ストレス対策はやっぱり「言語化」が最強だった。“自分のキモチ” を言葉にできますか?

感情のラベリング01

仕事や家庭内での些細なことで感情的に怒ってしまったり、上司や同僚から嫌なことを言われて気分が落ち込んだりすることは、誰もが日常的に経験していることでしょう。

ですが、仕事や勉強に毎日のように追われている現代のビジネスパーソン・学生にとって、感情の起伏はストレスの原因になります。ネガティブな感情を抱えていては、仕事や勉強に集中できなくなり、思うような成果をあげられなくなるでしょう。

今回は、感情の変化によるストレスを軽減するとされている「感情のラベリング」の効果および実践法をご紹介します。

ストレスを緩和してくれる「感情のラベリング」とは

感情のラベリングとは心理学の用語で、 今の自分自身が感じていることを言語化して表現することストレスを緩和したり、ストレスへの耐性を高めたりする効果があるとされています。

感情のラベリングの有効性を示した有名な実験に、カルフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者チームが実施したものがあります。「クモ恐怖症」を抱える被験者を対象に、感情のラベリングが実際に不安を緩和させ、心を鎮めるのかどうかを調べたものです。

感情のラベリングに関するその実験では、被験者たちに「疑似体験治療法」を実施しました。疑似体験治療法とは、恐怖症克服のために用いられる、不安対象(クモ)へ徐々に被験者を慣れされる方法です。今回の治療では、被験者にガラス容器越しにクモを見てもらうところから始め、徐々にクモと被験者との距離を縮めることでクモに対する恐怖心を克服させていきました(驚くべきことに、被験者はこの実験の4〜6週間後には大量のクモが這っている車でも運転できるようになったのだとか)。

実験における擬似体験治療中、被験者のグループを以下の3つに分け、感情のラベリングに効果があるのか観測しました。

グループ1:楽観的思考(クモが無害であることを伝えられたグループ)
グループ2:経験の回避(クモへの関心をそらすための質問をされたグループ)
グループ3:感情のラベリング(今感じている気持ちを言語化したグループ)

グループ3の被験者らは、「クモの身体の毛が気味悪い」「噛みつかれたりするのではないかと怖い」などと、不安に感じたことを具体的に言語化しました。疑似体験治療に感情のラベリングを追加したのです。そして感情のラベリングを行った結果、不安が鎮まってストレスが軽減する効果があったのだそう。一方、グループ1や2の被験者は、不安感が悪化する結果となりました。

感情のラベリングに関するこの実験により、不安対象を認識して自身が感じている感情を素直に言語化する方が、不安対象を無理に避けるよりも、ストレス軽減の効果があることが明らかになったのです。

感情のラベリング02

「感情の言語化」が脳にもたらす影響

どうして負の感情を言語化すると恐怖や不安を和らげることができるのでしょうか?

先ほどの実験を行なった研究チームによると、感じていることを具体的に言語化することによって、人間の恐怖心や攻撃性を司る脳の部位である「扁桃体」の活性を抑えられるのだそう。

また、『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』の著者である心理学者のロバート・ビスワス=ディーナー氏も同様の見解を示しています。同氏は実験で、初対面の被験者同士が相互に拒絶し合うドッジボールのようなゲームを行ないました。実験の結果、ゲーム中に自身(被験者)が感じた感情を表現・識別できる人は、扁桃体の活性を抑えることができていたのだとか。

以上の実験結果から、 仕事や日常生活で、「嫌だな」「ムカつくな」と感じる出来事・物・人物・言葉などがあったら、なんとなくストレスを感じて苦しむより、不快な感情を頭の中や口で言語化したほうが良いのだということが分かります。ネガティブな感情を言葉にすると、 気持ちが落ち着き、恐怖やイラつきを抑えることができるのです。

感情のラベリング03

「感情のラベリング」の方法

感情のラベリングの効果については理解いただけたと思いますが、いきなり自身の気持ちを言語化するのは難しいでしょう。そこで、簡単にできる感情のラベリングの方法を3つのステップでご紹介します。

