以下のうち、あなたに当てはまるものはありませんか?
- 意欲が低下し惰性で働いている
- 悲観的な思考が続いている
- 心動くような楽しいアイデアがひらめかない
もしひとつでもあるなら、心や脳に深刻な影響が及んでいる可能性大……! 悪い習慣を手放し、脳の元気を取り戻しましょう。
【NG習慣1】仕事中心の生活を送り、オフの日を楽しんでいない
オフなのにもかかわらず、仕事で必要な資料を読み込んだり、パソコン作業をしたり——もしあなたがオフの日を楽しめていないのなら、注意が必要です。
脳科学者の西剛志氏は、脳の老化は一般的な想像より早く来ると言います。その引き金となるのが、「趣味のない仕事中心の生活」。
なかには、仕事を生きがいとする人もいるでしょう。しかし、惰性でオフの日にまで仕事同様のことをしていると、心身ともに老化が進む可能性があるのです。老化と聞いて「自分とは関係ないもの」と思った人ほど、気をつけたほうがいいかもしれません。
実際、ロンドン大学の研究で、余暇活動がメンタルヘルスによい影響を与えることが示されています。
研究チームは、成人8,780名を対象として、2004~2016年の12年にわたり、2年ごとに「趣味の有無」と「メンタルの状態」を調査を実施。すると、趣味をもっている人は抑うつ症状が減少し、さらには抑うつの発症リスクが30%低下したとわかったのだそう。
驚くべきことに、もともとうつ病で趣味がなかった人も、楽しめる趣味をもつことによって、うつ症状の改善効果が見られたのだとか。
この結果に関連し、レディング大学の神経科学准教授であるシアラ・マッケイブ氏は、趣味を楽しむことは脳の報酬システムに影響を与える、と考察しています。趣味に取り組むうちに、脳内では快感や意欲をもたらすドーパミンが分泌されるとのこと。
こうした研究をふまえると、やはり趣味は心を元気にさせると言えますね。反対に、遊ぶ余裕もない生活は、意欲の低下、心の老化を招きかねないのです。
とはいえ、「何かサークルに入る必要があるのかな?」などと難しく考えなくても大丈夫。ロンドン大学の研究報告によれば、社会的な活動に参加しなくとも、ひとりで行なう趣味で十分効果があるのだそう。
たとえば、いま特に趣味がない人は、「身体を使う趣味」と「頭を使う趣味」の二種類を組み合わせてみるのはいかがでしょう。両者のメリットについて、イェシーバー大学の教授・臨床心理士のサブリナ・ロマノフ博士が以下のように紹介しています。
- 身体的な趣味……ストレスの軽減、認知力の向上、気分の改善に役立つ
例:ヨガ、ランニング、ピラティス、ウォーキング、水泳、ダンス - 非身体的な趣味……頭脳を働かせたり、創造性を高めたりしてくれる。心の健康に役立つ
例:読書、写真、映画鑑賞、音楽、料理、ゲーム
オフの日には、意識して “遊びの時間” を積極的に取り入れてみましょう。生活にメリハリがつき、オンの日に向けてきっと意欲が湧いてきますよ。
【NG習慣2】ネガティブな情報に触れすぎている
気分が悪くなるとわかっていながら、つい悲痛なニュース記事を読み続けてしまった――こんな経験はありませんか? ネガティブな情報に触れすぎると、しだいに悲観思考に陥ってしまう可能性があります。
Googleが発表した2021年の検索トレンド結果によると、「ドゥームスクローリング」という用語の検索数が、同年に世界中で過去最大となったのだそう。
精神科医・堤多可弘氏の説明によれば、ドゥームスクローリングとは、ネガティブなニュースに触れたとき、「さらに知らなくては」「悪い情報がもっとあるのではないか」と、延々と調べ続けてしまうこと。破滅(=doom)的な情報をスクロールし続ける、という意味です。
米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラーの長野弘子氏によれば、ドゥームスクローリングの背景には、「リスクを避けて身を守るために、危険な情報を集めようとする」人間の本能があるそう。
この、悪い情報に注意を向けやすい認知傾向を、心理学ではネガティビティ・バイアスと呼びます。
しかし、度を超えてまでネガティブな情報を見続けるようだと、「強迫行為」に陥っている可能性があると長野氏。たとえば、「医療情報を見逃せない」「仲間とのつながりを絶ちたくない」などの恐怖心や不安感に動かされ、延々とスクロールし続けてしまう……といった状態です。
そうしてネガティブな情報に触れれば触れるほど、不安感は増幅し、ますます悲観思考に傾いてしまうのだとか。
「最近、悪い情報ばかり見ているかも……」と自覚したのなら、長野氏がすすめる以下の方法を試してみてください。
- マインドフルネスをする
瞑想や深呼吸で、不安でたまらない気持ちを落ち着かせましょう。
健康経済学が専門のイリノイ大学名誉准教授、シャーラム・ヘシュマット博士によれば、マインドフルネスを行なうと、嫌悪感情とのあいだに距離を置き、怒りや欲求に基づいた行動をしてしまわないようなセルフコントロールができるのだそう。 - 自然と触れ合う
