仕事ができる人は「やめることをすぐ決められる」。やめる決断をするための最重要マインドセット

澤円さん「やめる決断をするための最重要マインドセット」01

どんなことでも、一度始めた何かを「やめる」ことには少なからず抵抗を感じるものです。それが、仕事そのものや仕事に関わることならなおさらでしょう。「一度始めた仕事はきちんと続けなければならない」という感覚を、多くの人が当たり前にもっているからです。

でも、これからの時代にはやめることをすぐ決められる人が活躍すると言うのは、著書『「やめる」という選択』(日経BP)を上梓した株式会社圓窓代表取締役の澤円(さわ・まどか)さん。「せっかく〇〇したのだから」という思考をなくし、自分のキャリアアップにつなげていく「やめる」という選択の仕方——。

写真/在本彌生

人生のあらゆる停滞を生み出す「埋没(サンク)コスト」とは?

このコラムでテーマになる埋没コストとは、経済学の概念で「ある経済行為(投資、生産、消費など)に支出した固定費のうち、どんな意思決定(中止、撤退、白紙化など)をしても回収できない費用」を指します。そして、それまでに費やした資金や労力や時間が惜しいがために、その経済行為を続けてしまい、損失がより拡大する恐れがあるコストのことです。

これを僕流に言い換えると、「せっかく○○したのだから」という言葉で表せる思考と行動になると考えています。みなさんは、次のような言い方を、自分でも気づかないうちに口にしていませんか?

「せっかくいい大学に入ったのだから」
「せっかく希望する会社に採用されたのだから」
「ここまで同じ会社で頑張ってきたのだから」

はっきり言えば、このような考え方すべてが、自分でも気づかないうちに「あなたのコストに化けていませんか?」と僕は問いかけたいと思います。

埋没コストになるのは、自分が置かれる立場や属性だけに留まりません。よくあるのが、「あれだけ頑張ったのだから」という気持ち。これも場合によって、その多くが埋没コストに変わってしまいます。何かの仕事を与えられて、その仕事に歯を食いしばって取り組み、頑張って乗り越える。そこで得た小さな成功体験ですら、油断しているといつの間にか埋没コストに化ける場合があります。

自分の成功体験を、自分のなかだけの誇らしい思い出としてもつのはいいですが、常に自分をアップデートしていく意識がなければ、自分が誇りとしてきた過去の価値観に、いまの自分が簡単に固定されてしまいます。そうして少しずつ成長が止まり、人生を豊かにするための大切な時間の使い方ができない状態になっていくのです。

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「向いていない仕事を続ける」は紛れもないコスト

もうひとつ、自分をアップグレードさせていくときに、振り返っておきたい要素があります。それは、「そもそもいまの仕事は自分に向いているのか?」という視点です。

少し冷たく聞こえるかもしれませんが、向いていない仕事をずっと続けることこそ、典型的な埋没コストになります。「その職に就いたからには頑張って続けなければならない」というマインドに、埋没してしまっている状態です。

「途中で投げ出してほかのことをやっても、うまくいくわけがない」ともよく言われますよね? ですが、これはなんの根拠もない主張です。スポーツなどを見ればわかりやすいですが、監督や所属するチームが変わった途端、息を吹き返したように活躍する選手はいくらでもいます。

別に「置かれた場所で咲く」必要はなく、失敗体験があること自体がひとつの大きなリソースになりえます。それをベースにして、次のステップへと軽やかに移っていけばいいのです。向いていないセールススタッフの仕事を続けた結果、大失敗したけれども、その経験を活かして活躍する人事コンサルタントなんて、世の中にはたくさんいます。

いろいろな場所で語ってきたことですが、僕自身もエンジニアとしてはポンコツで、それはもう話にならないレベルでした。それでも、仕事としてプログラミングをした経験を活かし、「ITの価値の本質を伝える」というITコンサルタントのフィールドへ移ったことで、生き残ることができました。向いていないエンジニアをいつまでも頑張って続けていたら、いま頃は確実に埋没コストを抱えて、会社や上司の不平不満を漏らしていたかもしれません。

ならば、僕はエンジニアとしての仕事を投げ出したのかというと、自分としては投げ出したつもりもありません。そうではなく、「続けなかった」のです。そのため、着眼点と仕事の軸足を変えて、これまでのエンジニアとしての経験も「掛け合わせ」ていきました。

ひとつ言えることは、軸足を変えてITコンサルタントになったとき、僕は「こっちのほうが向いているし、やりたいな」と明確に感じたことです。つまり、スキルの掛け合わせを考えていくときは、「本当にありたい自分」をイメージし「いまの自分がときめくこと」から考えると楽に思考が流れていきます。そんなときに、「経験」は物理的に置き場所をとらないので、いつでもスキルとして自由に引っ張り出して使えばいいのです。

ちなみに、僕がポンコツエンジニアだったことなんて、いまや誰も気にしません。だいたいは「そうだったんですね!」と驚くか、「またまた〜」と信用しないか、「でもプレゼンはうまいよね」と、何も気にしないかの3つに反応が分かれる程度です。人って、他人のことはたいして気にしていないもの。そういうこともあって、僕は、「どんどん自分をオープンにしよう!」とすすめています。

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「やめる」が始まり。いい流れを生み出そう

これからの時代は、何かをすることができる人ではなく、「やめることをすぐ決められる人」が、仕事ができる人の条件になると僕は見ています。本当を言えば、もともとそうであって、それがよりいっそう明らかになっていくでしょう。

たとえば、新型コロナウイルス感染症が拡大し始めたとき、いち早く出勤をやめてオンライン化するなど、いままでのやり方を「やめる」ことをすぐ決断した会社は、スムーズなシフトチェンジができてしっかり生き残ることができています。一方、過去の「古いやり方」や「常識」などに固執している会社は、いまもさまざまな面でコストがひっ迫し、技術モデルの変革にも遅れをとっています。

同じく個人においても、やめることをすばやく決められることが、今後かなり重要なマインドセットになるでしょう。

「その “やめる決断” がなかなかできない」という人も多いのですが、僕はキャリアチェンジのアドバイスなどをするときは、いつも「いきなり全力でやらなくていいよ」と伝えています。フルスイングがおっかないなら、ちょっとずつやればいいのです。週末だけ個人で何かを始めてみたり、ほかの会社や組織を手伝ってみたりしながら、少しずつ新しいことを始めていくわけです。

本当に仕事ができる人は、すぐにそれができる人です。「これをやめてあっちへ行こう」とすぐ判断できる人は、結果的に時間を有効に活用し、かつ新しい場所でもフルコミットして結果を出すので、時間とエネルギーにほとんど無駄がありません。

「自分に向いていない」「これはダメだ」と思ったら、すぐに次の選択をする。そんな「ホップ」がすぐできる人が、どこにいても結果を出せる人なのです。

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※今コラムは、澤円 著『「やめる」という選択』(日経BP)をアレンジしたものです。

【『「やめる」という選択』より ほかの記事はこちら】
いまの自分の時間を費やす価値がない……。もうやめていい人間関係は、こう見極める
無駄な仕事をやめる突破口となるのは、仕事を「貢献」としてとらえる視点だ

【プロフィール】
澤円(さわ・まどか)
1969年生まれ、千葉県出身。元日本マイクロソフト業務執行役員。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman’s Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。著書に『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)、『個人力 やりたいことにわがままになるニューノーマルの働き方』(プレジデント社)、『「疑う」からはじめる。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム)、伊藤羊一氏との共著に『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)。監修に『Study Hack! 最速で「本当に使えるビジネススキル」を手に入れる』(KADOKAWA)などがある。

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