もしも、あなたが優れたリーダーを目指すなら、航空機の機長(PIC:Pilot in Command)に学ぶことをおすすめします。どんな状況においても冷静な判断や行動、統率力が求められるほか、チームのメンバーに能力を発揮させる力も欠かせないからです。
今回は、映画やパイロットらの話を参考に、「リーダーの条件」と「リーダーの資質を後天的に高める方法」を紹介します。
映画で学ぶ「リーダーシップ」
『ハドソン川の奇跡』(2016)をご存じでしょうか。2009年に起こった航空便の不時着水事故と、その後を描いた映画です。事故状況のリアルさはもちろんのこと、実際に使われた救助ボートなどが使用されており、救出に携わった人々が本人役で出演しています。
<概要>――2009年1月15日、USエアウェイズ(現アメリカン航空)1549便は、離陸直後に鳥と接触したため、両エンジンの機能が停止してしまう。本来なら出発地に引き返すか、ほかの空港へ着陸すべきところだが、いずれも不可能な状況だと判断。機長は「もはやハドソン川に着水するしかない」と考え、前代未聞の決断をする――
そこから機長は操縦を担い、副操縦士は着水までエンジン再始動を試みました。その結果、着水時に機体が分解することなく、奇跡的にひとりの死者も出さず全員が救助されたのです。
じつは、この映画を観て当時の状況を詳しく知ると、航空機におけるリーダーシップの在り方について、少し理解することができます。なぜならば、この奇跡が起きたのは、機長の的確な判断と熟練の技だけではなく、副操縦士やクルー、救助に携わった人々にいたるまで、彼らが冷静かつ迅速に、それぞれの役割としての能力を発揮したためだとわかるからです。
映画の終盤、公聴会のシーンで機長のチェスリー・サレンバーガー氏は、副操縦士や客室乗務員の名前と、乗客、救助隊、管制官、フェリーの乗組員、警官らを挙げ、「みなのおかげで、私たちは生き延びることができた」と述べました。
この映画を観れば、次項で説明するふたつのリーダーシップが遺憾なく発揮され、奇跡が起きたとわかるでしょう。
2種類の「リーダーシップ」
日本航空運航本部・運航訓練審査企画部の、定期訓練室室長である荻政二氏と、訓練品質マネジメント室室長の京谷裕太氏(2019年10月当時)によれば、日本航空には以下2種類のリーダーシップがあるそうです。
- デジグネイテッド・リーダーシップ(designated leadership)
任命された者が発揮するリーダーシップ。最終意思決定者である機長が有している。 - ファンクショナル・リーダーシップ(functional leadership)
それぞれの役割として発揮するリーダーシップ。副操縦士やクルーが有している。
つまり、リーダーシップは機長だけのものではなく、みなそれぞれが自分の職務や立場で発揮するリーダーシップがあるということです。
リーダーには「インターパーソナルスキル」が必要
しかし、リーダーシップが機長だけのものではないと聞くと、最終意思決定者であるリーダーの立場がとても難しいものに感じてしまいます。みなをグイグイ引っ張っていくような、強引さが必要なのでしょうか?
じつは、そのまったく逆でした。荻氏と京谷氏によれば、いま機長に求められるのは、なんでも仕切ってしまう昔ながらのリーダー像ではないそうです。いまのリーダーに必要なのは、チームのメンバーに働いてもらう力なのだとか。そのためには、関係性の構築や、協調性といった「インターパーソナルスキル」が必要とのこと。いわゆる対人関係のスキルです。
旅客機の運航には、パイロットやキャビンクルーのほか、メカニックや管制官なども関わってくるので、多くのさまざまなやり取りが必要だといいます。だからこそ対人関係のスキルが低いと、適切・的確な情報収集や、判断ができなくなってしまうのだそう。
いまのリーダーには「役割遂行型」思考が必要
日本航空の元パイロットで、現在は危機管理専門家として活躍する小林宏之氏(2020年4月当時)も、「俺についてこい!」と部下をグイグイ引っ張っていくのは従来型のリーダー像だと述べます。同氏によれば、いまのリーダーに必要なのは「役割遂行型」という思考なのだそう。
一般的に “役割遂行力” という言葉は、自分の役割を理解し、事前に指揮命令者と判断軸をすり合わせ、必要に応じて自らが判断し、業務を進めていく能力だと説明されています。小林氏によれば、組織やチームのメンバーそれぞれが、各自の役割をきっちりと果たしてこそ、仕事がうまくいくとのこと。前項のファンクショナル・リーダーシップの説明と重なります。
そうしたことから、最終意思決定者であるリーダーには、以下ふたつの姿勢が必要なのだとか。
- 平時のときは「After you」の姿勢
- 有事のときは「Follow me」の姿勢
つまり、普段はメンバーそれぞれが自分の役割を果たせるよう、「みなが主役です」という姿勢であとをついていき、何か大きな問題が生じたときは切り替えて、「私が決断するからついてきて」と力強く率いるわけです。
リーダーの資質の高め方とは?
これまでの内容から、パイロットに学ぶ「リーダーの条件」は、「インターパーソナルスキル」が高いこと、「役割遂行型」思考であること、有事には力強い姿勢に切り替えられることだとわかりました。リーダーの資質を高めていくために、これらを具体的な活動に当てはめてみましょう。
- 協調性を高める
・積極的に交流する
・協力的になる
・人の考えを聞くことに慣れる
・人に考えを伝えることに慣れる - 業務上の判断に迷わない仕組みづくり
・〇〇の場合は、△△処理でOKといったルールを共有する習慣
・定期的に周囲とすり合わせを行なう習慣
・常に最適解を導き出す練習(当事者でなくとも自分ならどうするか、どう発言するかシミュレーションするクセをつける)
つまり目指すべきは、「常に周囲と交流をもち、自分と個々がリーダーシップを発揮できる状況づくりができる人」なのです。
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パイロットに学ぶ「リーダーの条件」と、その資質の高め方を紹介しました。ぜひこの機会に真のリーダーを目指しましょう。
(参考)
PR TIMES|派遣スタッフの「役割遂行力」「判断する力」「伝える力」「受援力」がテレワークにより向上したことを、約6割の上司が実感。派遣スタッフ本人も半数以上が同様にスキル向上を実感。
Business Insider Japan|リーダーシップは「仕切る」から「メンバーを生かす」へ。日本航空の機長が語るこれからの組織づくり
STUDY HACKER|元日本航空パイロットのリーダーシップ論。リーダーには “この2つ” の心構えが必要だ
Hello, Coaching!|テクニカルスキルよりインターパーソナルスキル
Wikipedia|USエアウェイズ1549便不時着水事故
Wikipedia|ハドソン川の奇跡 (映画)
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