ビジネスシーンにおいて相手に要件がしっかり伝わるように話すには、言葉選びや話す内容も重要ですが、「話し方」も大切な要素となります。同時に、話し方ひとつで相手の信頼を勝ち取ることもできるでしょう。『話し方の戦略 「結果を出せる人」が身につけている一生ものの思考と技術』(プレジデント社)がベストセラーとなり、これまでに経営者や政治家、ビジネスパーソンなど5,000人以上に話し方トレーニングサービスを提供してきた株式会社カエカの代表取締役・千葉佳織さんは、そのポイントに「抑揚」を挙げます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
千葉佳織(ちば・かおり)
1994年8月26日生まれ、北海道出身。株式会社カエカ代表。スピーチライター。15歳から日本語のスピーチ競技である「弁論」を始め、2011年から2014年までに内閣総理大臣賞椎尾弁匡記念杯全国高等学校弁論大会など3度の優勝経験をもつ。慶應義塾大学卒業後、新卒でDeNAに入社。人事部にてスピーチライティング・トレーニング業務を立ち上げ、代表取締役のスピーチ執筆や登壇者の育成に携わる。2019年、株式会社カエカを設立。AIによる話し方の課題分析とトレーナーによる指導を組み合わせた話し方トレーニングサービス「kaeka」の運営を行なう。経営者や政治家、ビジネスパーソンを対象としてこれまで5,000人以上にトレーニングを提供している。2023年、週刊東洋経済「すごいベンチャー100」、Forbes「2024年注目の日本発スタートアップ100選」選出。著書に『話し方の戦略 「結果を出せる人」が身につけている一生ものの思考と技術』(プレジデント社)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
ネガティブな印象をもたれるのは、話し方に抑揚がないから
聞き手に伝わりにくい話し方にはいくつかのパターンがありますが、そのひとつが、「覇気がない話し方」です。
もう少し具体的に言うと、声の大きさや高さ、話すスピードが一定だったり、間(ま)がなくて、「えー」「あのー」といった言葉が多発されたりして、話がとても長いのです。その結果、淡々と長く話し続けているように思われ、「話がわかりくい」「やる気が感じられない」といったネガティブな印象を聞き手にもたれてしまいます。
対して「わかりやすい」「堂々としていて信頼できそうだ」といったポジティブな印象をもたれるには、いまお伝えしたことの逆を意識しましょう。声の大きさや高さ、話すスピードに変化をつけ、適切に間を置きながら、「えー」「あのー」といった言葉を減らして話を短くします。端的に言うと、「抑揚」をつけるのです。
私は、抑揚を5つの要素に分解してとらえています。すでにお伝えしましたが、その要素をまとめると以下のようになります。
【「抑揚」を構成する5つの要素】
- 声の大小
- 声の高低
- 話すスピード
- 間の確保
- 「フィラー(「えー」「あのー」など無意識に出てしまう言葉)」の削減
自分が思っているほど、聞き手は抑揚を感じていない
抑揚とは、聞き手に「わかりやすさ」をもたらし、話し手の「情熱」を伝える手段です。抑揚がなく、ただ並べられた文字を機械的に読むような話し方をしたのでは、どこが重要でなにを言いたいのかが相手に伝わりにくくなります。
一方、重要なところでは声を大きく高くする、間(ま)を置いてからゆっくり話すといったことができれば、聞き手は「思いを込めて話している」という話し手の情熱を感じ取れ、「この事柄について話したいのだな」と理解しやすくなると同時に、話し手に信頼を寄せるようにもなるのです。
ただ、自分ではしっかり抑揚をつけているつもりでも、聞き手からするとそれほど抑揚を感じられないものです。ですから、抑揚については、「自分が思う3倍やっていい」と思いましょう。
これは、演劇家やアナウンサーなど、表現者の友人たちの仕事を見ていても気づくことができるのですが、実際の収録現場では、演者たちは驚くほど大きな声を出したり、動作をつけたりして話をしています。
この事実からどのようなことが考えられるでしょう。つまり抑揚とは、自分の認識と他者の認識のあいだに想像以上のギャップがあるもので、自分がつけている抑揚は、聞き手からすると自分が思っているよりはるかに小さく感じられるということです。ですから、大袈裟に思えるほど抑揚をつけてちょうどいいくらいですし、自分が思う3倍やってようやく聞き手に伝わるのです。
「。」を意識して間(ま)をとることで、話すスピードを抑える
私は話し方のトレーニングを受講生の方に向けて行なっているのですが、先にお伝えした抑揚の5つの要素のうち、特に相談が多いのが「話すスピード」です。「話すのが速いと言われる」「自分が話している動画を見返してみると、思っているより早口だった」という人がたくさんいます。
改善策のひとつが、「間(ま)をとる」ことです。なぜなら、単純に話すスピードそのものが速いのではなく、一文と一文のあいだで間(ま)をとらずによどみなく話しすぎてしまうがゆえに、周囲からすると速く聞こえることもあるからです。
そのような人の場合、文の最後にある「。」を意識して、そこで2秒程度空けて話してみましょう。すると、話すスピード自体は変わらなくとも、間(ま)が置かれてゆっくり話しているように聞こえます。
また、「フィラー」と呼ばれる、「えー」「あのー」など無意識に出てしまう言葉を多用してしまうために長文になり、連続して速く話していると思われることもあります。この場合は、長い文章を意識的に「。」で区切って一文を短くしましょう。そうすれば、先のケースのように「。」で間(ま)をとれて、ゆっくり話しているように聞こえます。
もちろん、話全体のスピードをただ落とせばいいわけではありません。大切なのは抑揚ですから、全体のスピードにフォーカスするのではなく、強調したいところだけ「0.8倍速」程度でゆっくり話すのを心がけてください。
そしてなにより、「自分はどうせ話し下手だから」と諦めないでください。私自身も、話すことを苦手としていました。でも、話し方を学習することで、その苦手意識を払拭できたのです。話すスキルは先天的な能力ではありませんし、上手な話し方は学習によって必ず身につけられます。「いまは苦手でも、絶対にうまく話せるようになれる!」と信じて努力を続けていきましょう。
【千葉佳織さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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