脳は “この2つ” を嫌う。せっかくの努力が逆効果になる「残念な行動」

自己保存の本能01

「仕事で努力しているつもりなのに、成果がなかなか出てこない」
「ほかの人より頑張っているはずなのに、うまくいかない理由がわからない」
努力の方向性について、こういった悩みを抱えてしまうことは少なくありませんよね。その原因は、いったい何なのでしょう。

もしかすると、人間なら誰しも持っている「自己保存の本能」に関係があるかもしれません。行動が「自己保存の本能」に逆らっていると、努力は逆効果になってしまう可能性があるからです。そこで今回は、「自己保存の本能」が私たちに与える影響と、それとの付き合い方についてお伝えします。

人間には「自己保存の本能」がある

「自己保存の本能」とはどのようなものか。脳医学者の林成之氏は、次のように述べています。

人間には「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」という本能があります。これは細胞由来、つまり生まれつき誰もが持っている本能です。さらに、生まれた後に成長するに従って自己保存、「自分を守る」という組織由来の本能ができてきます。そして、こうした本能の後ろには必ず「心」というものがくっついているわけです。つまり、脳機能というのは本能、心と三位一体になっているのです。

(引用元:株式会社日立ソリューションズ|第1回 「同期発火」が組織を強くする。

人間には、根本的な生存本能のほか、「生きていくために自分を守らないといけない」という「自己保存の本能」が、生存本能を支える二次的な本能として備わったのだそう。たとえば、「仲間になりたい」という生存本能に「自己保存の本能」が加わった場合、「仲間から外れないように、仲間と同じ行動を取る」ようになります。

林氏によれば、自己保存の本能は生きていくために非常に重要な一方で、脳のクセとして過剰に働きやすく、注意が必要なのだそう。自己保存の本能が脳へ過剰に働きかけると、たとえば以下のように、自分の行動に悪影響を及ぼす場合があるからです。

  • 自分と異なる意見の人に強く反発してしまう
  • 自分の立場が危ぶまれると、都合の悪いことを隠蔽してしまう

とはいえ、林氏は「本能はないがしろにすべきではない」とも伝えています。会社などの組織で仲間と目的を共有し結果を出せるのも、自己保存の本能によるものだからです。したがって、目標を達成するためには「自己保存の本能」とうまく付き合っていく必要があると言えるでしょう。

自己保存の本能02

その行動、”自己保存の本能” に逆らっていない?

では、「自己保存の本能」に逆らっていると言える、無意識にやってしまいがちな2つのケースについてそれぞれご紹介します。

【ケース1】自分の頑張りを否定する

客観的に見ると十分努力しているはずなのに、「もっと頑張らないと意味がない……」「今の量だと頑張っているとは言えない……」と思ってしまうことはありませんか?

向上心を持つのはもちろん大切です。しかし、精神科医であり作家の樺沢紫苑氏は、自己否定感が強いと、ありのままの自分を認めてあげることができず、ネガティブな感情がループしてしまうと指摘しています。

「頑張っている自分」「自分が達成したこと」を否定し続けていると、自分を守るために自己保存の本能が働き、脳が逃げ道を確保しようとして、頑張っていることをむしろ諦める方向へシフトしてしまうのです。

【ケース2】他人と比べて自分を卑下する

他人と自分を比べることは、誰もがやってしまった経験のあることでしょう。しかし、「あの人のほうが私なんかより努力している」というように、自分を卑下してしまう行為は、「自己保存の本能」に逆らっています。

他人と比べて「私なんてダメだ」と卑下したり、劣等感を感じたりしてしまうと、
ケース1と同様、自己保存の本能が過剰に反応し、脳が逃げ道を作ろうとしてしまいます。

「アドラー臨床心理学」について研究する臨床心理士の深沢孝之氏らによれば、自分を卑下する行為あるいは劣等感によって「劣等コンプレックス」になったり、逆に独善的となりすべてを非難する「優越コンプレックス」になったりする場合もあるそう。

つまり、「私は努力してもダメなんだ」と自分を責め続けたり、「あの人は私よりも劣っているに違いない」という独りよがりな批判を抱いたりすることにつながってしまうのです。そのような人が適切な努力を続けて自分の目標を達成するのは、きっと難しいでしょう。

自己保存の本能03

「自己肯定」で過剰反応を抑える

では、「自己保存の本能」の過剰反応を抑えるには、いったいどのようにすればよいのでしょうか。

上で説明した2つのケースはいずれも、自分を守るという「自己保存の本能」の原則に逆らっていることが問題となっていました。自己保存の本能を保ちつつ、うまく努力していくために有効な解決策を、2つのケースそれぞれについてご紹介しましょう。