自然との触れ合いにも、気分を落ち着ける効果があるとのこと。
ヨーク大学ほかが発表した研究によると、ガーデニングやウォーキングなどの自然環境での活動には、抑うつ気分の改善・不安の軽減・ポジティブ感情の増加をもたらす効果があるのだそう。花や緑などにリアルに触れて、ネガティブなニュースから気持ちを切り替えてみましょう。 - 不安を書き出す
ノートなどに、いまある不安を書き出すと、その不安をうまく処理できるそうです。長野氏がすすめるやり方は、「不安なこと」「それが起こりそうな確率」「起こらないためにできること」「起きた場合の対処方法」「起きた場合に学べること」を整理して書くこと。不安を客観視し、“自分がコントロールできることに焦点を当てる” のがコツだそうですよ。
現代において、スマートフォンは手放すことができないもの。情報と上手につき合うために、心の切り替えができるようにしましょう。
【NG習慣3】常に忙しくしている
充実した時間を過ごすために、あえて忙しくしていませんか? じつは、脳の働きを落とさないためには「退屈さ」が必要なのです。
脳科学者の茂木健一郎氏が、忙しい生活を送っている人は、脳の「思い出す機能」が弱っている可能性があると指摘しています。仕事で使う脳回路、家族のケアで使う脳回路……など、忙しさの原因となる単一の回路しか使わなくなってしまうからだそう。
逆に、何もせずぼーっとした時間をもてれば、脳は、記憶を整理し思い出す機能を働かせられるとのこと。
その理由は、脳の「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という神経回路にあります。
何か作業に集中しているとき、DMNはオフの状態です。しかし、何もしないでぼーっと心をさまよわせていると、DMNは活性化。すると、記憶を整理できるほかにも以下のメリットが得られるのだそう。
- 新しい気づきが得られる
- 創造性が高まる
- ストレスを解消できる
将棋棋士の羽生善治氏も、休日にはあえて何もせず、何時間もぼーっとするのだとか。これについて茂木氏は、羽生氏は退屈な時間をもつことで脳をメンテナンスしているから、将棋の対局中にあれほどの力を発揮できるのだろう、と述べています。
また、心理療法士のブライアン・ロビンソン氏は、空白の時間があることにより、創造性だけでなく意欲や生産性までも高まりうると言います。ビジネスパーソンにとって、“何もしない時間” は決してムダではないのですね。
散歩して木々の色合いを眺めたり、ソファに座ってゆっくりしたり——ぜひ、生活のなかに空白の時間を取り入れてみてください。
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今回の記事を参考に、ぜひ生活習慣を見直してみましょう。心の元気を取り戻して、あなたの仕事と生活の質が、よりよいものに変わっていきますように。
(参考)
東洋経済オンライン|「仕事中毒だと脳が老化する」脳科学者が言うワケ
Karger Publishers|Fixed-Effects Analyses of Time-Varying Associations between Hobbies and Depression in a Longitudinal Cohort Study: Support for Social Prescribing?
The Conversation|The science behind why hobbies can improve our mental health
Verywell Mind|How to Choose Hobbies for the New Year
Google|Year in Search: 検索で振り返る2021
@DIME|世界中で検索数が急増!カウンセラーが解説する「ドゥームスクローリング」の原因と対策
mentally|日々流れる「ネガティブなニュース」にどう向き合う?自分を守る方法を専門医が解説
Verywell Mind|What Is the Negativity Bias?
Psychology Today|7 Lessons in Self-Control We Can Learn From Mindfulness
PubMed|Nature-based outdoor activities for mental and physical health: Systematic review and meta-analysis
プレジデントオンライン|毎日心地よく暮らす人の脳は危険な状態にある
Forbes JAPAN|神経科学者が「退屈は脳の健康に良い」と言う理由
PRESIDENT WOMAN Online|10連休明け絶好調になる「最高の休み方」
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。