する仕組みの存在)
(引用元:株式会社日立総合計画研究所|『みんなの意見』は案外正しい)
注意したいのは、このうち1つの要素でもあれば絶対うまくいくというわけではないということ。たとえば、皆が意見を好き放題述べたところで、それをひとつにまとめる人がいなければ結論は出せませんよね。これは「多様性」はあるけれど「集約性」がないという状況です。
そこで、意見の多様性をうまく集約するために、メンバー間の橋渡し役となる人を探しましょう。フランスをはじめ世界3か所にキャンパスを持つビジネススクールINSEADの助教授であるスジン・ジャン氏によれば、多様性があるなかで橋渡し役となる人がいない場合、それぞれの人の思い込みによる行き違いによって創造性を低下させることがあるのだそう。
先ほどの付箋パッケージ開発の場面で考えてみると、たとえばファンシー系のパッケージを考えるのが得意な人と、面白系のパッケージを考えるのが得意な人が同じチームにいる際、互いに自分の得意分野の意見を提案するだけでは、うまく案がまとまらないでしょう。そんなときは、両方の分野に通じている人や、それぞれの意見を喧嘩にならないよううまく聞き出せる人が間に入ると、ちょうど良い落としどころを見つけられる可能性がより高くなるのです。
皆の意見をまとめることが難しいと感じたときには、プロジェクト外の先輩や別の部署の人に、第三者として意見を求めてみてもいいかもしれませんね。
スムーズな意思決定の方法3:「総合評価法」で判断する
1人が代表して意思決定するにせよ複数人で合意を形成するにせよ、「決断にあたり何を重要視するのか」が明確になっていなければ、適切な決断はできませんよね。
そこで最後にご紹介するのが、「総合評価法」という判断方法です。これは、複数の選択肢から得点制で最適な選択肢を選ぶ方法。人材育成コンサルタントの清水久三子氏によれば、総合評価法は、意思決定の際の評価軸と優先順位を決めて最良の決断に至るのにとても有効な方法なのだそうです。
引き続き、付箋パッケージ開発の例で考えてみましょう。パッケージの素材をどのようなものにするか決める際、総合評価法を用いると以下のようになります。
まず評価項目を洗い出し、次にそれぞれの評価項目の重要度について得点の重み付けをします。そうしたら、各欄に得点を入れていきます。100点満点でも5段階評価でも何でもかまいませんが、今回は10点満点で評価し計算をしてみました。
この表を見ると、評価項目が上部に3つ設定され、そのうち「商品コンセプトに沿っているか」の重み付けが「3倍」で、最優先項目となっています。そして点数を入れていった結果、付箋のパッケージは「ビン」に決定すべきだということがわかりました。
表で示すと意思決定に必要な根拠がはっきりします。そのため、合計得点が高いものを選択すれば、誰もが納得できる意思決定がすばやくできるに違いありません。
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皆さんも、意思決定に悩んだ際にはぜひお伝えしたことを思い出してみてください。必要に応じてうまく使い分ければ、優れた決断ができるようになりますよ。
(参考)
ダイヤモンド・オンライン|【第2回】意思決定できない組織は、なぜ、3つの「直感の罠」にハマってしまうのか?
東洋経済オンライン|「決断疲れ」を起こす人は「判断軸」を知らない
東洋経済オンライン|話し合って決めるチームがほぼ失敗する理由
株式会社日立総合計画研究所|『みんなの意見』は案外正しい
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|チームの多様性を創造性につなげるためには、メンバー間の「仲介役」が不可欠である
PsycNET|Does group participation when using brainstorming facilitate or inhibit creative thinking.
【ライタープロフィール】
三島春香
神戸大学経営学部所属。京都市立西京高等学校卒業。海、宇宙、音楽、レモンが好き。旅行も大好き。大学生のうちにいろいろな所へ出かけて見聞を広めたい。