あなたがいつも怒ってばかりなのは “○○” を言語化できていないから。

戸田久実さんインタビュー「アンガーマネジメントの2つの基本」01

「怒りと上手に付き合うための心理トレーニング」である「アンガーマネジメント」には、ふたつのメソッドがあります。それは、「対処術」と「体質改善」というもの。それぞれどんなものなのでしょうか。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事である戸田久実(とだ・くみ)さんに、基本トレーニングとあわせて紹介してもらいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

アンガーマネジメントのふたつのメソッド

私たち人間は、怒りという感情をまったくもたないようにすることはできません。怒りは「防衛感情」という役割があり、状況によっては怒りを感じることはごく自然な反応だからです。

たとえば、駅の階段をのぼっていたら、突然誰かにぶつかられて転びそうになった……。そんなときは、「なにをやってるんだ!」と怒りを感じますよね。そうして、私たちは自身に及ぶ危険から身を守ろうとします。

ただ、そうはいってもいつも怒りっぱなしではいいことはありません。特に、多くの人と関わりながら仕事をするビジネスパーソンの場合、怒りっぱなしだとしたら周囲とあつれきを生み、スムーズに仕事を進めることが難しくなるでしょう。

そこで、「怒りと上手に付き合うための心理トレーニング」である「アンガーマネジメント」の出番です。アンガーマネジメントは、基本的に「対処術」と「体質改善」のふたつのメソッドに分けられます。

前者は、花粉症の人が薬を飲むことのような、即効性のあるメソッドです。一方、後者は怒りにくい体質にするためにじっくり取り組むトレーニング。いわば、薬を飲むのではなく、花粉症の人が食事を改善したりサプリを飲んだりするようなことですね。ここでは、アンガーマネジメントの対処術と体質改善の基本を解説しましょう。

戸田久実さんインタビュー「アンガーマネジメントの2つの基本」02

6秒やり過ごせれば、理性が働く

まずは対処術から。その代表格が6秒やり過ごすというものです。じつは、怒りが生じて6秒たつと理性が働きます。怒りに任せた衝動的な行動をしないために、6秒やり過ごせるようになりましょう。でも、どうすれば6秒やり過ごすことができるのでしょうか? 私からはふたつのトレーニングをおすすめします。

ひとつめは、「怒りに10段階で点数をつける」というもの。0点は、まったく怒りを感じていない穏やかな状態。10点は、頭が沸騰しそうな激しい怒りです。怒りを感じたら、その怒りに対して自分で点数をつけてみるのです。すると、「いまの怒りは何点くらいだろう?」と考えることに意識が向き、6秒なんてあっという間に過ぎてしまいます。考えているあいだに理性が働き、そのあとは怒りに任せた行動ができなくなるという仕組みです。

もうひとつのトレーニングが、「数字を逆算していく」こと。私たちは、数え慣れた数字は無意識にでも数えることができます。1から順に6まで数えようとしたら、6秒もかからず数えられますよね。でも、300から7ずつ引いて6つの数字を数えようとしたらどうでしょう? 「300、293、286、279……」と考えながら数えるうちに、これまた6秒なんてすぐに過ぎてしまうのです。

もちろん、これも1から順に数えるのと同じように慣れてしまえば効果はありませんから、定期的にルールを変えましょう。300から7ずつ引いて数えることに慣れたら、今度は200から4ずつ引いて数えるようにするという具合です。

戸田久実さんインタビュー「アンガーマネジメントの2つの基本」03

「怒る必要があることと怒る必要がないこと」の境界線を知る

では、アンガーマネジメントのもうひとつのメソッドである体質改善について解説します。体質改善の代表的なトレーニングは、怒りを感じたことを記録する――『アンガーログ』をつけるというものです。

怒りの背景には、先に触れた防衛感情のほかに、自分のなかの「こうあるべき」があります。「締め切りは厳守すべき」と思っている人なら、部下などが締め切りを守らなければ怒りを感じるというわけです。

でも、その「こうあるべき」をきちんと言語化して自覚している人はそう多くありません。そこで、取り組んでほしいのが「アンガーログ」。自分が怒りを感じたときに、先ほどの10段階の点数とともに日記のように記録をするのです。

アンガーログを日常的に記録することで、自分の怒りの傾向とパターン、そして、自分の怒りのもとになる「こうあるべき 」「こうするべき」も明確になります。

アンガーマネジメントは、「怒らない人間になろう」といったものではありません。怒る必要があるときには適切なかたちで怒らなければならない。そうするためには、まず自分の怒りを客観的に把握できることが重要です。

戸田久実さんインタビュー「アンガーマネジメントの2つの基本」04

【戸田久実さん ほかのインタビュー記事はこちら】
当てはまったらマズい! 生産性を下げる「4つの間違った怒り方」
常にイライラしている厄介なあの人には、こう対処するのが正解だ!

アンガーマネジメント (日経文庫)

アンガーマネジメント (日経文庫)

  • 作者:戸田 久実
  • 日本経済新聞出版社
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【プロフィール】
戸田久実(とだ・くみ)
アドット・コミュニケーション株式会社代表取締役。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事。立教大学文学部卒業後に大手企業勤務を経て、2008年にアドット・コミュニケーション株式会社を設立。研修講師として、銀行、製薬会社、総合商社、通信会社など大手民間企業や官公庁で「伝わるコミュニケーション」をテーマに研修や講演を実施。対象は新入社員から管理職、役員までと幅広い。アンガーマネジメントやアサーティブコミュニケーション、アドラー心理学をベースとしたコミュニケーション指導に定評があり、これまでの指導人数は22万人に及ぶ。近年は、大手新聞社主催のフォーラムへの登壇やテレビ、ラジオ出演など、さらに活動の幅を広げている。『一瞬でいい関係を築く コミュニケーション大百科』(かんき出版)、『働く女の品格 30歳から伸びる50のルール』(PHP研究所)、『「つい怒ってしまう」がなくなる 子育てのアンガーマネジメント』(青春出版社)、『誰とでも気軽にうちとける自分になれる本 気持ちのいい関係をつくる「話し方」「つき合い方」』(三笠書房)、『苦手意識がなくなる会話術』(大和書房)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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