【ステップ1】あらかじめ選択肢を用意しておく

信州大学の『信州心理臨床紀要』に掲載された論文によれば、自身で思いついた言葉でなく選択肢をもとにして感情のラベリングをしても、ストレス軽減の効果があることがわかっています。

『信州心理臨床紀要』の研究では、パソコン上に表示された画像を被験者に見せ、画像から得た感情を、画像の後で表示された4つの単語から選択させました。すると、感情を自分で一から言葉にしなくても、感情を選ぶだけでストレス軽減の効果があることが分かったのです。

「自分の気持ちの変化を言葉にするのは難しい」と感じている人は、感情のラベリングに関する実験を参考にして、「怖い」「ムカつく」「ダルい」などの感情に対して、あらかじめいくつかの単語を用意しておきましょう。

例えば「怖い」と感じた場合には、「寒気がする」「鳥肌が立つ」「萎縮する」「足がすくむ」などの中から今の感情に近いものを選ぶようにしてみてください。怖さによるストレスを楽に軽減できるはずです。

感情のラベリング04

【ステップ2】怒りを感じたら「6秒」待つ

負の感情の中でも特に「怒り」を感じた時には、カッとなり冷静さを失いやすいため、感情のラベリングは一層難しくなります

怒りをコントロールするメソッドとして知られる「アンガーマネジメント」の第一人者・安藤俊介氏によれば、人間の脳は、大脳辺縁系で生まれた感情に大脳新皮質の前頭葉が司る理性が介入することで、感情をコントロールして理性的な行動を促す仕組みになっているそう。

そして、感情が生まれてから理性が介入するまでの時間は「6秒」。理性が介入するまでの6秒を待つことができれば、怒りに任せて爆発することなく、理性的に行動することができると言います。

理性が働くまでの6秒間にすべきこととして安藤氏がアドバイスするのは、頭の中に温度計を浮かべること。イラっとした怒りの度合いに温度をつけると、「今のは80度くらいで熱いけど、沸騰するほどではないな」といった具合に気持ちを落ち着けることができます。

怒りの感情以外にも対応できるように、温度計と同じような要領で、感情が生まれた瞬間に脳内で感情メーターのようなものを思い浮かべてみてはどうでしょうか?

感情のラベリング05

【ステップ3】自分自身でも感情の言語化に挑戦

ステップ1で紹介した選択肢を用意するのが面倒な人や、自分で感情を言語化できそうな人、語彙力に自信のある人は、自分自身で感情を言語化することに挑戦してみてもいいでしょう。

先述のロバート・ビスワス=ディーナーが調査したところによれば、自分の感情を豊かな語彙を使って表現できる人は、自分の感情を明確に捉えられない人に比べ、言葉の暴力や腕力を振るうことが40%少ないとのこと。

表現豊かに自身の気持ちを言語化できる人ほど、感情的にならずにストレスを回避することができるというわけなのです。

***
感情のラベリングは、その場での感情の抑制だけではなくて、今後同じような状況になったときも衝動的な行動を起こさないための、ストレス体制の強化にもなります。感情に振り回されずに、冷静に自分の感情を見つめる習慣を身に付けていきましょう。

(参考)
Career Supli|「情動のラベリング」ネガティブな感情が成功を呼ぶ
Todd Kashdan, Robert Biswas-Diener (2014), The Upside of Your Dark Side: Why Being Your Whole Self--Not Just Your "Good" Self--Drives Success and Fulfillment, Avery, 高橋由紀子訳(2015),『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』,草思社.
北澤加純, 高橋知音(2017),「感情のラベリングの方法の違いが感情変化や認知的負荷に及ぼす影響の検討」, 信州心理臨床紀要, No.16, pp.39-49.
Study Hacker|怒りの感情と上手に付き合う! 欧米トップ経営者の常識「アンガーマネジメント」入門

【ライタープロフィール】
森下智彬
大学卒業後、国内外の農業に従事。帰国後はITインフラエンジニアとして都内の企業に勤める。仕事の傍ら、自身のブログを開設・運営を始める。現在は、自身のブログ運営とライターの業務をメインに行っている。

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