最初は「いい人だな」と思っていたはずなのに、関わりが多くなるにつれてなんだか自分の心が疲れていく……まわりにそんな人はいませんか。それ、ちょっと厄介な「マニピュレーター」と呼ばれるタイプかもしれません。
私たちの心理状態や幸福度の多くは、人間関係に左右されるもの。よりよい社会生活を送るために、そんな厄介者との関わり方を学んでおきましょう。
「マニピュレーターとは? 絶望的状況に追い込まれる前の対策5つ」でも詳しく解説しています。
要注意! 相手を操るのがうますぎる
「そのプロジェクトが成功するといいね!」と言いながら、いざ集中したいときに邪魔をするように別の仕事を押しつけてくる同僚……。「きみの仕事に期待しているよ!」と好意的に応援してくれていたのに、些細なミスを人前で激しく叱責して追い込んでくる上司……。
こんな人、いないでしょうか。
“親切” と “理不尽な態度” というふたつの矛盾した行為が繰り返され、しだいに自分の心が相手に支配されているような感覚にとらわれる――こうした心理に陥れる人物を、心理学では「マニピュレーター(manipulator)」と呼びます。
意味は「(他者を)操作する者」。つまり、相手の心を意のままにコントロールして、自分の利益を得るパーソナリティを指します。
2010年に、アメリカの心理学者ジョージ・サイモン氏が豊富な臨床経験から分析し、「人を追い詰め、その心を繰り返し支配する者」を「マニピュレーター(=潜在的攻撃性パーソナリティ障害)」と定義づけました。
彼らの特徴として厄介なのは、最初のうちは協力的・友好的な態度を示すので、攻撃的な人物には見えないところ。相手を特別扱いすることもあります。
しかし、ある程度親しい関係になり、相手の弱点を知ったら、攻撃的な本性を見せて支配しようとするのです。
注意すべきは、相手を特別扱いしたあとに与えるのが、あくまで「理不尽な厳しさ」であること。たとえば、かなり大変そうに思える仕事を任せてきたとしても、それが相手のキャリアアップを思ってのことだったとしたら、理不尽とは言えませんよね。
そうではなく、人前で「きみのミスがなければ、あのプロジェクトは成功したかもしれないんだよ」となじって必要以上に追い込む――そういった人が該当します。
まずは優しくしてくる心理
本性は攻撃的なのに、なぜ最初に優しさを見せてくるのか。その心理について、メンタリストDaiGo氏はこう説明します。
まず、相手にどれぐらいの利用価値があるのかということを探るためには仲良くならないといけないということです。ですから、そうやって皆さんの懐に入ってきて、皆さんの利用価値を値踏みします。
それから、利用するためには弱みを握らないといけないので、皆さんの利用価値を理解した上で弱みを握ってきます。
(引用元:Mentalist DaiGo Official Blog|関わるとやばい人の共通点 ※太字は筆者が施した)
このように、とても戦略的に私たちと関わってくるのです。
また、心理学者のジョージ・サイモン氏は、著書『他人を支配したがる人たち』で、彼らの狙いはただひとつ、「他者に勝利し、相手を支配すること」だと述べています。サイモン氏によれば、彼らは人間関係を「<搾取>する―される関係」だと考えているとのこと。
自分の出世や名誉のためなら、彼らは他人を犠牲にすることだっていとわないのです。
厄介なのは「嫌なのに気になってしまう」から
最初の段階では見破れないとはいえ、徐々に彼らの特性がわかれば関係を離すこともできるはず。ところが、いったん彼らに関わると「依存的な感覚が生まれてしまう」と、DaiGo氏は述べます。
その理由は、好意をもたれているのか悪意をもたれているのかわからない「不確実性」が、私たちの注意を引きつけ続けてしまうから。
米バージニア大学の研究では、自分に好意をもってくれている人物よりも、好意をもってくれているのかわからない不確実な人物のほうに興味を抱きやすいと明らかになっています。「相手は自分をどう思っているんだろう?」「何が真実なんだろう?」と気になってしまうのです。
たとえば、親しかった同僚の態度が急に冷たくなれば、「どうしたんだろう……」「私が何かしてしまったのかな?」と心配になり、それまで以上に同僚の様子を注視してしまいますよね。
そして、会えば会うほど相手に好感を抱いてしまう「単純接触効果」も加わり、「嫌なのに気になってしまう」「嫌な人なのになぜか嫌いになれない」という状態に陥るのです。なんという皮肉……。
そうなってしまったら最後、相手にますます支配されるのも必至です。
厄介な人たちに対処する方法
一度関わると、彼らは私たちにさまざまなデメリットをもたらしてきます。でも接し方に注意すれば、巻き込まれることはありません。
心理学者のプレストン・ニ氏は、対処法について以下のアドバイスをしています。
1. 観察して距離を置く
彼らは、接する人によって態度を変える特徴があります。ある人にはとても親切なのに、別の人にはとても横柄な態度をとるならば、マニピュレーターである可能性も。
そんな様子が見られたら、適度な距離を置くように心がけましょう。
2. 問いかける
理不尽さを自覚させるのもひとつの手です。たとえば、「明日までにやっておいて」と、とてもひとりでは処理できない大量の業務を強いられたら、「これは明日までにひとりでこなせる妥当な量でしょうか?」などと問い返してみましょう。
無理な要求をしている性格の悪い自分を省みることになると同時に、ターゲットとした相手がいつも素直に従う存在ではないことも認識するでしょう。
3. 断る
要求を呑むのはとても無理だと判断した場合は、断るのもひとつの方法です。「申し訳ありません。いまAの案件が忙しくて……」と、手一杯である現状を客観的に伝えて素直に断りましょう。
なんでもかんでも言いなりになっていては、彼らの思うつぼ。“相手を支配したがる性格” であることを念頭に、主導権を握らせないよう注意しましょう。
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苦手な人とも関わらないといけないのが仕事というものですが、相手の理不尽な振る舞いに屈し続ける必要はありません。時には勇気をもって自分自身を守りましょう。
ジョージ サイモン 著, 秋山勝 訳(2014),『他人を支配したがる人たち』, 草思社.
Mentalist DaiGo Official Blog|関わるとやばい人の共通点
Whitchurch, Erin R., Timothy D. Wilson, and Daniel T. Gilbert (2010), ““He Loves Me, He Loves Me Not . . . ”: Uncertainty Can Increase Romantic Attraction,” Psychological Science, Vol. 22, No. 2, pp.172-175.
Psychology Today|How to Spot and Stop Manipulators
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。