いつもの会社での1時間の昼休み。30分くらいで食事を終えて時間を持て余し、残りの30分はスマートフォンでネットサーフィンやアプリゲームをしてなんとなく過ごしてしまう人は多いのではないでしょうか?
もし、お昼休みの30分間を勉強にあててみたらどうでしょう。1週間で2時間30分、1ヶ月で10時間の勉強時間を確保できることになります。1年で考えると120時間。スキルアップや資格取得を目指す人には、きっと大きな意味を持つのではないでしょうか。
とはいえ、昼休みを使って勉強してみようと思っても、続けられる自信がなかったり、人目が気になったり、やる気が出なかったりするのも事実ですよね。そこで今回は、昼休みの時間を勉強に使えるようになるテクニックをご紹介します。
昼休みに勉強するメリット
もちろん、会社の昼休みはしっかり休憩してリフレッシュして、午後の仕事に備えるのも大切です。しかし、昼休みの持つ「時間制約」を逆手にとって、短期集中的に勉強してしまう手もあります。
脳科学者の茂木健一郎氏によれば、制限時間を設けて決めた分量の勉強を終わらせる「タイムプレッシャー」という勉強法が非常に有効なのだそう。制限時間内に終わらせなければならないというプレッシャーが脳にほどよい負荷をかけ、学習の効率を高めてくれるのだとか。
また、たとえ決めた時間で終えられなかったとしても、いい効果があります。旧ソ連の心理学者、ブルーマ・ツァイガルニクが提唱した「ツァイガルニク効果」をご存じでしょうか。これは、人は達成したことよりも、中断したことや達成できなかったことのほうに興味を惹かれて印象に残るという心理効果を指します。
つまり、たとえ中途半端であったとしても、決めた時間で切り上げることによって、勉強を再開しやすくなる効果と、勉強した内容が記憶に残りやすくなる効果が期待できるのです。
昼休みは、タイムプレッシャーの利用にはうってつけの時間であり、加えてツァイガルニク効果で後の学習の布石を打つこともできます。昼休みを持て余しぎみだと感じているなら、勉強にあててみてはいかがでしょうか。
昼休みに勉強する習慣がない人への提案:短い時間から始める
昼休みに勉強といっても、「その日によって時間がどれくらいとれるかわからない」「あまり頑張って午後の仕事に響くのも嫌だ」「続ける自信がない」などと感じている人もいるはず。そんな方はまず、「短い時間でいいから勉強時間を確保する」ことをオススメします。最初は、3分や5分の勉強から始めてみるのはいかがでしょうか?
起業家のスティーブン・ガイズ氏は、ベストセラー著書『小さな習慣』において、新しいことを習慣づけるためには「ばかばかしいくらい小さな目標」から始めるのがよいと述べています。
ガイズ氏は運動を習慣づけるために、最初は腕立て伏せを1回という目標から始めて、最終的には本格的な筋トレをこなすまでになったのだそう。やり損なう口実にならないような小さな目標を達成し続けることが自信になり、もっとやりたいというモチベーションも高めてくれると、ガイズ氏は述べています。
そして、段階的に時間を増やすことに成功したら、いかに時間を確保するかが重要になってきます。仕事術に関する情報を発信するサイト「はまラボ」を運営し、仕事術関連の著書も出版する浜中省吾氏は、「60分の昼休みを3つに分割する」という方法を使っているのだそう。具体的には、以下のように時間を区切って行動を決めているそうです。
- 最初の30分
チームのメンバーと食事。仕事の進捗や雑談などのコミュニケーション。 - 食後の20分
ブログの執筆や、読書、勉強など。短い時間なのでかえって集中できる。ブログの執筆なら見出しだけ。読書なら1章だけ可能な限り読み進めて気付いたことをメモしておく。 - 最後の10分
昼寝をする。頭の疲れをとって仕事に備える。雑念がなくなるので、アイディアも浮かびやすい。
このように時間を区切ることで、浜中氏は昼休みに20分の勉強時間を確保しているようです。もちろん、初めから20~30分、勉強時間を確保するのは難しいでしょう。まずは、1分でも2分でも取り組んで、昼休みに勉強をする習慣を手に入れてみましょう!
会社では勉強しづらい人への提案:カフェに移動する
昼休みに勉強をしたくても、そもそも会社では集中できなかったり、上司や同僚の目が気になったりするという人も多いでしょう。そこで提案したいのが、場所を移してみること。
勉強する環境を変えることで期待できる効果として、学習能力のアップが挙げられます。スティーヴン・スミス氏、ロバート・ビョーク氏、アーサー・グレンバーグ氏という3人の心理学者が共同で行なった研究によれば、同じ部屋で勉強をしたグループよりも、勉強する部屋を変えたグループのほうが、記憶した単語の数が40%以上も多かったのだとか。
このようなメリットを踏まえて勉強場所としておすすめしたいのが、カフェです。じつは、カフェが勉強場所に適している科学的な理由があります。環境心理学・音響心理学の専門家である、茨城大学工学部准教授の辻村壮平氏によると、カフェに代表されるような適度な騒音がある環境は「音のマスキング効果」を発生させるのだそう。
たとえば、あまりにも静かすぎる空間で、キーボードを打つ音や電話する声、咳やくしゃみなど、自分の発する音が気になってしまったという経験はないでしょうか。これが適度な環境音の中にいると、自分の発する音がかき消されて気にならなくなり、周りに気を遣わなくなるぶん、脳の容量をフルに活かして勉強に向かうことができるのです。
このように、適度な環境音の中で同じく勉強をしている人も多いカフェは、周りを気にせず勉強に向かうのにうってつけの場所といえます。
やる気がでない人への提案:頭頂部を意識する
昼休みに勉強しようという気持ちはあるけれど、いつもやる気が出ずに終わってしまったり、気持ちが切り替わらず勉強モードになれなかったりすることもあるでしょう。そういう人におすすめしたいのが、東京大学教授の脳研究者・池谷裕二氏が紹介する「頭頂部に意識を集中する」方法です。やり方はとても簡単。
- 目を閉じて、テニスボールやリンゴくらいの大きさの球体を頭の上に乗せる。
- ゆっくりと手を離して目を開ける。
この方法のよいところは、目を閉じて頭の中で同じ動作をイメージするだけでも効果があるということです。慣れないうちは30秒、慣れてきたら10~15秒ほど頭頂部に意識を集中して、球体を頭に乗せて手を離すという行動をイメージしてみましょう。
池谷氏によると、そもそも人間は危険を察知するために意識が分散しているそうです。しかし、仕事や勉強などでは、分散している意識をひとつに集中させなければなりません。この切り替えに労力がかかります。
頭に乗せた球体に意識を集中する(というイメージをする)ことで、分散していた意識を集約させ、強制的に目の前のタスクに取りかかれる状態=集中力が高まった状態をつくりだすことができるのです。
1分もかからない手軽な方法なので、ぜひ、昼休みの勉強モードへの切り替えに試してみてくださいね。
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1日1日で確保できる時間は短くとも、1年、5年、10年と考えていったときに、その量は絶大です。まさに、塵も積もれば山となる。ぜひ5分でも10分でも昼休みに勉強する習慣を手にして、スキルアップや目標の達成に進んでみてください!
(参考)
茂木健一郎(2014),『茂木健一郎の脳がときめく言葉の魔法』, かんき出版.
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スティーヴン・ガイズ著、田口未和訳(2017)、『小さな習慣』、ダイヤモンド社.
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【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。