“哲学をビジネスに生かす”が今のトレンド。真の課題が見つかる究極の思考法「哲学シンキング」とは

吉田幸司さんインタビュー「哲学シンキングの基本」01

みなさんは「哲学」というものにどんなイメージを持っているでしょうか? 日常的にあまりなじみがないせいか、「ちょっと難しそう……」と思っている人も多いはず。それこそ、ビジネスとは縁遠いものというイメージを持っているのではありませんか?

でも、哲学をビジネスの場に生かすコンサルティング業務を行なっている吉田幸司(よしだ・こうじ)さんは、ビジネスの現場にこそ、哲学の考え方を生かすことが大切だと言います。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

日本のビジネスシーンにも広まりつつある哲学

いま、世界をリードしている海外の大企業では、ビジネスの現場に哲学の考え方が導入されていることを知っていますか? それらの企業では、主にビジョン構築や倫理規定の策定といったことに哲学が使われています。

たとえば、米Googleでは、専属の「In-House Philosopher(企業内哲学者)」が雇用されているほどです。Googleは、人工知能やロボットなどの先端技術が人類の未来を変える力を持っていると考えています。そういう先端技術を開発する際、倫理的な面から哲学の知見が必要だとしているのです。

そういったトレンドもあり、日本のビジネスシーンにも哲学を取り入れたいと考え、私は2017年に哲学をビジネスの場に生かすコンサルティング業務を行なう会社を立ち上げました。私たちが主催するワークショップや「哲学シンカー養成講座」に参加してくれるビジネスパーソンも増えてきて、海外とはまた違ったかたちで日本のビジネスの場にも哲学が取り入れられるようになってきたと感じています。

日本の場合、海外と比べると、哲学の生かし方がより実用的です。マーケティングリサーチやコンセプトメイキング、組織開発、社員研修などの実用的な場面で哲学が取り入れられ始めているのです。

では、いまの日本のビジネスシーンにおいてなぜ哲学が受け入れられ始めたのか? 私はふたつの要因があると思っています。ひとつは、「従来のメソッドに対する不満や無力感」。もうひとつは、「未来への施策に対する確信のなさ」です。

大企業なら、たとえばマーケティングリサーチに数千万円、数億円というお金をかけるケースもある。でも、そういった従来のメソッドを疑うことなく使っているだけでは、いまいち成果が出ないと多くの企業が痛感しています。しかも、いまは時代の変化のスピードがどんどん速くなっている状況ですよね。5年後、10年後に社会がどう変わっているのかは誰にもわかりません。そんななかで行なうべき施策に対して確信を持つことができない。そこで、「なにをどうすればいいのか?」はもちろんのこと、「なぜそれをするのか?」という根本的な問いを掘り下げることに、哲学の思考法が力を発揮するのです。

吉田幸司さんインタビュー「哲学シンキングの基本」02

答えを決めつけず、「問いからスタート」する

それでは、要点をかいつまむかたちにはなりますが、私が提唱する「哲学シンキング」の基本について解説します。つい先ほど、私は「問い」という言葉を使いました。「問いからスタートする」ことが哲学シンキングのもっとも重要な特徴です。

ひとつ、具体例を出しましょう。会社の上層部が、「若い社員が自発的に働いてくれない」という課題・テーマがあると感じているとします。上層部は、もっと自発的に働いてほしいと考え、若い社員に社員研修を受けさせるかもしれない。なぜかというと、「自発的に働くことがいいことだ」といった「答え」をすでに自分たちのなかに持ってしまっているからです。でも、その答えは本当に正しいのでしょうか?

哲学シンキングでは、答えを最初から決めたり求めたりするのではなく、問いからスタートします。この例なら、「自発的に働く必要はあるのか?」というところからスタートする。さらに、ひとつのテーマに対して、さまざまな視点からもっと多くの問いを挙げる。「自発的とはなにか?」「たくさんお金があっても働くのか?」「なにに働く意味を感じるのか?」といった具合です。

吉田幸司さんインタビュー「哲学シンキングの基本」03

議論を深めていくなかで見えてくる「新しい洞察・視点」

そうしてたくさんの問いが集まったら、今度はいくつかの視点で問いをグルーピングしていきます。たとえば「定義を問うもの」「理由を問うもの」「価値を問うもの」というふうに、似通った問いをグループにするわけです。たくさんの問いが出てくると、視野が広がる反面、頭のなかは混乱してしまうもの。問いを整理してグループにすることで、より深く考えやすくなります。

続いて、グルーピングした問いを生かしてさらなる議論を組み立てていきます。グルーピングした問いのうち、考えやすいものや自分がピンときたものから考えてみてください。ひとつの問いをじっくり考えてもいいですし、複数の問いについて考えることもあるでしょう。

このとき、問いに対する答えを自分なりに出したら終わりではありません。哲学シンキングでは、その答えに対しても、「なぜそう言えるのか?」「そもそも○○とは?」「もし○○だったら?」というふうに、さらなる問いを重ね、結論や推論、前提を疑い思考を深めていきます。これが、議論を組み立てるということなのです。

このようにして議論を組み立てていけば、見えてくるものがある。ある企業での実例で言えば、「若手の社員は、ほどほどに生活できれば十分だと思い、お金や出世は仕事の動機づけになっていない」「むしろ、短期間でのスキルアップや、ささやかな成長に働きがいを感じる」といったことが明らかになったケースがあります。それが、新しい洞察・視点です。

適切に「問い」を立て、問題の真因を突きとめれば、実行すべき課題も明確になります。問題が解決しない場合は、「答え」よりも、そもそも「課題設定」を見誤っていることが多いのです。真の課題を発見することができれば、問題の解決方法もおのずと見つかることでしょう。

吉田幸司さんインタビュー「哲学シンキングの基本」04

【吉田幸司さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「いい議論」をしたいなら「いい答え」を求めてはいけない。的外れなアイデアこそ歓迎すべきだ
相手の本音を引き出せない理由は“勝手な仮説”にあり。大事なのは「答えを決めつけない」こと

【プロフィール】
吉田幸司(よしだ・こうじ)
1982年9月14日生まれ、千葉県出身。博士(哲学)。上智大学哲学研究科博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員PD(東京大学)を経て、現在、哲学を事業内容としたクロス・フィロソフィーズ(株)代表取締役社長。哲学シンキング研究所センター長、上智大学客員研究員・非常勤講師、日本ホワイトヘッド・プロセス学会理事などを兼任。共著書に『Beyond Superlatives』(Cambridge Scholars Publishing)、『Whitehead and Existentialism』(晃洋書房)、『理想―特集:ホワイトヘッド』(理想社)、論文に「非分析哲学としてのホワイトヘッド『有機体の哲学』」(東京大学)、「ホワイトヘッドの思弁哲学の方法―クワインの自然主義と比較して」(東京大学)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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