勉強を新しく始めようかご検討中のみなさん、あるいは「過去に勉強に挫折したけれど、もう一度チャレンジしようか」とお悩み中のみなさん。唐突ではありますが、まずは形から入ってみるのはいかがでしょうか?
「形から入る」という言葉には、「中身がともなっていないと意味がない」「形だけで満足してしまうのでは?」といった悪いイメージがつきまといがち。しかし、意外にも「モチベーションが維持できない」「思うような成果が出ない」という勉強にありがちな悩みを解消する力があるのです。
では、勉強に「形から入る」にはどうすればいいのでしょうか? 4つの方法をご紹介しましょう。
【形から入る方法1】勉強前にデスクを整理整頓する
精神科医の西多昌規氏によると、「形から入る」ことにはやる気に深くかかわるホルモン「ドーパミン」を活性化させる働きがあり、モチベーションアップに大きく作用するとのこと。さらに、精神科医の樺沢紫苑氏は、ドーパミンには記憶力や学習能力を高める働きもあると言います。
西多氏によれば、こうしたドーパミンの効果を得るためにも、何かを始める際は「どういう始め方をするか」が重要なのだそう。最も簡単な方法は、「勉強前にデスクを整理整頓すること」です。脳神経外科医の築山節氏によれば、勉強前にデスクまわりの簡単な掃除をすると作業興奮が起こり、脳の側坐核が刺激されてドーパミンが分泌されるのだそう。作業興奮とは、簡単な作業によって起こる軽い興奮状態のこと。たとえば、物を捨てるだけでも作業興奮は起こると築山氏は言います。
デスクの整理整頓のコツとして、東大出身の教育コンテンツ開発者・岩波邦明氏は「不要な物は置かない」「やる気を高めてくれる物を置く」のふたつを挙げています。岩波氏によると、集中力は視覚情報に大きく影響されるので、スマートフォンや漫画といった集中力を乱す物が視界に入らないようにするといいのだそう。一方で、やる気を高めてくれるペットの写真や自分を鼓舞する名言などを書いた紙を貼るのはよいそうですよ。
一方注意点として、脳神経外科医の菅原道仁氏は、無計画に掃除するのは疲労の原因になるのでNGだと言います。勉強がはかどらないときにありがちな「気づいたら部屋中掃除してしまった」というのでは、効果が出ないので注意しましょう。勉強前の整理整頓は小規模に留めるほうがいいと菅原氏は述べます。これらを踏まえ、「今日は引き出しの1段目を整頓する」「今日は書類ケースを整理する」というように、計画的かつ小規模な整理整頓を勉強前に取り入れましょう。
【形から入る方法2】お気に入りの文房具をそろえる
樺沢氏によると、ドーパミンには幸福物質と呼ばれる側面もあり、楽しいと感じたときにも活性化されるのだそう。このメカニズムを活かして勉強に形から入る方法が、「お気に入りの文房具をそろえる」ことです。勉強は書く作業が多いので、文房具のなかでもペンやノートにこだわるのが、簡単かつ即効性があるとのこと。
文房具選びは自分が気に入るかどうかが一番のポイントですが、いくつかのヒントもご紹介します。まず、ペンを選ぶときは、インクが濃くて発色がよいものを選びましょう。三菱鉛筆と立命館大学との共同研究によると、黒色でくっきりと書かれた文字は記憶を助けるという効果があるため、濃い文字で書くほうがノートを見返したときに記憶に残りやすいのだそう。
次に、ノートは行頭・段落がそろい、文字サイズが調整できて美しく書ける方眼ノートがおすすめだと、2万人以上のノートスキルを指導してきたコンサルタントの高橋政史氏は言います。また、サイズはA4サイズがよいとのこと。「ノートのサイズは思考のサイズ」であり、多くのことを書き込める大きめサイズのノートを使うと、複雑なことを考える力やロジカルな思考力が育つそうですよ。
【形から入る方法3】テキストを買う・受験に申し込む
「テキストを買う」「資格試験の受験を申し込む」といったやり方で自分を追い込むのも形から入るおすすめの方法だと西多氏は言います。不安や緊張を感じたときに分泌されるノルアドレナリンにはドーパミンを活性化させる働きがあるため、自分に適度なプレッシャーをかけるのは勉強のモチベーション維持に効果的なのだそうです。
またこの方法は、身銭を切ることで「もとをとらなければならない」という心理が働くメリットもあるとのこと。ただし、出費のしすぎには注意が必要です。普段であれば出さないような金額を、ほんの少し背伸びして出すくらいがちょうどいいそうですよ。
テキストを買ったり、資格試験の受験を申し込んだりするときのコツとして、精神科医の和田秀樹氏は、勉強のテーマをひとつに絞り込むことをすすめています。同時に複数の勉強に手をつけると、注意力が散漫になり、集中力が高まらないためです。
加えて、初心者がテキストを買うときは、入門書を選ぶとよいとのこと。内容を理解できなければ記憶もできず、知識を活用することも叶わないためです。基本的なことを理解するには中学・高校の参考書が役立つと、和田氏は言います。マンガで解説されている書籍もおすすめだそうですよ。
【形から入る方法4】図書館や自習室に通う
西多氏によると、出費とは違った面で自分にプレッシャーをかける方法もあるのだそう。それは、「図書館や自習室に通うこと」です。他人に見られていることで感じるプレッシャーにもドーパミンを活性化させる働きがあると、西多氏は言います。ましてや、勉強に励む人が集まる図書館や自習室なら、たとえ形だけの勉強でも自然と気持ちが引き締まり集中しやすくなるのではないでしょうか。
また図書館や自習室に通えないという人は、通勤時間を利用するといいと、築山氏は言います。通勤中だと他人の視線を感じることに加えて、時間の制限によるプレッシャーもかけられるのだそう。まずは通勤中、スマートフォンの代わりにテキストをもつところから始めてみてはいかがでしょうか。
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「形から入る」ことには、脳科学に裏づけられたメリットがあります。しかし、勉強のテーマを絞り込まないなど、無計画に始めた場合は単純に形だけで終わってしまう可能性があるため、どのように取り組むかが大切です。今回ご紹介した4つの方法を、ぜひ実践してみてくださいね。
(参考)
西多昌規(2013),『「すぐやる! 」コツ』, ソフトバンククリエイティブ.
築山節(2012),『脳が冴える勉強法 覚醒を高め、思考を整える』, NHK出版.
菅原道仁(2018),『「なぜ、脳はそれを嫌がるのか?』, サンマーク出版.
STUDY HACKER|東大生の勉強机はどうなってるの?
岩波邦明(2014),『合格判定0%から1年で東大医学部に合格した人の秘密の勉強法』, PHP研究所.
樺沢紫苑(2018),『学びを結果に変えるアウトプット大全』, サンクチュアリ出版.
NIKKEI STYLE|テレワークのスキマ時間を活用 資格の勉強に最適文具
和田秀樹(2009),『大人のためのハイスピード勉強法』, PHP研究所.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。