第一印象がよかったからその人との仕事が広がった、逆に第一印象が悪かったから「二度と会いたくない」と思ったなど、人間関係における第一印象の重要性についてはほとんどの人が理解しているはずです。言うまでもなく、ビジネスシーンにおいても第一印象は重要になるでしょう。よりよい自己表現を研究するパフォーマンス学の第一人者であるハリウッド大学院大学特任教授の佐藤綾子先生は、相手と「15m離れている段階でのわずか1秒」で第一印象の大半が決まると言います。その一瞬において、どうすれば第一印象をよくできるのか、心理学者に聞いてみました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
佐藤綾子(さとう・あやこ)
1947年1月20日生まれ、長野県出身。1969年、信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究科卒業(MA)、上智大学文学研究科卒業(MA)、同博士課程修了。立正大学大学院心理学専攻、博士(パフォーマンス学・心理学)。日本大学芸術学部教授を経て、ハリウッド大学院大学特任教授、一般社団法人パフォーマンス教育協会理事長、株式会社国際パフォーマンス研究所代表。自己表現力養成セミナー「佐藤綾子のパフォーマンス学講座®」主宰。パフォーマンス学の第一人者として、累計4万人のビジネスリーダーや国会議員のスピーチ指導を行なう。『55歳から「実りの人生」』(サンマーク出版)、『できる人・好かれる人になる「見た目」と「話し方」のコツ34』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『人生がうまくいく笑顔の教科書』(ごきげんビジネス出版)、『1秒オーラ 好意はなぜ発生するのか』(集英社)、『10秒で好かれるひとこと 嫌われるひとこと』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『成功はPQで決まる』(学研プラス)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
第一印象を決めるのは、ほぼ「見た目」
「第一印象」とは、物事や人に接して最初に受けた印象を意味します。ただ、「最初に」と言いますが、第一印象はどれくらいの時間で決まると思いますか? 出会ってから数か月でもないし、1日でもありません。
実際のところ、お互いを認識して「1秒」もあれば第一印象は決まってしまうのです。しかも、その印象を決めるのは、ほぼ「見た目」です。
アメリカの心理学者であるティモシー・ウィルソンの研究によると、私たちの脳は、相手を認識した最初の1秒のあいだに、細かく分類すると約1100万要素もの情報を五感から得ているのだそうです。しかも、そのうち9割以上にあたる約1000万要素が視覚情報です。
もちろん、脳の能力にも限界がありますから、それらのすべての情報を処理しているわけではありません。脳研究で有名なアメリカのジョン・メディナによれば、出会って1秒のあいだに脳が処理しているのは、1000万要素の視覚情報のうち40要素だと言います。そうして、「背が高かった」「青い服を着ていた」「色白だった」「笑顔を浮かべていた」「背中が丸まっていた」といった視覚情報から、第一印象が決まります。
「人は見かけよりも中身が大切」「人は見た目ではない」とも言われますが、第一印象に関して言えば、ほぼ見た目で決まると言っていいでしょう。
人は「15m」の距離で他者を認識する
しかも、その第一印象は、相手と「15m」離れている段階で決まると考えます。この15mという距離は、私の実験から導き出した数字です。その実験を行なったのは、朝の通勤時間でした。JR御茶ノ水駅の改札口につながる歩道上に、ぞろぞろと歩いてくる通勤中の人たちと向かい合うかたちで、ひとりの学生に立ってもらいました。
多くの人が駅に向かっているところにひとりだけ学生が立っているのですから、かなり目立っているシチュエーションです。学生を認識した人たちの反応はさまざまでした。怪訝そうに一瞬立ち止まる人もいれば、視線だけを学生に向けながら通り過ぎる人もいました。学生の視線が自分の後ろに向かっていると感じたのか、後ろを振り返る人が多かったことも印象的でした。
いずれにせよ、通勤中の人たちがなんらかのアクションを起こした(学生を認識した)地点を、直近のビルの2階から撮影して画像分析により調べたところ、学生から15mの距離が平均値として出たのです。
そして、学生を認識したということは、先に述べた「出会って1秒」がすでに始まったのを意味します。すなわち、第一印象は「15m離れている段階でのわずか1秒の見た目」で決まると言ってもいいのです。この数字をどう捉えるかは人それぞれですが、「思っている以上に早い段階で第一印象が決まるのだな」と感じた人が多いでしょう。
第一印象は、まさに一瞬で決まるのです。逆に言うと、工夫次第で、その一瞬にいい第一印象を与えることもできるのです。そうするための工夫について解説しましょう。
体を大きく見せ、大股で歩いて元気な印象を与える
15m離れている段階では、こちらの表情や目の動きといった細かい部分までは、相手ははっきりと認識できていません。それらをはっきりと認識できるのは、5m以内に近づいてからです。ですから、相手との距離が15m〜5mまでの段階では、「姿勢」と「歩き方」を意識するのをおすすめします。
姿勢については、「体を大きく見せる」ことを心がけましょう。人間は、背が高くて体が大きい人をパワフルだと感じます。逆に、体がしゅんと縮こまっていると、見ている人は、「力がない」「影が薄い」「頼りない」などネガティブな印象を受けます。
背が低い人もがっかりする必要はありません。重要なのは、「どう見えるか」です。生き生きと前向きに日々を過ごしている人は、身長の高低とは関係なく実際の体格以上に大きく見えるものです。
そう見せるには、まず足の裏の中心でしっかりと地面をとらえます。そして、頭のてっぺんから真上に向かって高くつり上げられているイメージで背筋を伸ばしましょう。そうすることで、体はぐんと大きく見えるようになります。
そして、歩くときは歩幅を意識的に広くとってください。歩幅が狭いと元気がない印象をもたれます。私の実験データでは、日本人の男性は60cm、女性は55cmほどが理想的な歩幅の目安となります。とはいえ、いちいち歩幅を測るわけにはいきませんよね。そこで、歩幅を体に覚えさせるため、オフィスの床材としてよく見かけるタイルカーペットを基準にしてみてください。一般的なタイルカーペットのサイズは50cm角ですから、普段からその1マスをまたぐように歩けば、理想的な歩幅を感覚的につかめるはずです。
ここまでいろいろとお伝えしてきましが、みなさんに覚えておいてほしいのは、対面して会話を交わす前から第一印象は決まるという事実です。相手との距離を意識しながら、姿勢や歩き方に注意することで、あなたの第一印象は劇的に変わっていくことでしょう。
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