【ケース1の解決策】3行ポジティブ日記

「自分の頑張りを認めてあげることができない……」と悩んでしまう方は、自己肯定感を高めることが必要になります。それには、「3行ポジティブ日記」という方法が有効です。

「3行ポジティブ日記」とは、前出の樺沢氏がおすすめする方法で、寝る前の15分間、その日あった楽しかったことやポジティブな出来事を思い返して3つ書き出すというものです。

たとえば、そろそろ寝ようかと思ったときにノートを開き、

  1. 高校の友人と久しぶりに会って、楽しく思い出話ができた
  2. お気に入りのカフェで、資格取得のために1時間勉強を頑張れた
  3. YouTubeで音楽を聴いていたら、お気に入りのアーティストができた

といった具合に、その日あったポジティブな出来事を3つ書き出しましょう。どんなにささいなことでもかまいません。あとから見返せば、「こんなに自分は頑張っていたんだ」と気づくことができます。

樺沢氏によれば、日々の中で「自分ができていること(ポジティブ体験)」に注目することで、自己肯定感を高められるのだそう。また、「書く」作業によって、自分自身の内面を客観的に観察することができるため、自己洞察力向上の効果も期待できると言います。

教育心理学研究における論文「努力帰属的評価が児童のエフイカシー予期の認知と学業達成に及ぼす効果」(1993)においても、「努力承認条件が、対象への意欲とスキルを向上させる」と示されています。「自分は頑張れていた」と適切に評価している人は、目標達成のモチベーションを高く維持できることが実験で明らかになっているのです。

「3行ポジティブ日記」の締めには、翌日の目標や意気込みをつけ足したりして、自分の好みのスタイルに工夫するのもよいでしょう。筆者も実践してみたところ、ポジティブな出来事を思い返して気分が明るくなったり、次の日を迎えるモチベーションが高まったりしました。

自己保存の本能04

【ケース2の解決策】自分の勝てるものを1つ見つける

他人と比べて生きる競争社会をうまく切り抜ける方法について、精神科医の和田秀樹氏は、「他人と比べることで自信が持てない人は、自分が勝てるもの、勝てるジャンルを探せばいい」と言います。

たとえば、「私はほかの人よりも漢字に詳しい」「私はスイーツを上手につくれる」というように、自分の武器となる部分を1つだけ探してみましょう。どんなに小さなことでも問題ありません。そうすれば「自己愛」が満たされ、いざ他人と自分を比べてしまったとしても、自分を卑下することはなくなります

料理がうまい、カルタが強い、将棋が強い、一発芸がうまい、ダジャレを作るのがうまい、ファッションセンスがいい。何でもいいから、人に勝てるものがあり、それを(中略)認め、ほめてやることで、その子の自己愛は満たされる。

(引用元:東洋経済オンライン|「他人と比べない生き方」では幸せになれない

また心理学者アドラーは、「すべての人間は、他の人間と対等と感じたい欲望を持って生まれてきている」とし、その劣等感を埋めようとする力が人間のパワーになると言いました。「自分の勝てるもの」を何かしら1つ持っておくことで「自己保存の本能」をコントロールしつつ、自分の目標へ向かって適切な努力ができるはずです。

***
自分の行動やクセが人間の ”本能” に逆らっていたなんて、自分では思いもしないことだったかもしれません。当てはまっていると感じたら、「自己保存の本能」が関わっていると気づけただけでも大きな前進です。「本能」であることを理解したうえで、行動をポジティブに見直してみましょう!

(参考)
株式会社日立ソリューションズ|第1回 「同期発火」が組織を強くする。
プレジデントオンライン|何にも長続きしなかった原因はこれだ!
プレジデントオンライン|脳科学理論が解説 「集中力」が増す3つの仕掛け
STUDY HACKER|寝る前15分間でさくっと書ける「3行ポジティブ日記」が最高。ストレスも不安も減ってゆく
東洋経済オンライン|自己肯定感が低すぎてつらい人のための処方箋
玄 正煥(1993), 「努力帰属的評価が児童のエフイカシー予期の認知と学業達成に及ぼす効果」, 教育心理学研究, 41巻2号, pp.221-229.
STUDY HACKER|あなたが「勝負に弱い」致命的理由。勝つための “脳の使い方” していますか?
東洋経済オンライン|「他人と比べない生き方」では幸せになれない
澤登健一・岩渕千明(2017), 「劣等感が仮想的有能感に及ぼす影響に関する研究」, 日本心理学会第81回大会

【ライタープロフィール】
YOTA
大学では法律学を専攻。塾講師として、中学~大学受験の6科目以上の指導経験をもつ。成功者の勉強法、効率的な学び方、モチベーション維持への関心が強い。広い執筆・リサーチ経験で得た豊富な知識を生かし、効率を追求しながら法律家を目指して日々勉強中。

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